055 唯、風を感じる。
朝ごはんもいっぱい食べて、村の出口へとやってきた私たち。今日中にハナミズキ街道まで出ることができれば、十二分の余裕をもって王都に到着できる。
ガーネット姫の結婚…正確にはお見合いの日どりは、今から10日後。いろいろとハプニングはあったけど、無事に辿りつけそうで何より。
「本当にありがとうございました。そして、フリル様のこと、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、お世話になりました。」
見送りをしてくれる村の人たちに向けて、頭をペコリと下げる。フリルさまはというと、私の頭上という定位置でおくつろぎの真っ最中です。
「カノンさんはこれからどうされるんですか?」
「私?あ、そっか。寒波は解決したんだから…。でも…私、この村に残るよ。物流が完全復旧するまで、まだ少しかかるだろうし…。王都の有名ドーナツも届けてあげなきゃいけないし。」
「そうですか…。わかりました!」
異常な寒波がおさまったため、タケノコの村は日常を取り戻していくはず。薪運搬の依頼も平常運転に戻るだろうし。なにより旅は道連れ世は情け。カノンさんも一緒に…と思っての問いだったけど、冒険者は自由。カノンさんにはカノンさんの冒険が待っている。
ひとしきり挨拶を済ませて、いよいよ出発。
「あの…皆さん、道はこちらですが…?」
たしかに村の出口とは逆方向だけど、今回ばかりは方向音痴が発動したわけじゃない。
「あ…えっと…フリルちゃんのお家あたりを見ていこうかと…。」
「そうでしたか。どうぞ。禁足地は既に開放されておりますので。」
誤魔化す必要はなかったかもだけど、もし見られてて失敗したら恥ずかしい。徒歩で半日近くかかる道のり…直線的に結ぶとはいえ、そんな壮大なコースを作ったことないし。安全性という言葉はもとの世界に置き忘れてきた私。もちろん防御魔法は使うから、何かあっても大丈夫だけど。
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「それじゃあ…。」
禁足地そばの岩にのぼり、やっほーと叫ぶ…じゃなかった、ハナミズキ街道の方向を眺める。方位磁針は持っているので、方向はばっちり。距離感覚はnotばっちり。一発で結ぶと大事故になりかねないので、滑りながら氷魔法を発動することにした。とりあえずプールくらいの長さで。
「あ…あの、ユイ。できる限りゆるやかーな感じでお願いします。」
「大丈夫、大丈夫!」
もちろん安全を最優先しますとも。
『ぴ…ぴよ?』―――ユイちゃん…何するの?
「うん?大丈夫!大船に乗ったつもりで、ね?」
『ぴよ…?』―――な…なんだか怖いよ。
定位置を離れ、ガーネット姫の背中に隠れるフリルさま。怖がられちゃった。どうやら無自覚賢者への信頼度は低いみたい。
「過ぎ去りし氷点下―――モメンターン・フリーレン!」
やっぱり力加減は難しかった。50メートルくらいを狙っていたのに、500メートルくらいのコースを形成してしまった。目を細めないと先端が不明。氷でできた滑り台みたいのコースで、座席のかわりに壊しちゃった扉を設置する。
―――そういえば…これって、そりなんじゃ…?
いまさらながら気づいちゃった事実。気づかなかったことにしよう。これは即席のジェットコースター。うん。そういうことにしよ。
『ぴよ…?』―――こ、これに乗るの…?
「そだよ。大丈夫、ガーちゃんもフリルちゃんも、ちゃんと防御魔法で守るから。」
私はバグステータスがあるから大丈夫。
『ぴよ…ぴよよ。』―――ボクは…自分で飛べるから…大丈夫かな?
逃げようとするフリルさま。そんなに信用ないかな。まぁ、無理強いはできないし。
「ガーちゃん、本当に無理そうだったら…普通に歩くけど…?」
「…いえ、大丈夫です!これくらい乗り越えられなければ、私はユイに追いつけません!」
「うれしいけど…無理はしないでね。」
「…はい…本当に無理だったら、引き返してください…。」
「うん。」
本物のジェットコースターと違って、このすべり台…じゃなかった、即席ジェットコースターには動力がある。風魔法で加速と減速をしてるので、逆噴射すれば坂をのぼることだってできちゃう。引き返すのだって簡単。
『ぴよよ…ぴよ!』―――よーし、ボクもがんばってみる!
そう言って定位置に戻ったフリルさま。いつもより、心なしかアホ毛をつかむ力が強い気がする。
「よーし!しゅっぱーつしんこー!…風の伝手!」
妙な節をつけちゃったけど、合図としての機能は果たせた…はず。恥ずかしさに気づく前に、座席部分に防御魔法を施して、滑りをよくする。位置エネルギーを利用しつつ、ゆっくりと出発した。ちょっと小走りくらいの低速運転。
「おぉー…ちょっと慣れま…せん…た、高いぃぃっ!」
大絶叫のガーネット姫。
「ガーちゃん…大丈夫?」
「はいぃぃっ、大丈夫ですっ!」
それから数分後。
「わぁーっ!王都ですよ!王城がきれいに見えます!うわぁー、景色もすごいです!」
『ぴよ!ぴよぴよ!』―――楽しいー!飛んでるみたい!
「でしょー!って、フリルちゃんはいつも飛んでるんじゃ…?」
『ぴよ?ぴよ。…ぴよー!』―――そうだった。忘れてた。…でも楽しいー!
よかった。即席ジェットコースター…もとい、即席の観覧船…?は大人気みたい。これはこれで楽しいけど…。
「ユイ!スピードアップしましょう!」
「え…いいの?」
「はい!風が…とっても気もち良いです!」
お墨付きをもらいました。では…お言葉に甘えまして。
「風の伝手・皆伝!」
全速力で行きたかったものの、さすがに。とりあえず馬車くらいの速さに合わせてみた。たしかこれくらいだったと思う。
『ぴ、ぴよー!』―――風すごーい!気持ちいー!
「きゃーっ!最高です!」
「でしょでしょ。楽だし、良いでしょ。」
ここぞとばかりに宣伝する私。これからもユイ交通をよろしくお願いします。
「あの…ところで、この氷のコースって…消えないんですか?」
「…。」
『ぴよ…?』―――ユイ…ちゃん?
数秒後、ガーネット姫は目を瞑り、フリルさまは上着のなかへと退避。やむにやまれぬ事情により、全速力のジェットコースターが解禁されたのでした。めでたし…?




