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040 唯、士気を高める。

あの日から2か月。大侵攻の記憶は(とりで)修繕(しゅうぜん)とともに消え、ヒマワリの町は日常を取り戻していた。「はじまりの町」と、ちょっと意地悪な意味で呼ばれていたのはもう昔の話。スター輝く冒険者証を胸に、堂々とクエストをこなす冒険者の皆さん。


大侵攻を10分足らずで食い止めたという話は王都まで届き、ガーネット姫は鼻高々。毎日のように届いているタンクさんからのお手紙にも「変化」があったらしい。最初の「心配で夜も眠れません」といった感じから、「魔法(まほう)を教えてください」になったそう。たまにだけど、私も返信に言葉を添えさせてもらったりする。



―――タンクさんへ。最近ではガーネット姫のこと、ガーちゃんって呼んでます。ユイより。



そんなこんなで町の周囲は安全が保たれている。人口も増加。町長のパンプキンさんは、今日もホクホク顔で焼きとうもろこしを頬張っている。


この世界にも慣れ、冒険者生活を謳歌(おうか)している私。何度かエリアボス級らしいモンスターにも遭遇したけど、バグステータスの力は偉大だった。()まれようが()られようが、ちっとも効かない。痛くも(かゆ)くもない。気づかなくて逆に困るくらい。あとはデコピンか魔法で一発。最近の悩みは、デコピンする前に怖がられて逃げられちゃうこと。そんな理由で討伐(とうばつ)クエストはしばらくお預けの私。


もちろん冒険するならガーネット姫と一緒に。親友であり戦友でもあるガーネット姫。買い物も行くし、スイーツパーティーなんかも定期開催している。イチゴのパフェにチーズケーキ、チョコレートムースを()えて…なんて甘美(かんび)な響き。



―――うぅ…ちょーっとお腹まわりが…。



気にしない、気にしない。…気になる。



「ユイ、そろそろですね。」


「はむ…そろそろ…?」



チョコレートパフェを大きな口でパクっとする私。スプーンを置いちゃったガーネット姫。…もしかして、ガーネット姫もお腹周りが…。



「もう少しで3か月になるんです…。」



(うつむ)くガーネット姫。真面目な雰囲気を察し、私もスプーンを置く。「3か月」その言葉を聞いて、そういえばと思い出した。そもそもガーネット姫がこの町に来た理由、それは冒険者としての経験を積むためだった。ただ、その本質は。



婚約(こんやく)の日程が迫っていて…帰らなければなりません。」



嫁ぎ先が武芸(ぶげい)心得(こころえ)を求めているそうで、いわゆる花嫁修業(はなよめしゅぎょう)が目的だった。でも、オオイノシシに襲われたり、モンスターの大侵攻があったり、いろいろな経験を重ねるなかで、ガーネット姫は「冒険者」を目指すようになった。紆余曲折(うよきょくせつ)あって、なぜか私が「憧れの存在」として認識されているんだけど、私はそんな存在じゃないと思う。それに、いまでは「おっちょこちょいな妹」くらいの認識をされてる気がする…。



「本当は…いえ…。あの、王都まで一緒に行きませんか?」


「王都…あ、もしかして友人代表挨拶…?」


「ふふっ、結婚式(それ)はまだ気が早いですよ。王都の学者さまにお伺いすれば、ユイのこと、何かわかるかもしれませんし。」


「そっか…ありがと。うん、一緒に行こう!」



そんなこんなで私はヒマワリの町を一旦、離れることにした。ちなみにガーネット姫の言葉遣いがちょっぴりよそよそしいのは、王都に戻るための準備だそう。お姫さまって大変だなと改めて思った休日の午後だった。











「…というわけでして、しばらくこの町を離れようかと…。」



冒険者はどこに行くのも自由、一応そうなってはいるけど、数か月お世話になった町。お礼のあいさつにまわることにした。まずはやっぱりクロックさん。何かと気にかけてもらえた…というか、弟子入りまでされてしまったというか…。ギルドマスターという超要職にありながら、扉を破壊し続ける結構おもしろい人。



―――うーん…さすがに失礼かな…。



あ、それと、試験のとき無防備な私に上級魔法(ファイア・バースト)を使ったこと、忘れません。


…うそ、楽しかった思い出のひとつ。



「…なんと…ユイ殿が…この町を…。いえ、冒険者は自由です。ユイ殿にはユイ殿の人生があります。お気をつけて。この町のことは、私にお任せください。」


「クロックさん…。はい、よろしくお願いします!…すぐ戻ってくると思いますが…。」



田舎育ちの私、都会の雰囲気が苦手問題がある。それに私、この町が好き。



「ちょぉぉぉっとまったぁぁぁっ!」



爆音とともにギルドの扉が粉砕(ふんさい)される。やっぱり扉自体をなくした方が良いと思う。2日に1回くらいのペースで破壊されている気がするけど、誰も驚いていない。やっぱり異世界、良くわからない。って…そこじゃなくて。



「ジャ、ジャイアントさん。こんにちは…。」



勢いに押される私。ジャイアントさん、顔が近い、近いです。



「ユイ様!この町を出られるというお話、本当ですか!?」


「は…はい。しばらくしたら戻ってくるつもりではいますが…。」


「なんと…。しかし…我が師をとどめおくのは世界の損失。私に止める権利など…。」



葛藤(かっとう)していただいているようで恐縮ですが…あの、ガーネット姫と王都に行くだけなんです。魔王の城に乗り込むとかそういうお話ではないので、そこまで…。



「そうか…ユイ様はきっと、私たちを試しておられるのですね!獅子(しし)は我が子を千尋(せんじん)の谷に落とすと言います!これは不肖(ふしょう)私とクロック、どちらが一番弟子としてふさわしいか…この町の防衛を任せ、判断されるおつもりでしょう!」



―――いえ…そんな…。



「なんとっ!ユイ殿、そこまで深いお考えが!ユイ殿に頼りきっていた私たちに、反省し練磨(れんま)…成長をとのお考えっ!わかりました、ギルドマスターとして…いえ、ユイ殿の一番弟子として、この町を完璧に防衛してご覧にいれましょう!」



「ち、違いますっ!試すだなんてそんな…私はただ…。」



「お任せください、ユイ様!このジャイアント、わが身にかえてもこの町を!行くぞクロック、まずは鍛錬あるのみっ!」


「遅れをとるな御一同!ユイ殿ご不在の間、我々は鉄の結束をもって防衛の任にあたる!」


「うぉぉぉっ!」


「ギルドマスター!俺はあんたについていくぜ!」


「ユイさん!俺たちに任せて!」


「ユイさん!私たち、強くなる!期待にこたえてみせるっ!」



―――…。



勢いに押されて気づけば背中が壁にぴったり。粉砕された扉を通り、訓練場へと駆けだす皆さん。遅れをとるなとばかり、我先にと。結果、扉付近の壁も崩壊してしまった。今回の修繕は…いつにもまして大変だと思う…。



「…が、がんばってください!」



あて先不在の言葉を絞り出した私。そんなつもり全然、全く、微塵(みじん)もなかったけど、鍛錬(たんれん)を積むことはきっと良いことだと思う。理由に盛大な勘違いがあっても、この町の平和と安全が保たれるのなら…うん。



―――もう少し…ちょっとだけひとの話を聞いていただけると…いえ、なんでもないです…。



誰もいなくなったギルドホールにポツンと取り残された私。ガーネット姫の待つ東の門へと向かった。

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