048 カノン、現実を受け入れる。【サブストーリー】
今話は「カノン」視点のサブストーリーです!
―――使命感にもえる冒険者・カノン
「うぅぅぅ…やっぱり寒い…。」
ヒマワリの町へと続く街道をはずれ、慣れ親しんだ道に足を踏み入れる。視界が白いものをとらえだし、吐いた息も白く染まりはじめた。王都で買いかえた剣を腰に携え、帽子をかぶりなおした女性。名をカノンという。
―――王都でいろいろ買ったからあれだけど…少しでも持ってくか。
王都からの薪を貯蔵している倉庫。カノンはここ数か月、薪の運搬に精を出していた。最初は報酬目当てで受注したものの、タケノコの村の現実を目の当たりにした結果、ある種の使命感に取りつかれた。あの村を救わなければ、その一心で幾度となく山の登りおりを繰り返した。
異常クラスの寒波と大雪により、生活必需品すら手に入りづらいという村の現状。報酬もなにもないが、月に数回、王都にて買い出しを請け負っているカノン。今日は子どもたちに頼まれていたドーナツ、村長さんに頼まれていた貼り薬、その他調味料だの食料品だのを収納しての帰り道。
靴に着いた雪を落とし、倉庫の扉を開ける。
「お疲れ様でーす。」
―――まぁ…誰もいないんだけど。
倉庫は魔法で管理されているため、無人状態。たまに管理業者の方が整備に訪れる程度。
―――10本持てれば良い方かな…。
2つ目の扉に手をかけ、薪が貯蔵されている場所へ。
「…え?」
目の前に広がっている大空間。ポツリと残された1本の薪。非現実的な光景に、カノンは目をこする。
「ま、薪が…ない!?盗まれ…いや、魔法で管理されてるし、盗むなんて…。」
混乱が混乱を呼び、なぜか座り込んだカノン。一旦目を瞑り、深呼吸を大きく2回。心を落ち着けて、さぁもう一回。
「やっぱりない!?夢…じゃない、現実だ!大変だ大変だ!」
泡を食ったカノンは、大慌てで備え付けられている帳簿の記録を確認する。慌てすぎて表紙がうまくめくれない。ようやく手袋をしたままだということに気づき、右手だけ外す。ひんやりとした紙の感触に、若干の落ち着きを取り戻した。
「落ち着け…えっと…昨日までの貯蔵量は…17万本か…。今日運搬に来た人は…3人。このサインは…コウゾウさんか。コウゾウさんが40本。あとは冒険者の人か。ひとりが400本くらい。ちょっと多いけど、普通だよね。」
カノンは200本くらいしか収納できないため、羨ましさが募る。そして、三度の深呼吸。視界に入らないようにしていた現実に目を向けることにした。
「…16万本…。」
意味が分からなかった。この帳簿は魔法であるため、タケノコの村でも確認がとれているということを意味している。つまり、ひとりの冒険者が16万本以上の薪を収納し、タケノコの村へと運んだことの証拠なのだ。
「いやいやいやいや…そんなことあるわけ。」
ないに決まっている。きっと村を離れていた数日、その間に緊急支援隊がやってきたのだろう。村の冒険者は寒さでダウンしているし。数百人規模の支援隊ならば、数回の往復で運べるはずだ。…というストーリーで納得し、現実を拒絶したカノン。
―――なんにしても良かったん…だよね。薪は届いたわけだし、17万本近くもあれば、そうそう困ることもないだろうし。
道中で数百人単位の冒険者とはすれ違っていない、その不都合な記憶を抹消し、なぜか残されていた1本の薪を手に取るのだった。
■
あと少し、あと少しと心に言い聞かせ、雪をかき分けて進んだカノン。村の明かりに一安心。そのまま村の体育館へと向かう。最近の薪事情を考慮し、日中は多くの村人がここで共同生活をしているのだ。
「うぅぅぅ、寒かった…。ただいまー!」
ガチャリと扉を開けた先、再び広がった何もない空間。デジャブを感じつつ、時計を確認する。
―――まだ閉まる時間じゃないはずなのに…。
頭のなかがクエスチョンマークに支配され、狐にでもつままれたような時間が流れていく。右手に携えた1本の薪を見つめ、現実感を取り戻したカノン。
「とりあえず…ギルド行こ。」
ドアをゆっくりと閉め、振り返る。そこには元気に走り回っている男の子の姿が。
「あ!カノンお姉ちゃんだ!」
「ヨシくん!元気だったー?」
「うん!あのね、あのね、薪が届いたんだよ!」
「お姉ちゃんもびっくりしたよー。下の倉庫、何にもなかったから。」
「冒険者のお姉ちゃんが持ってきてくれたんだって!今、ギルドで…お姉ちゃん?」
「ぼ、冒険者のお姉ちゃんって…あの薪、ひとりで運んだの!?」
「うん、そだよ。お姉ちゃんも行こ!ギルドにみんな集まってるよ!」
―――…。
無邪気すぎる子どもの純真無垢な言葉に、カノンは現実を受け入れるのだった。
次話よりメインストーリーに戻ります。




