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052 唯、自覚がない。

―――扉の前で(いの)る村長とミヤコ




「村長さん…暑くありませんか…?」



コートを脱ぎ、ギルド制服の袖口(そでぐち)をまくるミヤコ。普段ならば絶対に開けないはずの第一ボタンも外した。突然の爆音と火柱(ひばしら)、瞬間的にあがった気温。降り積もった雪は水に変わり、地面を()らしていた。



「暑い…暑すぎる…。一体、何が起きておるんじゃ…。」



任せた以上、この扉を開けることはできない。しかし、フリル様が使う力とは対極(たいきょく)にある現象を前に、戸惑いを隠せない。あたたかくなるならばともかく、暑くなることまでは想像すらしていなかった。火柱が上がったときは、わが目を疑った。


しかし、今できることはユイを信じることのみ。額をつたう汗を拭う。この扉が再び開かれるとき、ユイとフリル様の元気な姿があること…ただそれだけを願っていた。







「それじゃあ…フリルちゃんは、賢者(けんじゃ)さまにお仕えしてたんだね。」



突然の申し出から数分、フリル様と私、すっかり仲良くなっちゃった。ちょこんと座った私の前で、コートの端をつっついてみたり靴を興味深そうに眺めてみたり、興味津々(しんしん)といった様子のフリル様。動作のひとつひとつがかわいい。キュンです。



『ぴよよ。ぴよ、ぴよよー。』―――そだよ。もうかなり昔だね。ユイちゃんがうまれるもーっと前。えーっと…5代前の村長さんのころかな?


「そうなんだ。でも…私、賢者さまじゃないよ?」



フリル様は「ユイが賢者さまだからお仕えする」と言ってた。でも、私は異世界からとんできたバグステータス持ちの一般人であって、賢者さまなんて呼ばれるような存在じゃない。誤解ならばはやめにといておかないと…。



『ぴよ?ぴよ、ぴよ、ぴぴよ。』―――そなの?でも、ユイちゃんが持ってるスキルって、賢者さまのものとそっくりだよ。


「えっ?スキルが…?」



そういえば私、よくわからないスキルをいっぱい持ってる。いつ獲得したのかはもちろん、効果だってわからない。ユイ調べによると、スキルは「攻撃力強化」みたいな感じでわかりやすい名前が普通。私のは…。



―――『炎夏の宴と極光の白夜』なんて…。



逆立ちしたってわからない。単語の意味はなんとなくわかるけど、効果なんか推測すら無理。



「フリルちゃん。そのスキルって、どんな効果があるの?」



せっかくの機会だし、聞いてみよう。



『ぴよよ…?ぴよ。』―――自分のスキルなのに知らないの?うーん…賢者さまとそういう話はしなかったからねー。わかんない。


「そっかー。」



わからないなら仕方ないよね。でも、いつかは調べなきゃいけない気がする。今のところなんともないから深くは気にしてないけど、もしかしたらデメリットがあるかもしれないし。



「あっ!すっかり忘れてた。フリルちゃん、そろそろここ出ないと。村長さんたちが心配してるよ。」


『ぴよ。ぴぴよ!』―――うん。しゅっぱつしんこー!



元気の良い鳴き声に(いや)されつつ、重たい腰をあげた私。魔法の影響…というか、私のせいでちょっとあたたかくなった禁足地(きんそくち)。やわらかい日差しもあいまって、お昼寝したい気分。



「って…フリルちゃん、そこ乗るの?」


『ぴよ?ぴよよー。』―――だめ?おねがーい。


「むぅ…仕方ないなー。」


『ぴよー!』―――やったー!



頭の上に定位置を見つけたフリルさま。私のアホ毛が気に入ったみたいで、つっつきまわして遊んでる。なんだかくすぐったいけど…癒される不思議。







まだわずかに熱を()びている扉に手をかける。ゆっくり引くと、半自動で開かれていく金属製の扉。



「お待たせしました…。無事、助け出しましたよ!」


『ぴよよ!』



ケガ無いですよアピールを含めて笑顔でブイサイン。…場にふさわしくなかったと気づいて後悔したのは2分後です。ごめんなさい。



「おぉ、ユイさん!そして…フリル様!?」


「ユイさん無事でなにより…って、このかわいらしい小鳥がフリルさま!?」



驚かせてごめんなさい。というわけで事情を説明します。



「えっと…かくかくしかじか…でして。」



氷塊を魔法でとかしたこと、フリルさまのこと、あと…大穴を開けちゃったことを簡潔に。大穴は固めたマグマと土が混ざって…大変な状況です…。ごめんなさい。



「そうだったのですか…いや、えー…すみません、混乱しております。」


「ということは…村はもと通りになるということですよね?」


「はい…だよね、フリルちゃん?」


「フ、フリルちゃん!?」



あ、ごめんなさい。村長さん。あの…腰、大丈夫でしたか?驚きの勢いで、良くない方向へ曲がっていた気が…。



『ぴよ。ぴよよーよ。』―――うん。ごめんね、ぼくがかぜひいちゃったばっかりに…。


「いえ…フリル様がご無事でなによりです。って、フリル様の声が聞こえる!?」


「わ、私も聞こえてます!どうして…!?」


『ぴよよ。』―――てれぱしー?だよ。ユイちゃんにしか聞こえないはずだけど…あ、そっか。ユイちゃんの魔法力が影響してるのかー。


「なる…ほど?そしてフリル様はユイさんと冒険をされる…そういうことなのでしょうか?」


『ぴよ。ぴぴよーぴよ。』―――うん。ユイちゃんは賢者さまだからね。あ、でも安心してね。ぼくがここを離れても、村の加護(かご)は消えないから。


「わかりました、ありがとうございます…。って、ユイさんが賢者さまっ!?」


「そ、村長さん…腰が…大丈夫ですか?…って、ユイさんが賢者さまっ!?」



あの…おふたりとも、本当に腰なんともないですか?今回は直角に迫っていたような…。



「みたいです…私はそんな自覚ないんですけど…。」


『ぴよ。ぴよよ。』―――ユイちゃんは、無自覚賢者(むじかくけんじゃ)さまだね。



単語を並べるとそうなんだけど、フリル様、悪口…じゃないですよね?それはさておいて、四方丸くおさまったみたい。ガーネット姫やカノンさんにも報告しないとね。いっぱい心配かけちゃったし…。

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