051 唯、バグをおそれる。
翌日、村長さんとミヤコさんの案内で、ギルドの裏手へとやってきた私。雪と石垣で囲われた場所、入口には黒い金属製の扉があって、どこか無機質な印象を受ける。
「ここが禁足地の入口です。ミヤコさん、よろしくお願いします。」
「はい。」
村長さんから鍵を受け取ったミヤコさん。そのまま扉についている雪をはらい、鍵をガチャリ。仕組みはわからないけど、重たそうな扉は自動で開かれた。
「わぁー!」
扉の先には銀世界が広がっていた。どこを見ても氷。そして空間の中心には、一段と大きな氷塊が鎮座していた。全てを拒絶する…そんな雰囲気すら感じてしまう。
「禁足地の中心にフリル様がおられるはずです。もっとも、今は氷に覆われておりますが…。ユイさん、よろしくお願いします。」
「ユイさん…決して無理はなさらないでくださいね。」
深くゆっくりと頷く私。フリルさまは、魔王の攻撃からこの村を守っている。つまり、魔王よりも格上の存在。私がどうこうできるレベルじゃないかもだけど、ここはバグステータスを信じるしかない。私はゆっくと、それでもしっかりとした足取りで禁足地へと向かった。
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―――ギギギッ…ガチャン!
「ほわっ!」
変な声でちゃった…。背後で鳴り響いた大きな音、どうやら扉が閉まったみたい。人が立ち入ると閉まるようになっている…そう聞いてはいたけど、自然と鼓動がはやくなる。
―――伝承どおりなら…あの氷塊をとかしちゃえば良いんだよね。
村長さんによると、ここの中心に祠のような建築物があって、そのなかにフリルさまが住んでいるそう。祠の周囲には強力な結界がはられていて、なんとかの加護と同じく、魔王の攻撃をもたやすくしのぐそう。というわけで、なかのことは気にせずに氷をとかせる。
―――でも…この量が水に戻ったら…。
私、おぼれちゃう。いろいろ考えてはみたけど、地面を掘る以外の結論がでてこなかった。禁足地の地面を掘る…なんかやっちゃいけないことトップ5に入りそうだけど、ごめんなさい。私、泳げないんです…。
とはいえスコップは持っていないので、魔法でドッカンするしかない。パラパラと基本書をめくり、それっぽい魔法を見つける。
「よーし…突貫崩壊―――クラッシュ・アンド・ディグ!」
オレンジ色の光に包まれた地面。間をおくこともなく、半径数メートルが消滅した。
―――…。
やっちゃったよ。数十センチの穴を掘るだけって書いてあったのに…。バグステータスのデメリットその3、力加減がわからなすぎる。そしてもうひとつ問題が。
「どうやってのぼろう…?」
地面が消滅した結果、私は数メートル下へと真っ逆さま。バグステータスのおかげで着地には成功したけど、登り方がわからない。
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数分後、断崖絶壁を普通によじのぼった私。バグステータス…怖い。
「これでとかしても大丈夫だね。よし、よし。」
指差し確認オッケー。全部とけても、この大穴におさまってくれるはず。あとは…まぁ、この寒さだし、きっと凍るでしょう。すごい、めずらしく完璧な私。明日雪かな…あ、もう雪だった。
さっきの反省を踏まえ、応用編に載っている魔法のなかで、一番威力が低そうなものを選んでみた。「爆発的な火力」と「災害級の火力」だったら…きっと前者の方が…。
「火焔の宴・赤日が照らす惨禍―――シャイン・オン・ザ・リアリティ!」
あ…使った瞬間にわかりました。またやっちゃったよ、私。
私の前に現れた深紅の複雑な幾何学模様。魔法陣…っていうのかな。私の身長をはるかに上回る大きさで、なんなら氷塊と同じくらい。絶対やばい…。
―――キュルルルル…シュパーン…
私の奮闘もむなしく、魔法はしっかりと発動した。これまた深紅の粒子が集中し、氷塊を包み込むサイズの極太レーザー光。
―――…。
当たり前のように氷塊は消滅した。水を飛び越えて、お空へとんでいったみたい。水の行き先として堀っておいた大穴はというと…ドロドロとマグマが流れ込んでいる。どうやら地形ごと変えてしまったらしい。さすがにあぶないので、氷魔法で急速冷凍。今度はやりすぎないように…慎重に…慎重に…。
「ふぅ…。」
なんとかおさめました。いろいろとごめんなさい。
「って…祠は!?」
ふさいだ大穴から勢いよく視線を右へ。祠は…無事だった。何事もなかったかのように、雪に包まれている。あれだけの熱量をもってしても、温度すら伝わっていないみたい。しかもよく見たら氷でできている。フリルさまの加護…すごすぎる。
礼儀作法その他もろもろわからないけど、とりあえず声をかけてみる。
「あの…お休みのところすみません。冒険者のユイといいます。村長さんが心配されていますが…大丈夫でしたか?」
返事はない。ちなみに祠の大きさは、私の身長ほどしかない。なかは異空間にでもつながっているのかな。暗くてよく見えないし。
『ぴよ…?』―――なぁに?
「へ?」
鳴き声が聞こえた。そして、なんでかわからないけど、意味がわかる。
「あ…えっと、タケノコの村の村長さんに頼まれてきました。」
『ぴよ、ぴよよ…』―――そっか。ごめんね、かぜひいちゃって、力が制御できないの…。
「そうだったんですか。大丈夫ですか?周りの氷、とかしちゃいましたけど…。」
『ぴぴよ…ぴよよよ!?』―――うん。…え?氷、とかしたの!?
「ごめんなさい!戻した方が良いですよね。なんとかします…。」
言ってはみたものの、どうしよう。森でやらかしたときみたいに、氷魔法でなんとかなるかな。あんなにきれいな球体にはできないけど、それっぽくはなると思う。
『ぴよ、ぴよよ』―――ううん、そのままでいいよ。かぜひいたら、どんどん寒く…それで、周りも凍っちゃったんだ。おねえちゃんが助けてくれたの?
「えっと…はい。とかしただけですけど…。」
『ぴよっ、ぴよよよ、ぴよ』―――ぼくの氷とかすなんて、おねえちゃんすごいよ!そういえばすっかりかぜも治ってるし。おねえちゃんって、勇者さまー?
「いえ、私はただの冒険者で…ちょっとステータスが変なだけでして…。」
『ぴよよ』―――見せてー。
「どうぞ。って、見えますか?」
ステータス画面を表示してはみたものの、これって私以外にも見えるのかな。そのまえに…。
―――か、かわいいっ!かわいすぎる…。
祠から出てきたフリルさま。淡い水色のからだ、透き通るように青い目。もふもふとした羽毛にぴょんとはねたアホ毛?が一本。お家で飼っていたインコの「ぴーすけ」くらいのサイズ感。パタパタと一生懸命に羽ばたいている。支えたくなっちゃうくらいに愛らしい。自然と姿勢を低くする私。
『ぴよ』―――えーっと…。
どうやら見えているみたい。ガーネット姫には見えなかったから、フリルさまの能力なのかな。
『ぴよ!?ぴぴよ、ぴぴよ』―――これは!?ゆいさん、ぼく、あなたにお仕えします。
「…へ?」
突然の申し出に、間の抜けた声が響いた。




