037 唯、怖がられる。
冒険者さんと町の皆さんに囲まれることしばらく、「この町の英雄」とか「まるで勇者さま」とか、「うちのせがれと結婚を」なんて言葉をたくさんいただいた。褒められ慣れてないので、なんだかむずがゆいような不思議な感じ。もちろんとっても嬉しい。でも、結婚は…もう少し考えさせてください。
「ユイ!」
ガーネット姫に抱き着かれる。心配してくれてたみたい。ありがと。その…心配かけてごめんなさい。
「ユイ殿!まずは無事のご帰還、なによりです。それで…その…。」
クロックさんの視線がカクカクと黒い鎧に移る。冒険者の皆さんが絶賛掘り出し中の黒い鎧、もとい、元指揮者。
「すみません…ちょっと勢いをつけすぎちゃって。えっと…指揮者です。敵意はないみたいで、とりあえず連れてきました。」
説明になっていない説明をしつつ、角笛をクロックさんに渡す。
「これは…?」
「なんとかの角笛です。もらっちゃったんですけど、私じゃ吹けないし…町の防衛とかに役立つかなと思いまして。」
相変わらず名前が出てこない。
「さ…災厄の角笛っ!?秘宝アイテム!?」
あ、それだ。そうそう、災厄、災厄。
『はっ!?ここは…。』
目を覚ました元指揮者と目が合う。せっかくなので優しく微笑んでみた。小首を傾げるのも忘れずに。
『ひっ…ひぃぃぃぃぃっ!ごめんなさい、お助けください、なんでもします!はっ、ここは町の門。直します、直します。ですから…お助けをぉぉぉっ!』
元指揮者は魔法を使って門の修理を始めた。当然ながら、みんなで目が点。そこまでしてもらうつもりはなかったけど、どっちみち直さなきゃいけないし。
「…あの…一体なにが…?」
最初に我にかえったのはクロックさんだった。驚きを通り越したような表情で聞かれたけど、答えるのが難しい。ハラグロモードの存在は秘密なのだ。
『あ、あなたがギルドマスターですか!?私、何でもしゃべります。魔王の情報でもモンスターの情報でも、知っていること全部話しますから!ですから、あのお嬢様におとりなしをぉぉっ!』
「…。」
縋るように抱き着かれているクロックさん。なんだか申し訳ない気持ちになってきた。改めてだけど、即席ジェットコースターはやりすぎたかも…。それはさておき、情報はきっと役立つと思う。この町…というか、世界の安全が守られたようでなにより。
■
「町の平和に…かんぱーいっ!」
モンスターの大侵攻から一夜、ヒマワリの町ではお疲れ様会が開催されている。正式な名前があったはずだけど、私の感覚ではお疲れ様会ということで。場所は町一番のお料理屋さん。冒険者の皆さんも集まっての貸し切りで、アニメでも見ているようなお料理が並んでる。ちなみに私のグラスには、オレンジジュースがたっぷりと注がれている。大人の飲み物はそんなに得意じゃなくて。
「いやー、ユイさんにガーネットひ…ではありませんでしたな、ガーネットさん。この度は本当にありがとうございました。」
町長のパンプキンさんに深々と頭を下げられる。ちなみにガーネット姫の正体は公然の秘密。みんな知ってるけど、仲良くするための配慮。この町では冒険者のガーネットさん。こういう大人の対応、結構好きだったりする私。
「いえ…そんな。町を守ったのは皆さんですし…私はジェットコースターを楽しんでただけでして…。」
首をブンブンと左右に振る私。隣に座るガーネット姫はというと、頷きながらニコニコとほほ笑んでいる。冒険者としての役目を果たせたと、昨日からこんな感じ。よっぽどうれしかったみたい。私もだけど。
「今日はとっておきの発表もありますので、ごゆっくりおくつろぎください。」
「ありがとうございます。」
「楽しみです。ありがとうございます。」
会釈をして場を離れるパンプキンさん。それにして、とっておきの発表ってなんだろう。ものすごく気になる。
「なんでしょうね、とっておきの発表って♪」
すごい笑顔のガーネット姫。そして気になるところはやっぱり一緒みたい。そんな話をしていると、隣のテーブルを囲む冒険者さんたちの話がもれ聞こえてきた。
「おい、知ってるか?指揮者が陣取ってた屋敷跡地、そこに不気味な彫刻があるらしいぞ。」
「不気味な彫刻?なんだそれ。」
「ユイさんが指揮者をとっつかまえてくれたから、しばらくモンスターも寄り付かないだろうと思って、今朝はやく探索に出た冒険者がいるらしいんだよ。また聞きだからあれだけど、その人が言うには…モンスターと見間違えるくらいに精工な彫刻が…数十体も飾られていたらしいんだ。」
「指揮者ってそういう趣味があったのか。まぁ、指揮者はギルド本部に送られたらしいし、持って帰ってきても良いんじゃないか?買い取ってもらえるかは知らんけども。」
「いや…無理だろ。モンスターの彫刻だぜ?…ガーネットさんが作ったとかなら、いくらでも出して買うけど。」
最後はよく聞こえなかったことにしたけど、なんだか不気味なお話だ。
―――そんなもの…あったかな?
思い返してみるけど、朽ち果てかけているお屋敷があったくらいで、特にそれらしきものは。
「ちょっと見てみたい気もしますけど…私がお人形さんをベッドに並べているのと一緒の感じなんでしょうか?」
ガーネット姫にも聞こえていたみたい。そして永遠の子ども心、怖いもの見たさが発動。
「うーん…お昼から見に行ってみる?」
「行きましょう!モンスターの彫刻なんて、まず見られませんし!」
目をキラキラさせてノリノリのガーネット姫。なんだか怖い気がするけど、がいこつと比べれば大丈夫。動き出したりしたら、あの時みたいに凍らせちゃえば良いし。
―――ん…?凍らせ…る…?




