054 唯、カニを数える。
お疲れ様会は無事にお開きとなりました。とても緊張しました。いつまでたっても慣れません。御陰様をもちまして、思考回路が敬語に染まりました。こんばんは、ユイです。
村長さんをはじめ村の皆さんから、身に余るほどお礼の言葉をもらった私たち。「村にお家をたてませんか」とか「英雄の銅像をたてよう」とか「うちのせがれとお見合いなんかどうですか」…文字どおり身に余っちゃう言葉をたくさん。ガーネット姫じゃないけど、喜んでもらえるとうれしい。
―――ところで…ガーちゃんの方ばっかり集まってたよな…お見合いのおはなし…。
途中から悲しくなってきて、オレンジジュースをヤケ飲み。最終的には開き直って「世は弱肉強食。ガーネット姫とのお見合いを勝ち取らんとする…親御さんたちの仁義なき戦い。相手を褒めているように見せかけて、マウントをとっている高度なテクニックの応酬。」なんてストーリーを想像しては、オレンジジュースのあてにしてた。そんな大人げない思考を巡らせていたところ、なぜか子どもたちに気に入られちゃって、かくれんぼに付き合わされた。楽しかったけど…。
―――あれ…なんだろう…目から水が…。
それはさておき…。
「もう食べられましぇん…すー…。」
かわいらしい寝息に食欲が混ざってるガーネット姫。たしかにお料理、おいしかったもんね。そんなお料理について、この世界に来てから学んだことがひとつ。それは「材料を想像してはいけない」ということ。ヒマワリの町で1度、興味本位で聞いてしまった。ご厚意で見せてもらえたんだけど、その…異世界出身の私には…少し強烈だったというか…。
―――ショッキングピンクなおさかなとか、こぶしぐらいの…うぅ…。
あたりまえと言われればそうなんだけど、だいたいの材料がモンスター。モンスターはだいたい冷や汗が出るような見た目をしてる。つまり、気にしないで食べるのが一番。だって味はとってもおいしいし。
―――最近…食べ過ぎかな…?
やっぱり後から気になるお腹周り。運動はしているつもりだけど、バグステータスの影響で運動になっているのかはわかんない。どれだけ走っても息上がらないし、腹筋なんてどれだけでもできそう。…とってもありがたいことに、筋肉痛だけはしっかり襲ってくる…うん。
『すぴー…ぴよー…。』
フリルさまもおねんね。私はというと、眠れない。
ガーネット姫の正体が何となくバレたこともあって、村の貴賓室に泊めてもらえることになった私たち。あまりの高級感に緊張感が跳ね上がってる。眠ろうとしているのに、なぜか気をつけの姿勢を維持している私。明日もはやいし、眠らないと…そう思う度にさえていく目。困った。
「うぅん…ユイ…眠れないのですか…。ふわぁぁん…。」
「あ、ごめん。起こしちゃった?…うん…なんか緊張しちゃって。」
「…一緒に寝ますか?」
「よ、余計に緊張しちゃうよ…。」
「ふふふ、冗談です。かにが1匹、かにが2匹…と数えていると、いつの間にか眠れているそうですよ。」
「ありがと。試してみるよ。」
「はい。ふわわぁぁぁぁんん…。おやすみなさい…すぴー。」
―――この世界だと…かになんだね。
びっくりして笑っちゃいそうになっちゃった。横歩きでぴょんと飛ぶかにを想像したら、余計に。なんか地味に私のツボをとらえちゃったみたい。
結局かにを数えてみた私。30匹くらまでしか記憶はないので、どうやら眠れたみたい。ありがと、ガーネット姫。
■
翌朝、フリルさまの鳴き声で目が覚めた。窓から差し込んだ日差しのあたたかさに、再び目を閉じようとする私。それを許さないフリルさま。
『ぴよー!ぴぴよ。』―――おはよー!朝だよ。
「もうちょっと寝たいよぉ…。」
毛布をかぶる私。間髪を入れず、無防備な足元から毛布をはがされた。ぐぬぬ…フリルさま、なかなかやりおる。
『ぴよ。ぴぴよぴーよ。』―――もー。朝が苦手なとこまで賢者さまと一緒だね…。
「うぅ…。」
毛布はキレイに回収されてしまったので、重たい身体をゆっくりと起こす。…比喩だからね。質量的に重たいとか、そういうわけじゃないからね。
「ユイ、おはようございます。」
「おはよガーちゃん…ふわぁぁんふぅ。」
「ふふふっ、大きなお口ですね。」
「はぐぅ。えへへ。」
眠る前まではあんなに緊張してたのに、起きてみてびっくり。まくらはなぜか腰のあたりにあるし、シーツは足元にからまってる。いかんなく発揮された寝相の悪さ。申し訳ないのでとりあえずのお片付けをはじめた。
「今日はハナミズキ街道の入口あたりまで行こうと思いますが、そんな感じで良いですか?」
「ハナミズキ…街道?」
「あ…えっとですね…。」
カバンから取り出した地図を広げるガーネット姫。ありがと。
「ヒマワリの町から王都まで続いている街道を、旅立の街道…といいます。そしてその途中、ふたまたにわかれているところがありまして。浜辺の町へと向かうルートがハナミズキ街道と呼ばれています。ハナミズキ街道沿いには宿屋さんがたくさんあるので、今日はそこに泊まろうかと思っています。」
「王都まで…まだまだあるんだね。」
「そうですね。ヒマワリの町からなので…やはり3日はみておかないといけません。」
車があればすぐなのに…そんなことを思ってはみたけど、ないものねだり。異世界らしく転移魔法はあるみたいだけど、使用方法がわからない。高級そうな地図を見つめて、そんなことを考えていた私。
―――あれ?こことここって…。
「ガーちゃん。禁足地の方からさ、ぴゅーんって行ったらハナミズキ街道じゃない?」
直線的にショートカットできそう。タケノコの村からハナミズキ街道への正規ルートは、山を下り旅立の街道に出るという感じ。でも、ここタケノコの村は山頂付近にある。
「も…もしかして、お屋敷跡地からヒマワリの町へ戻ったときのような…。」
「うん!」
笑顔が引きつっているガーネット姫とは対照的に、目をキラキラさせてみた。そう、即席ジェットコースターで行ってみよう大作戦パート3。
「あの…構いませんが…できる限りゆっくり…。」
「大丈夫、大丈夫。今日は急いでるわけじゃないし、大船にのったつもりで!」
左胸のあたりをポンと叩いてみた。
「…はい…前のときも急ぎではなかったと思いますが…いえ。」
よく聞こえなかったけど、別にこわい思いをさせようとか、そんなことを思っているわけじゃない。私はバグステータスでなんともないけど、普通に歩くと結構疲れちゃう距離。ジェットコースター大作戦ならば、歩くよりかなり楽だし。
こうしてずぼらになっておなかまわりが気になりだすという、負のスパイラルに陥っていること…このときの私は気づかなかった。…気づかないフリをしてた。




