表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/156

057 唯、しぶしぶ受け入れる。

「あの…もしよろしければ、うちの宿屋、空きがありますけども…。」



エプロン姿の女性に声をかけられた私たち。どうやら宿屋の女将(おかみ)さんらしい。



「本当ですか!?ありがとうございます。泊まるとこなくて…困ってたんです。」


「よろしくお願いします。」


「そうですよね。去年まではここまでなかったのですが、今年は祭りで賞品争奪(そうだつ)のイベントがあるそうでして…さ、どうぞどうぞ。狭いところですが。」



アクドーイの宿の丁度向かい、看板代わりに描かれていたのはお花の絵。街道に咲いているお花そっくりなので、どうやらハナミズキらしい。ちょっと古風な感じで、素敵な宿屋さん。



「お邪魔しまーす。わぁ…すごいお花ですね。」



入口すぐの場所に、私の身長ぐらいありそうな生け花が飾られていた。素人目にも圧倒(あっとう)される絢爛(けんらん)さ、それでいてどこか落ち着きを感じる色調(しきちょう)。こういうの大好き。アクドーイの宿なんかとは「品」が違う。



「ありがとうございます。…私の趣味(しゅみ)でして…。」



照れるように顔を(おお)った女将さん。でも…それとは別に、ちょっとだけ気になることがひとつ。



―――…失礼だよね。でも…聞かないとあれだし…。



「あ…どうしてこんな繁忙期(はんぼうき)に空き部屋があるのか…ですよね。」


「いえ…そんな。」



表情を読まれてしまったみたい。その…ごめんなさい。



「良いんです。実は、半年ほど前からお向かいさんが盛大なキャンペーンを始められまして…。うちもお安くして対抗しようとは思ったのですが…何分、小さな宿屋。勝てるわけもなく…。」


「そうだったんですか…。」



そういうのも競争のひとつなのかもだけど、限度というものがある。あの感じだから、きっととんでもないやり(くち)だったんだと思う。



「むぅ…またお父さまにお話しせねばならないことが。」



頬を膨らませるガーネット姫。どうやら更地(さらち)じゃ済まなくなりそう。あーあ、かわいそう。全然かわいそうなんて思ってないけど。



「それだけならば良かったのですが…(うわさ)がたってしまいまして…。」


「噂…ですか?」


「はい…実は…出るらしいんです。」


「…出る?」



両手を胸のあたりに持ってきた女将さん。そのしぐさに、思い当たるものがひとつ。高いところも狭いところも平気な私だけど、これだけはダメというものがひとつ。



「オバケが。」


「…。」



はい、無理です。無理です。絶対無理です。ヒュンって冷たい感じが背中を走りました。ガーネット姫、王都に行きましょう。何なら野宿(のじゅく)でも良いです。



「オバケなんて迷信(めいしん)ですよ。昔から言うじゃないですか。幽霊(ゆうれい)の正体みたりモンスターって。」



ガーネット姫、何をおっしゃっているのですか。あと、こっちだとモンスターなんだ。()尾花(おばな)じゃなくて。



「そう言っていただけるとありがたいのですが…。」


「大丈夫です。さ、ユイ。ここに()まりましょう。…ユイ?」



お願いします、勝手に話を進めないでください。



「む、無理…。」



顔面蒼白(そうはく)の私。オバケだけは無理なの。絶対に無理。あと…ガーネット姫も無理じゃなかったっけ。迷いの森に入ったとき、キャーって言ってた記憶があるんだけど…。



「大丈夫ですよ。あの3分間の恐怖に比べれば、オバケなんて。」



即席(そくせき)ジェットコースターはオバケよりも怖かったらしい。斬新(ざんしん)すぎる角度から墓穴(ぼけつ)を掘ってしまった私。ガーネット姫をジェットコースターに誘わなければ、「オバケは無理」という共通認識が維持(いじ)できてたのに。



「…。」



もう、泣きそう。ひとりだったら絶対泣いてる。



「うーん…では、オバケ騒動の原因を突き止めましょう!そうすれば、ユイも安心して泊まれるでしょう?」


「そ…それは…そうだけど…。」



なんだか簡単にまるめ込まれてしまった私。ちょろすぎる自分に悲しみが(あふ)れる。



「そうしましょう!女将さん、よろしいですか?」


「えぇ、もちろんです。でも…本当によろしいのですか?」


「はい。ね、ユイ!」



しぶしぶ…しーぶーしーぶ(うなづ)いた私。しぶしぶね。ここ大事。…まとまっちゃった。はぁ…。


こうして始まったオバケの正体を突き止めちゃえ大作戦。腰引けまくりの私、その絶叫が幾度(いくど)となくこだましたことは…言うまでもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ