047 唯、予防線をはってもらう。
奥の部屋へと通された私たち。薪のストーブが部屋全体にぬくもりを与えており、外の厳しさとは大違い。木製のイスやテーブルは丸みをおびた作りで、とってもあたたかい雰囲気のお部屋だった。
『あまりの寒さに冒険者さんもダウンされてしまいまして…薪が届かずに困っていたんです。本当に助かりました。さぁ、どうぞ。あ、背負われている薪、お預かりしますよ。』
テンションが限界突破したらしく、るんるんスキップでくるくると回り出したお姉さん。これだけの運動量にも関わらず、差し出されたコーヒーは全く揺れていない。遠心力は…。魔法かな。
「ありがとうございます。いただきます。」
「いただきます。」
コーヒーというか苦いもの全般苦手だけど、飲めないことはないはず。一口だけ大人の階段をのぼる私。
―――うぎゃっ…。
静かに大人の階段をおりた私。…素直にお砂糖とミルクをもらいます。
『こちらが薪運搬の依頼書です。麓の倉庫にも掲示されていたと思いますが、最近の雪と寒さを考慮して、報酬が以前の倍になっています。薪は状態によって重さが変わってしまいますので、本数単位での計算となります。現在の報酬は…1本あたり5ゴールドとなっていますが…よろしかったですか?』
「もちろんです。あの…数量の制限とかってありますか?」
『制限…ですか?そうですね。しいて言えば麓の倉庫にあるぶん…ですかね。まぁ、100人近い冒険者さんが100往復しても足りないのが現状ですし、実質的に制限はないですね。』
落ち着け、私。100人の冒険者さんが100往復…単純計算で冒険者1万人でも運べなかった量を…。
―――持ってきちゃったよ。
困った。また驚かれてしまう。そんな雰囲気を察してくれたお姉ちゃん…じゃなかった、ガーネット姫。
「あの…えっと…?」
『ミヤコです。』
「ミヤコさん。この後、倉庫に向かうと思うのですが、その…一旦、常識をわきに置いていただけますと。」
『はぁ…?』
怪訝な表情を浮かべるミヤコさん。ガーネット姫が予防線をはってくれたみたいだけど、私も常識を置いていこう。バグステータスの時点で常識も何もないと思っていたけど、今回もヤバかった。
■
『こちらが倉庫になります。』
金属製の扉が開き、なかへと案内される。湿気などを防ぐためなのかな。厳重に管理されているようで、これで扉は3つ目。
「やっぱり広いですね。」
『えぇ、薪はこの村の生命線ですから。通常であれば1年分以上の薪が保管されているのですが…今年はこの寒さ…1年分を2か月ほどで使い果たしてしまいまして…。』
倉庫内はほとんど空っぽだった。サッカーコート3面分はあろうかという倉庫。薪はテニスコート半面くらいの量しかない。異常すぎる寒さの影響、思っていたよりも深刻だった。
『もちろん村を降りるという最終手段は残されていますが…ここは災厄の魔王から世界を守る最終拠点でもありますし…誰もいないというわけにもいきません。もしそうなってしまったら、私だけでも残るつもりです。…あ、ごめんなさい。冒険者さんには関係のないお話でしたね。さ、こちらへどうぞ。』
たしかに住み慣れた土地を離れるというのは…。私も都会に出てひとりぐらしを始めたとき、ちょっとだけホームシックになった。眠れないし食欲もなくなるし、何回夜行バスで実家に帰ったことか。そして、あいかわらずわからない単語がとんできた。
「ガーちゃん…最終拠点って?」
ぼそぼそっとガーネット姫に質問する。
「コウゾウさんがおっしゃっていた『氷結の加護』を覚えていますか?」
「うん。」
「その加護によって安全が確保されているので、この村は非常避難地に指定されているのです。魔王との大規模戦闘が勃発した場合、この倉庫が避難所になるという設計になっています。」
「ふぇー、それでこんなに広いんだ。」
出入口が超厳重だったことにも納得。この世界の地理には詳しくないけど、この村、魔王の拠点からかなり離れた場所にあるらしい。避難場所としてはもちろん、防衛時には作戦拠点としての役割もなすそう。
『ガーネットさん、よくご存知ですね!あれ…ガーネットさんのお名前…どこかで聞いたことあるような…?』
最後の方は聞こえなかったフリをする。ガーネット姫の正体がばれても問題はないんだけど、いろいろとお手数をおかけすることが申し訳ないそう。
「その…ここで取り出せば大丈夫ですか?」
話題の進行方向を変えたのは私なので、責任をもってもとの方向へと戻す。ちょっと強引だけど。
『はい。魔法の計測機械を使ってますので、いつでもどうぞ。』
「では…私から。よいしょ。」
ガーネット姫が薪を取り出す。ポン、ポンと周期的な音が響き、薪が積み重なっていく。取り出した薪は、もちろん下に落ちるだけなんだけど、魔法の力によってきれいに積み重ねられていく。あいかわらず魔法すごいんだけど、薪が空中を舞いまわる結構ホラーな光景だったりもする。
ガーネット姫が取り出し始めて数分、1メートル四方に積み重なった薪。
「ふぅ…これで全部です。」
『ありがとうございます!本当に助かりました。えっと…先ほどお預かりしておいた10本分を追加してっと…えーっと…386本ですね。報酬は1930ゴールドですね。ありがとうございました。』
「ありがとうございます♪」
白色のお財布を取り出し、うれしそうにお金をしまうガーネット姫。十中八九スイーツ代に消えることになると思う。
『ユイさんもどうぞ。』
「はい…。」
また驚かれるかな。…仕方ないよね。
■
・・・数分後
『たくさんお持ちいただいたんですね。ありがとうございます。』
「あの…まだありまして…。」
『あ、そうなんですか。どうぞどうぞ、どれだけでも大丈夫なので。』
・・・30分後
『ユイさん…もしかしてSランクの冒険者さんですか?すごい量ですよね!』
「あはは…まだまだ駆け出しです。はい。」
『本当ですか!?この前いらっしゃっていた、Aランクの冒険者さんでもこれくらいでしたよ。すごいなぁ。』
・・・1時間後
『すみません、ちょっとお手洗いに…。』
「あ、どうぞ。私、ここで取り出してますので。」
『…すみません。…ユイさんって何者なんだろ…。』
・・・2時間後
『…。』
「ユイ、そろそろですかね?」
「うん。2時間くらいたったし。」
ガーネット姫が優雅にコーヒーを嗜んでいるなか、薪と取り出しは無事に終了した。
■
『…。』
「あの、ミヤコさん?」
木像のごとく固まっちゃってる。常識は置いてきてもらうように頼んだけど、その基準を飛びこえてしまったみたいです。…なんだかごめんなさい。
『ど…どうしたらこんなことになるんですかっ!?ユイさんの身体、転移魔法とつながってるんですか!?』
「いや…そんなことはない…とおもうんですけど…。」
私だって知らない。バグステータスなくらいだから、バグスキルとかもあるのかもしれない。そういえば私のスキル、どの基本書にも載っていなかったし。
『はっ!そうか、これは夢なんだ。きっと疲れすぎて寝ちゃったんだ。薪が足りない、薪が足りないってずっと考えてたし…現実ならよかったのに…はぁ。』
現実逃避されてしまったみたい。でもごめんなさい、現実なんです。そんなことを考えていると、おもむろに薪を手にとったミヤコさん。右手で構えて、そのまま左手をペチっと叩いた。
『痛いっ!?』
「だ、大丈夫ですか!?」
そしてなぜ薪で。夢か現かの確認なら、ほっぺをつねるくらいでよかったのに。
『嘘…現実!?薪は…ある!?ユイさんって…何者…?』
ただの人間です。ちょっと出身地が遠いところなのと、ステータスがバグってるくらいで…それ以外は皆さんと同じです。
「ミヤコさん、わかります。私も慣れるまでかなりかかりましたから。考えず…受け入れた方が、楽ですよ。」
ガーネット姫が悪魔的なささやきをしている。
『そ、そうですね。私は機械、私は機械になる。うん、計算します。ユイさんが運んでくださった薪は…一、十、百、千…168291本!?』
「あわわっ!ミヤコさん、大丈夫ですか!?」
ふらふらのミヤコさんを支えるガーネット姫と私。当たり前だけど、機械にはなれなかったみたい。
『す、すみません。ちょっとたちくらみが…。』
「…すみません。」
『い、いえ!ユイさんは薪を運搬してくださっただけですから。落ち着け、私。えっと、16万…8291本だから、かける5で…。』
ミヤコさん?
『84万1455ゴールドのお支払いになります♪』
…ミヤコさん?
『うふふ、私こんなにたくさんのお金、久しぶりにみました♪』
…大丈夫かな?キャラ、変わっちゃった気がするけど。
『村の英雄ユイちゃん!ささ、村長さんのところへ行きましょう!たぶん村の秘宝とかもらえますよ♪』
…。
ミヤコさんが通常運転に戻るまでの10分、私たちもなぜか記憶がないです。
お読みいただきありがとうございます!ストーリー構成の都合で少し長めの1話となりました。すみません…。
評価・感想などいただけますと、パソコンの前でこっそり狂喜乱舞します(笑)
また、更新不定期ですが、気長にお待ちいただけますと幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします!




