044 唯、おしゃれを諦める。
経験値獲得をあらわすオレンジ色の光に包まれながら、草むらに着地した。オクトゴンに寄生されていたおじちゃんを抱えているので、風魔法を使いながらゆっくりと。緑色の触手は消えているし、血色も戻ってきている。どうやら無事みたい。
「おじちゃん、大丈夫!?」
回復魔法をかけつつ、声をかける。ガーネット姫は念のための警戒をしてくれてる。私だけならなんてことないけど、不意打ちでおじちゃんを攻撃されるとまずい。
『うぅ…ここは…おぉ、女神さま。』
「へ?…いや、私はただの冒険者で…その。」
視線の先は私じゃなくて、杖を構えているガーネット姫だった。なんだー、そうだよね。うん。
『私は…なにを…?』
「オクトゴンというモンスターに捕まってたんです。もう倒したので、大丈夫ですよ。」
『なんと…あぁ…そうだ。池の周囲に咲く花を…妻にとって帰ろうと…きょ、今日は何日ですか!?』
「ふえっ!?えっと…8月の…3日です。」
突然の質問にびっくりしたけど、しばらく意識を失っていたなら日付は重要な情報。ただ、この世界に来てからというもの、信じられないくらい日付を気にしなくなった。日付を思い出すのには一苦労。毎日が自由だし、期限が設定されるような出来事もまれなのだ。ガーネット姫と一緒じゃなかったら、きっと怠惰に暮らしていたと思う。…現状でもずいぶん怠惰だけど。主におなかまわりが…。
『おぉ…よかった。まだ妻の誕生日は終わってない。おっと…これは失礼。申し遅れました…私、タケノコの村で猟師をしております、コウゾウというものでございます。お助けいただきまして、ありがとうございます。寒さ厳しいところではございますが、もしよろしければ村にお越しください。お礼をさせていただきたく…。』
「あ、いえ…私たちは冒険者なので…お気持ちだけありがたく頂戴して…。あの、良ければタケノコの村までご一緒しますよ。道中モンスターが出るかもしれませんし。」
『なんと…冒険者の方と女神さまに…。ありがとうございます。ありがとうございます。』
お礼を言われているはずなんだけど…な、なんか気分よくないな。
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「モンスター、でませんでしたね。」
「うん。強引なことしたし…また怖がられちゃったのかな…。」
モンスターに怖がられるのはメリットのはずなんだけど、なんか心がそわそわする。いくらモンスター相手でも、嫌われるのはちょっぴり辛い。それはさておき、無事に街道まで戻ってくることができた。
『ここまで来ると安心です。いや、それにしてもユイさんもガーネットさんも…お強いんですね。私など煙幕を使わないと怖くて通れない道なんですよ。』
「煙幕…ですか?」
『えぇ。タケノコの村でも販売しておりますが、モンスターに発見されにくくするアイテムでして。おふたりほどの実力であれば不要かもしれませんが、一般人の旅路には必要不可欠なものなんです。』
さらっと一般人ではない認定されちゃったけど、そこに関しては自覚があるのでスルー。ガーネット姫も最近その領域に片足をつっこんでいるし。主に私のせいだけども。
「へぇー、そうなんですか。たしかに常備しておくと便利ですね。お邪魔したとき買おうかな。」
ガーネット姫が「ユイには必要なさそうですけど…」という表情を向けてくる。ぐすん。そんなことないもん。かよわい乙女には必要だもん。
「あの、コウゾウさん。話は変わるのですが、タケノコの村で薪が不足しているという話を聞いたのですが…。」
『あぁ、そうなんですよ。タケノコの村は年中雪が降っておりますが…ここ半年ですかね。経験したことのない寒さなんです。薪の使用量もつみかさなる一方でして…寒いところなのに、家計は火の車ですよ。』
「それは大変ですね…。何か原因に心当たりなどはございますか?」
『うーん…そうですね。タケノコの村に雪が降るのは、禁足地にすむ鶯遷の三鳥が一、氷の姫鳥様の力とされています。村長の家が代々フリル様にお仕えすることで、永久氷結の加護を受けてきたのです。』
「あの、すみません。永久…氷結の加護…って何ですか?」
話の腰をおってごめんなさい。でも、わからない言葉が多すぎてちんぷんかんぷんなんです。できれば異世界の人にもわかる感じでお願いしたいです…ごめんなさい。
「タケノコの村全体にかけられている…魔法のようなものです。ユイや私が使う魔法とは違い、悪しき心を持つ者を拒むという、特殊なものだそうですよ。」
「ほぇー、そんなすごいのが。」
『いやー、ガーネットさんは才女ですな。村の若者にご教授いただきたいくらいです。その加護をもって、タケノコの村は数百年、魔王の襲来を受けておりません。旧王都が崩壊したあのときでさえ、被害がなかったとの伝承があるほどです。ただ…そのフリル様が姿をあらわさなくなってしまったそうなんです。しかも丁度半年前から…。』
ますますわからない単語が飛んでくる。あんまり中断させるのも申し訳ないし、あとからガーネット姫に教えてもらおう。
「フリル様に何かあったのでしょうか…?」
『私はそう思っておりますが…村の者であっても禁足地に入ることかたく禁じられております。なので推測でしかありません。幸い、フリル様の加護は消えていないようですが…。』
「薪の方は大丈夫なのですか?足りないということはありませんか?」
『王都からの支援で持ちこたえております。量は十分なのですが…いかんせん村まで運ぶのに難儀しておりまして。冒険者の方々に運搬を依頼しているのですが…あまりの寒さに…。』
ごめんなさいだけど、冒険者さんの気持ちもわかる。冒険者の体力をもってすれば、運搬自体に苦労はないと思う。でも、寒さは別。もとの世界で豪雪と格闘したことあるけど、体力が奪われるし、頭の回転も弱まる。わりに合わないと考える人がいても…不思議じゃない。
「ユイ、できる限りお手伝いしていきましょう!」
「うん。もちろん!」
困っている人がいたら、助ける。それがガーネット姫と私が抱く「冒険者」の姿。
『ガーネットさん、ユイさん…ありがとうございます。ただ、無理はなさらないでくださいね。体調を崩される冒険者の方、たくさんおられます。1つ運んでいただけるだけでも大変ありがたいのですから。』
そんな会話をしつつ進む私たち。少しずつ風が冷たくなってきたので、ヒマワリの町でもらったコートを着る。とっても、とっても暖かい。…下は部活おわりの高校生みたいな格好だけど…許してください。ワンピースでは寒さに勝てません。




