043 唯、疑いのまなざしを向ける。
―――基本書を…。
ガーネット姫にうまくつないでもらってる間に、基本書をぱらぱらとめくる。ひっぱりあげるくらいなら私のバグステータスでなんとかなる。でも、何かの罠である可能性…結構あると思う。池からもがいて脱出しようとしている割には、上着が濡れていない。
―――あと…隠しきれてないし…左腕のとこ…。
おもいっきり触手。緑色が草花と同化していてわかりづらいけど、絶対に人の手じゃない。うねうねしてるもん。
「がんばってください!今、ロープを作ってますから!」
ガーネット姫は工作の真っ最中。草の枝をグツグツと煮て、本格的にロープを作っている。あと何時間くらいかかるんだろう、あれ。
―――ガーちゃんも意外と…。
ハラグロの素質があるのかもしれない。それはさておき、見つけた。『冒険の基本書』の第8章、187頁に記載があった。
―――オクトゴン。旅立ちの街道付近の水辺に生息し、人間に寄生する。寄生した人間を人形のように扱い、近寄る人間に寄生という連鎖をつくる。緑色の触手に触れると水辺に引き込まれるので、十分注意すること。本体を撃破することで、寄生された人間を解放できる。弱点属性:風。
「ガーちゃん、わかったよー!風魔法だって!」
「わかりました!」
杖を構えるガーネット姫。池に向かって駆け出す私。
「おじちゃん、今助けるからねー!」
珍しく真面目な表情で、おじちゃん…ではなく、緑色の触手をつかむ。あのぬるぬる触手をつかむの、結構勇気がいる。うわぁ…やっぱぬるっとしてて気持ち悪い。
―――ギュギュギュエウエルルル
すごい力で引き込まれそうになる私の右腕。でも大丈夫。私バグステータスの持ち主だもん。これくらいではびくともしない。…体重のせいじゃないからね。断じて。
「ガーちゃん、ひっぱりあげるよ…そーれっ!」
―――ギュギュグワッ!?
空中で放物線をえがくタコみたいなモンスター。形容するなら、緑色のタコ…かな。左腕…えっと…いちにー…3本目の先におじちゃんがつかまってる。ぐったりしてる。はやく助けないと。
「孤独の防壁ッ!」
対象をつつみこむ防御魔法で、おじちゃんを保護。指揮者を即席ジェットコースターに乗せたときも使ったけど、あの勢いで壁に激突しても大丈夫だったんだから、これで問題なし。
「ガーちゃんっ!」
「はい!…緑風演舞!」
杖に宿る緑色の光。触手とは違って、すがすがしさを感じる色。風の刃がブーメラン状に飛び回り、オクトゴンの行動を制限する。触手で薙ぎ払おうとするオクトゴンだけど、ガーネット姫はレベル20オーバーの冒険者。旅立の街道に登場するレベルのモンスターでは、相手にすらならない。
「とりあえずおじちゃん返してね。」
風の刃をもろともせず、動きが止まったオクトゴンにふれる私。見方にはダメージがない…なんて都合の良いシステムじゃないので、バグステータスで無効化してるだけ。3本目の腕を脇に抱え、そのまま風魔法を展開する。
「エア・カッター!」
基本書の一番最初にでてくる風魔法だけど、これで十分。触手をスパッと切り落とし、おじちゃんを救助する。振り向きざまにタコの眉間にデコピンを一発。
―――ギュ?…ギュオォォォォォッ…
よし、オッケー。周囲の空気が軽くなった。




