042 唯、武器を手に入れる。
「えーっと…右へ行くとタケノコの村、左に行くと…『底なしの池』!?」
なんだか背筋がゾクっとする名前。しかも底なし沼ではなく、池ときたか。
「とーっても深いので、そう呼ばれているそうです。寓話…というんでしょうか、悪いことをすると底なしの池に引き込まれるぞ…というお話を聞かされました。幼いころですが。」
「ふぇー、この世界でもそういうのあるんだね。私がいた世界では、絵本っていって、絵が描いてある本で…眠れないときとか、お母さんに読んでもらってたんだ。」
某フルーツから生まれた勇者さんのお話とか、いじわるなおじいさんが出てくるお話とか。ちなみに、亀を助けて海のお城に連れてってもらうお話が好きだった。なぜだかタイトルが出てこない。なんだかもとの世界の記憶が失われているみたいで、ちょっと怖い。…私が忘れっぽいだけなんだけど。
「えほん…ですか。なんだかおもしろそうです…あらっ?ユイ、何か聞こえませんでしたか?」
「え?」
耳をすます。風の音、草が揺れるリズムに小鳥のさえずり。そして。
『誰かー!』
「!?ひとの声だ!」
助けを求めているような叫び声、かすかにだけど、風にのって届いてくる。風は左から右に吹いているから…こっち。
「『底なしの池』の方からですね!行ってみましょう!」
声を求めて駆け出すふたり。
■
『誰か、助けてー!』
やっぱり人の声だ。助けを求めている。案内標識を視界の端にとらえつつ、街道の半分もない細道を駆ける。
「むぅっ!」
枯れた木のような図体に赤く光る…目?木の怪物みたいなモンスターがのそのそと姿を現してきた。足をとめるガーネット姫と私。
―――燃やすわけには…いかないよね。危ないもん。
ファイア・バーストあたりが鉄板だと思うんだけど、周囲は森。火事にでもなったら大惨事。モンスターよりも私の方が危険な存在になってしまう。
「ユイ!」
モンスターが枝を鞭のようにふるってきた。物理法則を無視して伸びる枝。一応かわそうとは思ったけど、受け止めて投げ飛ばすことにした。
「よいしょーっ。」
うん、痛くない。鋼みたいにかたい枝だけど、衝撃も特になかった。さすがバグステータス。…そうだ。
「うぬぬぬっ…。」
―――ベキッ
「よしと。」
右腕に直撃していた枝らしきものを折ってみた。太さは40センチくらいかな。長さは…私の身長くらい。えへへ、武器ゲット。
「…。」
モンスターの目が点になってる。光るタイプの目でも点になるんだ。知らなかった。ガーネット姫はというと、さすがに慣れたみたい。無言で苦笑いを浮かべている。
「ユイ戦車、出発しんこーうっ!」
風の音だけが過ぎ去っていく空間で、勇気を出して出発の合図。時代劇の討ち入りシーンみたいに、大木を構えて突撃を開始。デコピンよりも威力はあるし、森を燃やしちゃったりする心配もない。さすが私。
―――ギュギュエーッ
逃げるモンスター。私に背後を見せるとは…。てりゃ!
そのまま大木を槍のように投げつける。ボールを投げれば明後日の方向に飛んでく私だけど、バグステータスは偉大。レーザーのごとくモンスターへ一直線。
―――ギ!?ドブェッ…
光の粒子となって霧散。よし、倒した。小さくガッツポーズしてみる私。
「ユ…ユイ、もう少し…その…穏やかなほう…いえ。」
「?」
■
「風斬りの風車!」
目的地まではまだ少しある。前方に風魔法を展開して、迫るモンスターにからみつく枝葉、すべて吹き飛ばして進む。
「ユイ、そろそろ池につくころです!」
「オッケー…停車っ!」
かかとで急ブレーキをかけて、魔法を停止。大量の経験値が手に入ったみたいだけど、今はそれどころじゃない。
『おーい!誰かー!』
間違いない、この先だ。
「大丈夫ですかっ!?」
『た、助けてくれっ!池に…池に引き込まれっ、わぷっ…、ばはっ…』
慌てて池に視線を移す。そこには池の縁に何とかしがみついている初老の男性の姿が。
「今助けます!」
「待って…。」
駆けだそうとする私を引き止めるガーネット姫。左腕をがっしりとつかまれている。
「ガーちゃん、はやく助けないと…ほら、溺れちゃうよ!」
「ユイ、私たちが声を聞いたのは…どこでしたか?」
「え?えーっと…あ、街道のとこ。」
「えぇ、そこから細道をぬけてきました。…10分近く走って。」
そうだけど…。あ…。そうだ、何かおかしい。あんなに引き込まれそうになりながら、10分も持ちこたえられるだろうか。そもそも私が吹き飛ばしまくってきたモンスターの大群、どうやって乗り越えてきたんだろうか。
『は、はやく助け…うぶっ…チラ』
なんかチラッチラッって視線を感じるんですけど…怪しい。




