056 唯、真逆のことを願う。
「ほわぁぁぁぁーっ…やっほーぃ!」
位置エネルギーと魔法を使いまくってハイテンション、どうもスピード狂のユイです。氷魔法で道をつくり、風魔法で突き抜けていく。わからないタイムリミットを回避すべく、全速前進中の即席ジェットコースター。
『ぴよ…ぴよよ…。』―――これは夢…これは夢…。
「そうです…これは夢です…。目を瞑っていれば一緒です…。」
―――たしかに夢みたい…。えへへ、楽しい!
「ガーちゃん、平気?」
「…はい。速すぎですが…ちょっと…慣れてきました。まだ…目は開けられませんけど…。」
『ぴよ!?』―――ガーネットさんもそっち側に!?
出発して2分くらいかな。ぐんぐんと近づいてくる地上。おそらくだけど、この世界最速の移動手段をつくり出しちゃった私。転移魔法は使えないみたいだけど、これがあれば十分かも。
ちらっと後ろを見てみたけど、氷のコースは未だ健在。もう少しゆっくりにしても大丈夫かな。いや、「いつまでもあると思うな親と氷」って誰かが言ってた。アクセル全開で行こ。
「とうちゃーくっ!」
風魔法を逆噴射して、ゆっくりと停止する即席ジェットコースター。やむを得ず解禁したトップスピードによって、到着までかかった時間はジャスト3分。カップ麺生活を送っていた私の体感だから、きっと間違いない。
『ぴ…ぴよ…。』―――た…助かった…。
へなへなと羽を垂らしたフリルさま。心なしかアホ毛も垂れてる気がする。その…ごめんね。
「ユイ…。」
「うん?」
俯きかげんのガーネット姫。今回ばかりは、さすがに怒られるかな。
「楽しかったです!」
「へ?」
想定外の反応に、目が点になっちゃった。楽しかった…の?
「こんな速さで移動したの、生まれてはじめてです!鳥さんになった気分です!」
目をキラキラさせているガーネット姫。どうしよう…お姫さまをスピード狂にしちゃったかもしれない…。
■
―――これ…消えるのかな?
数分待っても消えない氷のコース。さっきは消えないでと願ってたのに、今は真逆の感情がうまれてる。全長約20キロメートルの氷。モニュメントとしては良いのかもだけど、さすがに迷惑だよね。
―――ん…?20キロを3分ってことは…。
およそ時速400キロ。新幹線をこえました、わーい。
「消えませんね…。」
「うん…。邪魔になっちゃうよね。」
「空中なので良い気もしますが…落ちたりしたら危ないですよね。」
「だね。」
とりあえず基本書をパラパラとめくってみる。
―――魔法を消す魔法…魔法を消す魔法…。
「あった!えーっと…魔法削除!」
青白い魔法の光に包まれた氷のコース。光の粒子となって霧散した。
「おぉー、すご!」
「もう…何が起きても驚かなくなりました…はい。」
『ぴよ…ぴぴよ…ぴよ。』―――賢者さまと同じって思ってたけど…ユイちゃんは賢者さまを超えてるよ…。
「えへへ…。」
褒め言葉として受け取っておこ。それはさておき。
「ガーちゃん、どうする?ここまで来れたから、王都まで行けそうな気がするけど?」
半日かかる道のりを3分ですっ飛ばしたので、まだお昼ごはんにも早いくらい。王都まではあと10キロと標識にあるので、2時間くらいで着けると思う。
「そうですね…。いえ、ここで泊まりましょう。タンクにも『早くても明日以降』と伝えていますし、急ぐこともないでしょう。」
「そっか。うん、わかった。」
ちょっと悲しげな表情のガーネット姫。そりゃそうだよね。政略結婚を前にうきうきするなんてこと…ないもんね。
「さて、どこに泊まりましょうか?」
街道沿いを見渡すと、10メートル間隔くらいで宿屋さんが並んでる。そして何だかとっても賑わっている。冒険者はもちろん、商人らしき人もたくさん。街道は人でごった返していた。
「冒険者さんがいっぱいだね。」
「そうですね。普段、ここまでのことはないのですが…。」
とりあえず見てまわることにした私たち。「左は王都へ、右はハナミズキ・タウンへ」と書かれた標識をスタート地点として、ハナミズキ街道をまっすぐと。
「うーん…ここも満室みたいだね。」
「こっちもです。どうやらハナミズキ・タウンで年1回のカニ祭りがおこなわれているそうでして。」
「それでこんなに賑わってるんだ。」
「みたいです。次、行ってみましょう。」
「うん。」
それからいくつもの宿屋さんをまわったけど、どこもかしこも満室、予約でいっぱい…だった。残された宿屋さんは2つのみ。王都まで行けないことはないので、野宿の心配はないけど。
「こちらから聞いてみましょう。アクドーイの宿ですね。」
なんだろ、ネーミングが。それはさておき、外観も結構すごかった。お城みたいな感じで、金色の銅像まで設置されている。高そう。
「あの…すみません。」
「はい!ようこそお越しくださいました。アクドーイの宿、支配人のアク=ドーイです。」
お名前だったのね。これは失礼しました。
「…なんだ、冒険者か。」
「え?」
接客業にはあるまじき対応が返ってきたので、一瞬、思考が止まってしまう。
「さあ、帰ったかえった!ここはお金持ち専用の宿屋なんだ。冒険者ふぜいが泊まれるところじゃないの。」
「え!?ちょ…ちょっと。わっ…。」
抗議もむなしく、外に押し出されてしまった。名前どおりの宿屋だった。お金持ちになれても、絶対行かない。ふんっ。
「もー!ここの宿屋おかしいよ!」
憤る私。それに比べて至って冷静な様子のガーネット姫。
「ユイ、怒る必要はありませんよ。お父さまにお話しすることが…少し増えましたね。」
不敵な笑みを浮かべたガーネット姫。そうだった。ガーネット姫のお父さんって、国王さまだった。たぶん、数日後には更地になってるんだろうな。怖い。




