034 唯、腹黒くなる。
―――誰もいないのかな?
ほとんど朽ち果てている廊下を慎重に進む。「ミシッ、ギゴッ」と聞きたくないベスト3に入る音が響く。ワンピースの裾を握りしめ、慎重に慎重をきして進む。
『…なんだ貴様?』
床ばかり見つめていたら、目の前に立っていた存在に気づかなかった。おそるおそる顔をあげると、騎士のような格好をしたモンスターがこちらをにらみつけていた。怖。
黒いかぶとに黒い鎧、黒い大剣を右手に、黒い盾を左手に。人っぽい見た目をしているけど、人とはかけ離れた雰囲気がひしひしと伝わってくる。そしてマニキュアかな?爪の先だけが赤く光っている。おしゃれなのかな。ここまできたら黒一色で統一してほしかった気もする。私にそんな審美眼はないけど。
そんなどうでも良い思考をもって恐怖を制圧し、余裕しゃくしゃくな感じで切り出す。
「あの、町を襲うのやめてほしいんですけど。」
『ガキに用はない。さっさと…』
「町の人たち困ってるんです。」
『…さっさと帰…』
「あの、聞いてますか?」
『最後まで言わせんか―いっ!』
怒られてしまった。でも、言わないと。
「ですから、町を襲わないでください!」
『…もう、良い。』
なんだか呆れられてしまったみたい。ため息までつかれてしまった。
『お前ら、こんなガキが迷いこんだぞ!ったく、どうなっているんだここの連中は。』
あて先はあるけど、今は届かない言葉が飛んだ。
『…おい!聞いてるのか!?』
「あの…私しかいませんよ。」
教える気もなかったけど、心を折った方がはやいと判断した。ユイ・ハラグロモードの始動。
『…何を言っている。ここにはモンスターの精鋭が集まっている。色仕掛け…は無理そうだな。どうせこしゃくな手段で入ったんだろう。』
カチーン。はい、ユイ・ハラグロモード全速前進。壁に人差し指を添え、涼しい顔でバグステータスを開放する。
―――ピキッ…メキメキ…ドゴーンッ
ひび割れる、折れる、倒れるの順で、視界が開けた。右にあったはずの壁は、もうない。視界に広がるは広大な草原と動かないモンスターの山。
『おいっ!…は…?』
間の抜けた表情が目の前にある。驚いたときの表情、モンスターも共通らしい。もっとも、さっきのオオカミさんみたくかわいくはないけど。
『き、きさ、きさま、な、なにをした…!?』
動揺が全く隠せていない。仕返しの意味もこめて、笑顔で教えてあげる。
「あー、そこにいるのモンスターだったんだ。ちょっと魔法使ったら動かなくなっちゃったから、置物かと思ってたよー。」
棒読み。
『な、なにを言っている!?くそっ!地獄炎ッ!』
予備動作なしで巻き散らかされた黒い炎。包み込まれたけど…熱くはない。痛くもないし、ワンピースも燃えていない。良かった、これお気に入りなんだもん。
『ふはははっ!地獄の業火に焼かれるが良いっ!』
面倒なので、そのままデコピンを一発。
『…?グヘブファオロギフゲハドゥブブブクワッ!』
いろんなものを巻き込みつつ、コンダクターが山肌に突き刺さった。かかしみたい。
「だーかーら、町を襲うの…やめてほしいんだけど。」
炎に包まれながら、最大級の笑顔で告げる。
『な、なんなんだよ…ここ、始まりの町だろ!?なんでお前みたいな化け物がいるんだよっ!?』
ガキの次は、化け物呼ばわりされてしまった。悲しい。悲しすぎて、中指と親指が触れ合っちゃう。




