032 唯、スピードをあげる。
襲撃に備えて完全封鎖された北門をよじ登り、少し大回りをして森のなかへ。
―――がいこつだけは出てきませんように…。
そんなこと考えてる場合じゃないんだけど、あの恐怖には勝てない。半分祈るような気持ちを胸に、探知機を起動する。画面には簡易的な地図が表示されており、その上に赤い点がポツリ。どうやらこの点の場所が、角笛の発信源みたい。
「えーっと…昔のお屋敷跡地か…。」
廃墟や跡地を根城にするのは、小説の世界だけではないみたい。
「ん?」
―――グルルルルル
「なんだ、オオカミか。…って、オオカミッ!?」
白色の見た目は犬に見えなくもないけど、恐怖を感じるほどの巨体。オオカミにしても大きすぎる。
「クマさんといい、大きさぁぁぁっ!」
逃げる間もなくとびかかられた。そのまま噛みつかれたものの、やっぱりバグステータスは最強だった。
―――よかった…ちっとも痛くない。
そのまま右腕を振って、オオカミを投げ飛ばす。
―――グル…!?グワッフッ
勢いそのままに大木を巻き込んで倒れるオオカミ。私に投げ飛ばされたという現実が受け入れられなかったみたい。この表情は生物共通なのかも。
―――あご…はずれてないかな?
襲われといてあれだけど、ちょっと心配になる。
―――キュ…キューン(ふぇぇぇっ、命だけは…)
オオカミのものとは思えない鳴き声。ちょっとかわいい。
「あ、そうだ!私、あそこに行きたいんだけど、乗せてくれないかな?」
ダメもとだけど、とりあえず頼んでみる。そもそも言葉通じないと思うけど、私が走るよりは何倍も早くつけるはず。猫の手も借りたい現状、オオカミの足も借りたい。
―――キュル?クーン(それでお見逃しいただけるなら…)
「乗せてくれるの?ありがとう!」
なんとびっくり乗せてもらえた。このまま連れ去られるかもしれないけど、その心配はないみたい。オオカミ、冷や汗びっしょり。そんなに怖かったかな、私。
―――キュ、キューン(怖すぎる…ガクガク)
■
オオカミさんの助けにより、とんでもないスピードで森を抜けることができた。途中でがいこつを見た気がしないでもないけど、気のせいということにしておこう。あのスピードで過ぎ去ってくれれば怖くない。
―――遊園地のアトラクションみたい…!
高いところは無理だけど、ジェットコースター系は大丈夫な私。オオカミさんジェットコースターも満喫中。
「あの…無理はしなくても大丈夫だよ?」
ちょっと心配になって声をかけてみる。伝わるかどうかわからないけど。
―――ガル…キュクーン(ひぃぃぃぃぃっ!?)
なぜかスピードアップしてもらえた。急ぐ私にはありがたいけど。
そのまま山を駆けあがり、目的地であるお屋敷跡地の真裏までやってきた。木が間に入って中の様子までは見えないけど、見下ろせる場所にはこれた。
―――このまま魔法で…っていうのもありかな?
モンスターの巣窟に一般の人がいるとも思えないし、最悪破壊しても構わないという許可はもらっている。
―――ガ…ガウゥゥゥ…(も、もう無理です…。)
「わっ!?大丈夫?やっぱり無理しすぎたんじゃない?」
動物…というか、モンスターの生態なんて知らないけど、さすがに疲れたんだと思う。へにゃんといった感じで座り込んでしまった。
「ごめんね…あ、そうだ!えーっと確か…。」
回復魔法があったはず。モンスターに効くのかはわからないけど、助けてもらって何もしないのも。まぁ、最初は襲われたけど。
「女神の癒しッ!」
私のバグステータスだと、回復魔法ですらヤバいことになる。そう思ったので、とりあえず初級の回復魔法を使ってみた。初めて使うけど、淡く優しい雰囲気の光が周囲を包んでいく。なんだか落ち着く、そんな感じ。
―――キュ!?…キューン(ひいっ!?…あれ、気持ちいい…。)
5秒ほど経つと、光が自然に消えていった。どうやら回復完了らしい。オオカミさんもすくっと起き上がり、元気そうな表情になった。
―――ワフッ…キュルーン(好き、好きー。)
何だかなつかれちゃったみたい。背中をスリスリされている私。ちょっと不思議な光景。
「うえへへへ、くすぐったいよぉ。」
脇腹のあたりに鼻が当たり、ちょっと変な声が出た。
―――…って、こんなところで遊んでる場合じゃなかった!
「ありがと、オオカミさん。また会えたら遊ぼうね!」
クマさんに恐れられている反動からか、なついてくれた存在がとってもいとおしく感じた今日。オオカミさんは名残おしそうにしながら森に帰って行った。




