059 唯、心配する。
―――バキッ
嫌な音がした。
「ユ、ユイ!?」
力加減を間違えまして、ドアノブが取れました。バグステータスはこういうときに厄介。ぴえん…。
「ご…ごめんなさい!」
「あ…いえ…老朽化していたので…はい。」
あっけにとられる女将さん。本当にごめんなさい。今日中にちゃんと直します。…っと、その前に。地図を頼りに捜索開始。窓のない物置のような一室で、ドアはここのひとつだけ。逃げられる心配はなさそう。
―――ここの棚の…かげ…。
バグステータスがあるけど、一応の警戒はしておく。基本書の説明欄にも「危険性はないが敵意がある」って書いてあったし。
「みーつけた!」
もぞっと動いた存在に気づき、反射的に声をかけた。
「うわっ!?」
「あ、待って!」
逃げ出そうと飛び出してきた存在と、暗闇のなかで大格闘。さすがに人相手なので、強引なことはしづらい。それに、さっきのドアノブの件があるので、力をセーブしまくってる。
「あ…ちょっと!どこ触って…ヘンタイ!」
「ふぎゃっ!?」
あ…ごめんなさい。力加減が…。
「ユイ、大丈夫ですか!?」
「うん。捕まえたよ!さー、ドロボウ、観念しなしゃい!」
噛んだ。なぜここで。
「ひぃぃぃっ!ご、ごめんなさいーっ!」
―――ぐぎゅぎゅるるるぎゅ
「へ?」
盛大に鳴り響いたのは、おなかの音。あっけにとられる私。
「ユイ、明かりを!」
ガーネット姫が室内に明かりをくれた。ランタンに照らされた先、私が捕まえていたのは…。
「こ…子ども!?」
まだ5歳くらいの男の子だった。
■
「ごめんなさい…。おなかが空いて…お金もないし、もうどうしようもなくって…。」
宿屋のご夫妻に頭を下げている男の子。ホウキでもって追い払おうと息巻いていた女将さんも、まさかの事態に困り顔だ。
「うむ…。ちょっと出てくる。」
「あなた…。」
ギルドの職員さんを呼びに行ったんだと思う。ギルドは冒険者のための組織であって、厳密には国の組織じゃない。でも、実力と指揮系統が確立されている組織でもあるわけで…法執行機関としての一面も持ってる。この前の指揮者の件もギルドが対応してるみたいに。
「ただいま。」
―――あれ…?
ものの数分。ギルドの出張所、そんなに近かったっけ?
「さぁ、食べなさい。」
テーブルに並んだのは、おにぎりや唐揚げ、サラダやプリンまで。
「…いいの?」
「プリンを盗んだのは悪いことだが…おなかが空いて困っているのとは別の問題だ。見ればひとりぼっちのようだし…ひとまず話を聞こう。ミチ…それで良いかい?」
「えぇ、もちろんです。」
おいしそうにおにぎりを頬張った男の子。それを柔らかい表情で見守っているご夫妻。宿屋に忍び込んだり、プリンを勝手に食べたり…たしかに悪いことだけど…。ギルドに突き出すかどうかは、この宿屋の人の胸一つ。私は…触られたけど…あれは不可抗力だったし…。
「ガーちゃん…。」
ひとつ気になることがあるとすれば、ガーネット姫がここにいること。国王家に名を連ねる存在なので、違法行為を見て見ぬふりというのは…。
「ふふふっ…ユイ、私、そこまでおかたい人間じゃありませんよ。安心してください。今は冒険者のガーネットです。」
心配事は筒抜けだったみたい。ガーネット姫はいつも通りの優しい微笑みを浮かべてた。
■
「それで…僕、名前は?」
おなかいっぱいになった男の子を確認し、女将さんがゆっくりと質問をはじめた。ちなみにプリンを盗んだ件については、ドアノブの修理を手伝うということで…今回だけ穏便に済ませてもらえることとなった。もちろん私が主体と修理します…壊したの、私だし…。
「カイル…です。」
「カイル君はどうしてここに?」
カイルくんの言によると、カイルくんは妹さんとふたり、王都の施設で暮らしているらしい。両親とは幼いころに生き別れたらしいんだけど、ガーネット姫曰く、おそらく亡くなられたのでしょう…とのことだった。そして年1回のカニ祭り…大きなイベントに行けば両親と再会できるのでは…そう考えた結果のひとり旅だった。
「そうだったのかい…。それで、妹さんは?」
「妹は…病気にかかっちゃって…それで、俺、妹を助けたいんだ!」
「お医者さまには診ていただいたのですか?」
「うん…でも、すごく強い魔法のせいみたいで…。お姉ちゃんたちって、冒険者なんだよね?」
急に話を振られた私たち。優しく頷いたガーネット姫とは対照的に、慌てて杖を探す私。…あ、杖…持ってないんだった。
「う、うん。そだよ。魔法使い。」
杖ないけど。
「じゃあ…どうやったら『魔王軍』に入れるか…俺に教えてほしいんだ!」
「えっ!?」
あまりにも想定外な、突然の闇落ちパターン。さすがにこれには驚いたようで、ガーネット姫も目を見開いてる。
「どうして…魔王軍なんかに?」
「だって…強いんでしょ?魔王って。だから、それくらい強くなれば…きっと、妹にかけられている魔法だって…。だから、お姉ちゃん!お願い、俺は魔王軍に入らなきゃいけないんだ!」
カイルくんなりに導き出した答えに、困ってしまった大人が4人。魔王軍のところなんか行かせるわけにはいかない。危ないし、悪の道におちてしまったら、妹さんだって悲しむ。ただ、王都からここまでひとり旅をする度胸を持った男の子。体よく断っても、またどこかで同じ思いを抱きかねない。
「うーん…。」
姿勢をかため、唸りながら考える。魔王軍…魔王…力…最強…病気…。関連ワードが頭を駆け巡るなか、ひとつの単語にピンとくるものを感じた。
「実はね…お姉ちゃんの知り合いに、すごい人がいるんだ。お手紙を書けば来てくれると思うから、会ってみる?」
「本当!?もちろん!」
「ユ、ユイ!?」
突然の請負に慌てふためいた様子のガーネット姫。大丈夫、大丈夫。私に任せといて。胸をポンと叩き、へたっぴなウインクを1回。紙とペンを取り出し、サラサラとお手紙を書き始めた。
お読みいただきありがとうございます!本話より、構成方法を一部変更させていただきました。試行錯誤の連続ですが、あたたかく見守っていただけますと幸いです。
評価・感想などいただけますと、パソコンの前でこっそり狂喜乱舞します(笑)
今後ともよろしくお願いいたします!




