033 唯、扉を開ける。
―――うーん…よくわからん。
豪華なお屋敷なんて入ったことないし、構造がわからない。朽ち果てかけてはいるけど、どこか品を感じる作り。壊すのはちょっとためらわれる。
―――そういえば…なんとかの角笛で操っているんだよね、モンスターを。
急な倒置法。そして角笛の名前忘れちゃった。
それはさておき、角笛で操っているということは、角笛で退却させたりもできるはず。今、町をせめている大軍勢も、角笛で対応できるかもしれない。
―――それなら、角笛を見つけて…あ、でも私じゃ吹けないよね。
自慢じゃないけど、リコーダーで「ラシド」が吹けない私には荷が重すぎる。絶対裏返った感じになって、音がどっかいっちゃうんだもん。吹奏楽部を諦めたのも同じ理由。角笛がどういう仕組みかなんて見当もつかないけど、楽器の部類ではあると思う。となると。
「吹いてもらうしかないか、指揮者さんに。」
なぜそうなるオブザイヤーを受賞しそうな思考が頭を覆った。私は吹けない。町に戻っても、吹ける人がいないかもしれない。ここでお屋敷ごとコンダクターを倒しちゃうと、あの大軍勢が行き場を失って大変なことになるかもしれない。
見事な論理を辿って、明後日の結論を得た私。
「よし…行ってみよう。」
お屋敷の周りにはちょっと強そうなモンスターがうじゃうじゃいる。剣みたいなのを持ってるモンスターとか、なんか魔法を使ってきますよオーラ満載のモンスターとか。ゲームかマンガの世界でしかみたことない、現実離れしたモンスターの数々。今の私にとっては現実だけど。
―――とりあえず…凍らせるのがてっとりばやいよね。
木のかげに隠れて、基本書をぱらぱらとめくる。しおりをはさんでおいたので、目的のページにはすぐにたどり着けた。
「えーっと…氷の魔法で…範囲が広くて…あ、これだ。」
よさそうな魔法を発見。「敵を行動不能にする氷魔法の一。徒党を組んだモンスターに最適。」と説明されているけど、まさに。
「よーし…冷酷な微笑みと瞬息の影、ルースレス・フリーズッ!」
―――意味、怖。
■
―――あれ…?
一瞬光ったように見えたけど、特に変わった様子はない。魔法に失敗というのがあるかは知らないけど、失敗しちゃったのかもしれない。
―――うーん…ん?
何か違和感。目を細めつつ、もう一度お屋敷跡地の周囲を観察する。
「あっ、凍ってる!」
うじゃうじゃいたモンスターたち、微動だにしていない。歩き出そうとしていたモンスターは、右足を上げたままで止まっている。まるで時間が停止したような世界が広がっていた。
―――これ…強すぎじゃないかな?
自分で使った魔法だけど、なんだか怖くなってきた。名前ももちろんだけど、効果がえげつない。とりあえずお屋敷跡地の周囲をロの字に指定してみたけど、ぐるっと一周、見渡す限りのモンスターが停止している。
基本書を確認すると、効果時間は5分ほどと書かれていた。よし、5分で「交渉」しよう。
交渉を視野に、お屋敷の内部までは凍らせていない。ちょっぴり策士な私、えっへん。
「さてと…お邪魔しまーす。」
絶対に言う必要のない挨拶をして、扉に手をかける。隣に超怖いモンスターが立っているけど、凍っていれば怖くない。でも、がいこつだけは無理。凍ってようがなんだろうが。
―――開かないな…。
扉がギゴギゴいうだけで、びくともしない。氷魔法で凍ってしまったのかもしれない。しかたないので、別の方法を試してみる。
「せーの…よいしょーっ!」
近くにあった1メートルくらいの岩を持ち上げ、そのまま扉に投げつける。一応安全を考慮して、5メートルくらい離れたところからの遠投。バグステータスに頼り切った力業により、無事に扉は開かれた。岩も扉も粉々になっちゃったけど。
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