060 唯、キュンとする。
「よしと…。」
お手紙のあて先はヒマワリの町がほこる最強のギルドマスター、クロックさん。要するに…丸投げしました。…一応、考えてることはあるので…許してください。
―――あとは…どうやって届けるかだね。
「あの…そういえばフリルさまは…?」
「あれ…?」
ガーネット姫に言われて気づく。そういえばさっきから姿を見ない。宿屋に聞いてまわっているときは、横でぴよぴよ聞こえてたから…オバケ騒動の話になってからか。
―――あ…もしかして…。
「フリルちゃん!オバケはいなかったよ。」
『ぴよ…ぴよ…ぴよ?』―――怖い…怖い…オバケ嫌い…え、ほんと?―――
ものすごく小さくなっていたフリルさま。比喩ではなく、物理的に。
「うん。だからもう大丈夫だよ。」
『ぴよよ…』―――よかったー、もとに戻ろ。―――
ポンっと膨らんだフリルさま。かわいい。
「あの…その鳥さんは?」
「あ…ごめんなさい。ここ食堂でしたよね…。」
フリルさまは魔法的な存在なので、衛生的な問題があるわけじゃないんだけど…。雰囲気的にあんまりよくはないよね。
「あ、いえ。それは構わないのですが…かわいいなぁって思いまして…。」
よくみると、女将さんが愛らしい表情でフリルさまを見つめてる。それに気づいたフリルさま、必殺の「小首を傾げるポーズ」でハートを射抜きにいった。
―――ズキューン
『ぴよよ…ぴよ』―――ボク…なんて罪な存在…。―――
どうやら成功したようで、満足気な鳴き声をあげたフリルさま。言葉は間違ってる気がするけど…末恐ろしや。
―――あ…そうだ!
「コホン…あの、フリルさま?」
『ぴーよ?』―――ユイちゃん、なぁに?―――
「フリルさまって、すっごいんだよね!」
『ぴよ?ぴよよ、ぴよ』―――え…?もちろんだよ!ボクはプリンチペッサ・フリル。鶯遷の三鳥が一。実力と知性、あとかわいさを兼ね備えた、最強の存在だよ!―――
「そうだよね!すごいなー、そんなフリルさまだったら、ヒマワリの町なんてひとっとびだよね?」
『ぴよよ!』―――当然だよ!ボク、転移だってできるから、ちょちょいのちょいだよ。―――
「ユイ…?いったい何を…?」
「そっかー!私、フリルちゃんのすっごいところ…見てみたいなー。」
ユイ・ハラグロモード、全速前進。
『ぴよ?ぴよよ!』―――見たいの…?仕方ないなー。ユイちゃんの頼みだし…ボクの力、見せてあげる!―――
「うれしい!じゃあ、ヒマワリの町まで行って、戻ってきてほしいな!あ…これを町の衛兵さんに渡してね。」
そういって手紙を渡す。ぐへへ。
『ぴよ、ぴよよ、ぴよ』―――ボクが町まで行った証拠だね。よーし、最速でいってくる!ちゃんとはかってね、タイム!―――
「うん!行ってらっしゃーい!」
魔法陣のなかに吸い込まれていったフリルさま。この世界で最速の「配送システム」が完成しました。ぐへへ。
■
淹れていただいてたお茶を一口。フリルさまが戻ってくるまで、とりあえずの世間話を続けてる。
「じゃあ…女将さんが『オバケ!』って叫んじゃったのが…噂の原因なんですか…?」
「どうやら…そうみたいです。」
小さくなっている女将さん。なんだか私と同じにおいがするんだけど…気のせいかな。
オバケ騒動の真相はこうだった。数日前、おなかペコペコのカイルくんが物置に侵入した。物音を聞いたお客さんが、女将さんに「何かいるんじゃない?」と相談。ここで盛大な早とちりが発生し、物音の正体はオバケだと思いこんじゃったそう。女将さんの慌てようから、お客さんも盛大に勘違い。「この宿屋はオバケが出る」と思い込んでしまった。
―――そう思ってると…なんでもオバケのせいになっちゃうもんね…。
それこそ枯れ尾花がオバケに見えちゃうみたいに。噂は怖いもので、すぐに広がってしまった。そんな女将さんに追い打ちをかけるように、昨夜のケーキ盗難事件が発生。もう完全にオバケのせいだと思いこんじゃっての…今日につながってた。
「まぁ…良かったよ。オバケじゃなかったわけだし、カイルくんも元気なようだし。」
「そうね…うん。」
そうそう、オバケじゃないとわかって私も一安心。今日はぐっすり眠れそう。そんなこんなで話が丸くおさまったころ、魔法陣が出現した。
『ぴよよー!』―――ただいまー!ユイちゃん、タイム!タイム!―――
「おかえりー!ありがとね…えっと、ちょうど3分!」
『ぴよ!ぴよよー!』―――本当に!?へへーん、がんばった!―――
胸を張ったフリルさま。かわいらしい鳴き声も相まって…キュンです。そんなフリルさまをなでなでする。ひんやりしていて気持ちいい。私はハラグロモードに若干の罪悪感を抱きつつ、かわいさの虜になるのでした。むふふ。




