061 唯、台本を知る。
翌朝、ドアノブの修理を始めた私。カイルくんも手伝ってくれてるけど、仕組みがわからなすぎる問題が発生中。そもそもドアノブなんてとりつけたことないし、私は説明書が読めないタイプなんです。えっへん。…絶対に胸をはるところじゃないんだけど。
「違うよお姉ちゃん。ほら、こっちを先にしないと…。」
カイルくんが指差した先、言われてみればたしかに。
「そっか。こっちだと開けられなくなっちゃうもんね。」
「お姉ちゃん…ほら、貸して。俺がやるよ。」
「あ…あははは…。」
全力で苦笑いを浮かべつつ、ドライバーを手渡した私。5歳の男の子に呆れられる22歳って…。振り返ると、ガーネット姫と女将さんがとーっても優しいまなざしを送ってくれた。…憐れみじゃ…ないですよね?
「これをこうして…お姉ちゃん、そっち持ってて。」
「はいはい。」
すっかりお手伝い係になりました。背後からは憐憫の視線を感じています。どうも、22歳のユイです。
「よし、できた!」
さすが棟梁、完璧です。え…?右下の不自然な穴は何かって…えっと…それは、私が失敗したとこです…はい。
「ユイさん、カイルくん、ありがとう。」
「いえ…壊したの私ですし…。カイルくんもありがとね。」
「うん。…それで…お姉ちゃん、すごい人は…いつ来るの?」
「えっとね…たぶんお昼過ぎだと思うんだけど…。」
ヒマワリの町からここまで、徒歩だと丸1日かかる。ただ、クロックさんはギルドマスターでありながら、高ランクの冒険者でもある。…忘れがちだけど。そしてBランクになると受けられる有名なクエストがあるそうで、それをクリアすると、ある移動手段が手に入る。それを使えば、数時間ほどで到着できるらしい。ちなみに全部、ガーネット姫からの受け売り情報。
―――でも、クロックさんもお忙しいだろうし…明日になるかもかな。
もうひとつちなむと、ガーネット姫にはちゃんと許可をもらった。かなり余裕をもった予定だったけど、数日ここに泊まるかもしれない。まぁ、どうしようもなくなったら、ガーネット姫を先に王都へ送って、私だけ戻ってくるっていう方法もあったりするし。
『ぴよ…?ぴよよ』―――むぅ…?誰か来たみたいだよ…。―――
目をしょぼしょぼさせてたフリルさまだったけど、気配にはとっても敏感だった。念のため私がドアを開けて確認してみる。
―――えーっと…あっ!
高ランク冒険者の移動手段、魔法馬から降りたクロックさん。魔法馬は読んで字のごとく、魔法で召喚された馬のことで、フリルさまみたく魔法的な存在。個性ある見た目で、クロックさんの魔法馬は真っ白な毛並みだった。いわゆる白馬…かっこいい。
「クロックさー…!?」
声をかけようとした瞬間、もう1頭の真っ黒な魔法馬に気づいた。そしてそこに乗っていた人物?に驚いたのなんのって…。一旦、見なかったことにして、ドアをゆっくりと閉める。
―――落ち着け私。今のは…きっとオバケかなんか…。
よくわからない思考を辿って心を落ち着ける私。そわそわしているカイルくんに「ちょっと待ってね」みたいな視線を送り、もう一度ドアノブに手をかける。今度は壊さないように優しく。
「…!」
こちらに向かってくるクロックさんと、真っ黒い服装に身を包んだ…。
―――な…なんで指揮者が…!?
ヒマワリの町におけるモンスター大侵攻、それを引き起こした張本人がそこにいた。私が捕まえてギルドに引き渡したはずなのに…どうして。混乱が混乱を呼び、再びドアを閉めようとする私。
「む?あ、ユイ殿ー!」
気づかれちゃった。もう一度カイルくんに「ちょっと待ってね」の視線を送り、外へ出る。
「わざわざすみません…。」
「いえ!ユイ殿のご依頼とあれば、このクロック、何をおいても駆けつけます!」
「ありがとうございます…あの…それで…。」
左方へと視線を送る。
「ユイ殿のご依頼に役立つと思いまして…連れてきました。」
「連れてきたって…。」
丸投げしておいてあれだけど…私、手紙には「指揮者がもってたアイテムとか使うと、信ぴょう性が増すかもしれません。」と書いただけ。指揮者を連れてきてなんて、もちろん頼んでない。というか、ギルド本部に移送されたはずじゃ…?
「あの…。」
なんだかもじもじしている指揮者。それを目線で制すギルドマスター。そうだった、私、怖がられてるんだった…。
「実はですね…説明が難しいので、資料をつくってまいりました。」
「…?」
びっくりしすぎて反応に困った私。クロックさんから手渡されたのは、A4サイズの紙が1枚。そこには。
―――
1.王都ギルドで取り調べを受け、魔王軍の情報をあっさりと白状
2.担当者に「ヒマワリの町へ戻り、塀をなおさなければならない」と懇願
3.困惑したギルド本部は、ヒマワリの町への移送を決定
4.ヒマワリの町の塀や建物を修繕
5.町の人と仲良くなり、今は町の門番
―――
どうしてこうなったオブザイヤーの大賞が決定しちゃった。特に5番の意味がわかんない。なんで魔王軍と仲良くなっちゃってるの。しかも門番って…。
―――侵攻する側が守るって…?
もうわかんない。諦めよう。理解を諦めた私は、とりあえず受け入れることにした。敵意はなさそうだし。
「…というわけでして。ハゼン!」
「はいっ!」
ものすごくピシッとした返事とともに、指揮者…もとい、ハゼンさんが走ってきた。
「あの…ご無沙汰しております。元魔王軍幹部のギンガ…本名、ホン=ト=ハゼンと申します。その節は…大変にご迷惑をおかけしまして…申し訳ございませんでした…。」
地面に額をこすりつけているハゼンさん。いや…えっと…。
「も、もう大丈夫ですから。あの…大きな損害もありませんでしたし…。」
「な…なんとお優しい…。実は私、ユイお嬢様のお力を目の当たりにして、魔王に仕える意味がわからなくなり…魔王軍を辞めました。今は、せめてもの罪滅ぼしにと…ヒマワリの町で働かせていただいております。」
格好は昔のままだけど、中身が入れ替わっちゃったんじゃないかレベルの変わりようだった。
「…ということなんです、ユイ殿。それでですね、その少年の件、ハゼンに聞いたところ、良い方法を思いついたとのことで…。」
「はい…僭越ながら…。」
身を縮こまらせているハゼンさん。大丈夫、もうデコピンはしないから。
「よろしいでしょうか?」
「は、はい。」
不安でいっぱいだったけど、クロックさんに丸投げしたのは私だし。あと、正直なところ、良い方法があんまり思いついていない。
そんなこんなで始まった、ハゼンさんの大芝居。




