036 唯、遊んでみる。
――――――屋敷跡地・ユイ
「うーん…オオカミさんは森に返しちゃったし…。」
帰りのこと、ちっとも考えてなかった。迷いの森を抜ければ結構な近道だけど、がいこつが出るかもしれない。恐怖で氷塊を作りかねないので却下。大回りするには距離があるし。
―――結構、登っちゃったしな…。
登るときはあんまり気づかなかったけど、結構な高さがある。絶景この上ない。でも、私は高いとこが苦手。長居はしたくない。というわけで基本書をぱらぱらとめくり、瞬間移動的な魔法を探してみる。
「あれ…ないのかな…?」
『あの、どうかされましたか?』
後ろで体育座りをしていた元指揮者に声をかけられた。頼るのも変だけど、聞いてみよう。ヘルバーストとか使われたし、きっと魔法に詳しいと思う。
「瞬間移動…みたい魔法ってないんですか?」
『…しゅ、瞬間移動ですか!?あれは旧文明時代の魔法でして、使えるものはもういないかと。魔王様…じゃなかった魔王が使えるそうですが…見たことまでは。』
「そうですか…。」
あるだけでもびっくりだけど、使えないなら仕方がない。別の方法を。
―――あ、そうだ!
数分後、私は町まで直線的に氷魔法を展開した。
■
『ぎぃやぁぁぁぁぁぁっ!』
「きゃーっ!」
悲鳴と絶叫とが交差する扉の上。すべり台の要領で氷魔法を展開し、その上に扉を置いただけの即席ジェットコースター。風魔法で加速して、鳥のはばたきを超える。バグステータスにより安全性が確保されているので、無茶苦茶なこともできちゃったりする。すーっごく楽しい。
『ひぃぃぃぃぃぃっ!ま、町が…町がせまって…あ。』
元コンダクターがぐったりしている。ちょっとやりすぎたかもしれない。でも、子ども扱いされたり魅力がないと言われたり、結構傷ついたもん。これくらいは許してほしい。
「とーうちゃーくっ!」
時間にしてわずか1分。風魔法を逆噴射して、スピードを緩める。完璧な計算という名の勘によって、ピタリと停止。
『ドブヘッァ!』
前言撤回。元指揮者は、慣性の法則に従って飛んで行った。
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――――――ヒマワリの町・ガーネット姫
「これは…新手か!?」
突然現れた氷の道に、再びの緊張が訪れる。常識を超越している魔法の力に、強敵の出現を予感する冒険者たち。ただ、ガーネット姫とギルドマスターだけは冷静だった。
―――これは…おそらくユイ殿の…。
―――そう…ですよね。これはユイの…。
アイコンタクトのみで完璧な意思疎通をはたす両者。先日の氷塊、その真実を知っている2人にとっては当然の反応だった。
「おいっ、なんかくるぞ!」
「叫び声…叫び声がするぞ!?人質がいるのかっ!」
慌てふためく冒険者たち。わかっていても焦るギルドマスター。わかっていてもユイのおっちょこちょいを懸念するガーネット姫。
「飛んでくるぞっ!」
「避けるんだっ!」
『ドブヘッァ!』
「うわぁぁっ…へ?」
「な、なんだこれ?」
門にめり込んだ黒い鎧。この日の出来事は、この世界の伝説として語り継がれることとなった。




