035 唯、魔王を超える。
『ひいっ!?や、やめてくれ!それだけは…それだけは…。』
山肌を後ずさりしていくコンダクター。今気づいたけど、私を包んでいた炎は消えている。どうやら戦意喪失らしい。そろそろ言うこと聞いてくれそうな気がする。
「で…町を襲うのやめてほしいんだけど。」
『ふぁ、はいっ!すぐにやめます。やめさせていただきます。全力で謝罪に向かいます。壊した塀なども修理します。ですから…その指だけは…!』
コンダクターが私からかなり距離をとりつつ、お屋敷跡地へと戻っていく。壊された…じゃなかった、私が壊した壁から入り、深紅の角笛をもってきた。
『こ、これが災厄の角笛です。これがあれば、モンスターを簡単に操ることができます。はい。』
まがまがしい見た目に、嫌悪感。そしていろんな意味で吹けそうにないので、やっぱり吹いてもらおう。
「じゃあ、それであそこのモンスター、もとに戻してください。」
『ひいっ!?は、はい。もちろんやらせていただきます。あなた様のお力になれて、恐悦至極に存じ上げ奉りますっ!』
ユイ・ハラグロモードは解除。いつもの調子に戻っただけなんだけど、違う意味でとらえられてしまったみたい。私、奉られるような存在では決してない。
あまり音らしい音は聞こえなかったけど、モンスターの侵攻は止まったらしい。町の方に見えていた黒い大軍勢が散らばっていく。どうやら解決したみたい。
「うん。それで、なんでこんなことしたんですか?」
一応聞いてみる。モンスターは町を襲うものだから、と言われればそれまでだけど。
『その…災厄の魔王様に命じられまして…。最近、冒険者の数が増えて困っているから、始まりの町ごと消してこい…と。』
やっぱり小説の世界みたく、魔王という存在がいるみたい。それにしても町を消そうなんて。
『あの…これ、差し上げます。本当は魔王様…じゃなかった、魔王の物なので返さないとダメなんですけど。』
「え?良いんですか?」
モンスターを操れるアイテムなんて、この世界では最高クラスのものだと思う。私が持っていても使えないけど、ギルドの人たちなら有効に使ってくれると思う。
『もちろんです。あの、あなた様のお役に立てるのならば、このギンガ、例え地獄の炎のなかでも。』
なんだか雲行きが怪しい。これ、まさかのクロックさんパターン。
「じゃあ、ギルドの人に引き渡しても良いんですか?」
どんな返答であってもそうするつもりだけど、弟子にしてくれとか言われると困る。主語をあえてぼやかしつつ聞いてみた。
『もちろんです。この命、すでにあなた様にお預けしたもの。どうされようと自由です。』
そこまでするつもりはないんだけど、我ながら恐ろしや。バグステータスとハラグロ。
■
――――――ヒマワリの町・ガーネット姫
ユイのハラグロモードが暴走していた頃、町の防衛は乱戦の様相を呈していた。
「はぁ…うぅ。」
額ににじむ冷たい汗。魔法の使い過ぎに加え、町の防衛を担うという責任。初めて襲いかかるその重さに、ガーネット姫の心は押しつぶされそうになる。
「そっちにいったぞっ!」
「おりゃぁーーっ、旋回斬りっ!」
次から次へと迫るモンスター。町への入口を死守せんとする冒険者。綱引きのような戦況が、綱渡りのような緊張感で進む。
―――うぅ…このままじゃダメです!
ユイとの約束を守るべく、ガーネット姫は何度でも立ち上がる。冒険者の名にかけて、守る。その強い思いが彼女を突き動かす。想いは強くとも、ガーネット姫の魔法制御はまだまだ発展途上。想定した範囲がずれることもしばしば。乱戦下では、味方の邪魔になりかねない。実力を痛感しつつ、物見やぐらからおりる。
「ファイア・バーストッ!」
ユイのそれには遠く及ばない、それでも敵を屠るには十分な火力をもって、敵陣に隙を生み出す。待っていましたとばかりに突撃する冒険者の集団。ガーネット姫の遊撃的な支援により、押され気味だった戦線を持ち直してく。
―――シュン
敵に危険と判断されたガーネット姫。当然に狙いは集まり、視線の外からの攻撃が迫る。
「おりゅぅぁぁあああっ!」
「!?」
鍛え抜かれた肉体が、ガーネット姫に迫っていた槍を叩き落とした。
「背後は任せろっ!」
「は、はいっ!」
ガーネット姫の頬が染まった瞬間、モンスターたちはピタリと動きを止めた。冒険者に広がる安堵感。とけていく緊張感をあらわすように、モンスターたちは方々へ逃げ出した。
「はぁ、はぁ…ユイ殿がやってくれたようですね。」
「さすがはユイ様。10分足らずでモンスターの大侵攻を止めるとは…。もはや魔王など襲るるに足らんな!」
「ユイ…やっぱりすごい!」
歓声がこだまする。ユイが勇者のごとく褒めたたえられるなか、町に迫るは氷の道。




