031 唯、胸をはる。
不協和音。不快に感じる音程、サイレンの音が鳴り響く町のなか。
「きゃっ!」
轟く音に、ガーネット姫が小さく悲鳴をあげた。音のした方向に目を向けようとした瞬間、建物内へ押し込まれるガーネット姫と私。直後に爆発音が響き渡った。
「申し訳ありません、緊急事態のようです。ご容赦を。」
私たちを守ってくれたクロックさんはそう言い残し、厳しい表情のままギルドの奥へと消えていった。
「…何かあったみたいですね。」
立ち上がりつつ、考えを巡らせる私。その答えは、すぐにもたらされることとなった。
「大変です!南門の周辺に大量のモンスターが!」
あわただしかった空気が一瞬とまり、堰を切ったように再び動き出した。飛び出してきたギルドマスターが指示を重ねる。
「すぐにギルド本部へ増援依頼を。防衛設備をフル展開して、町への侵入を防ぐんだ!」
「はっ!」
ギルドの職員さんが大慌てで部屋を飛び出す。
「ユイ殿、町が襲われています。防衛にご助力いただきたい。」
勢いに飲まれる私の隣で、こぶしを握り締める姫。
「わかりました!すぐに向かいます。」
「では…」
迷っている暇はなかった。こんな急展開は予想していなかったけど、後悔は後からにしよう。
「私も…私も行きます!」
こんなに大きなガーネット姫の声、初めて聞いた。
「…わかりました。くれぐれも無理はなさらないでください。誰の命も失いたくはないのです。」
厳しい表情のクロックさんがそう続けた。頷くガーネット姫と私。まずは南門の死守に向かう。
■
目的の南門までは100メートルちょっと。50メートル走11秒台の記録をもつ私は、若干遅れての到着。
「左だ!左から抜けるぞっ!」
「まかせろ!アイアン・クローッ!」
数十人の冒険者さんが門を死守していた。ただ、敵が多すぎる。
「くそっ!倒しても倒してもきりがねぇっ。」
隙間から遠くに目を向けると、歴史の資料集でみた大名行列のような雰囲気。終わることのない恐怖が心に住み着いた。
「おらおらっ!へばってんじゃねーぞっ!」
中央突破を狙ったモンスター数体を、たった一撃で吹き飛ばした。その剛腕、見覚えがある。
「…ジャイアントさん!」
私が冒険者になったあの日、決闘を申し込まれたあの人。武者修行に向かうとだけ言い残し、しばらくこの町を離れていた。
「ユイ様。不肖ジャイアント、山籠もりの武者修行を経て、戻ってまいりましたっ!」
「は、はひぃ!」
あまりの迫力に裏返った声でお返事。
―――って…いま、「ユイ様」って呼ばれなかったっけ!?
ユイ「殿」の次は「様」ときたか。ツッコミたい気持ちはあるけど、今は緊急事態。
「このジャイアント、命にかえてもこの門を死守しましょうぞっ!」
ジャイアントさんの気勢に、士気が急上昇する。押されかけていた雰囲気も一気に振り払った。
「私も加勢しますっ!」
ガーネット姫が見張り台にのぼり、魔法を連発する。街道に遮るものはない。上空からの奇襲にさらされたモンスターたちは、その勢いを弱めた。
「ユイ殿。ユイ殿には指揮者への対処をお願いしたい。コンダクターは『災厄の角笛』と呼ばれるアイテムを用いて、モンスターを操ります。この規模の襲撃、間違いはないでしょう。コンダクターを止めない限り、ここへの攻撃はやみません。どうか…。」
クロックさんからスマホのような道具を手渡される。
「角笛の音を探知できる道具です。これを辿れば、コンダクターのもとへ。…師にこのようなお願いをする不徳な弟子をお許しください。」
謝られてしまった。たしかに怖い。モンスターの本拠地に乗り込むんだから、怖くないわけがない。でも。
「大丈夫です!私は『冒険者』ですからっ。」
あっけにとられるクロックさん。ガーネット姫にしか伝わらなかったかもしれないけど、勇気をもらえる魔法の言葉。
「ここは皆さんで死守します!ユイ、お願いします!」
「ユイ様、たとえどれだけの軍勢が押し寄せようとも、絶対にここは通しません!」
皆さんの期待を胸に、この町の平和を胸に、私は駆ける。
「いってきましゅ!」
なぜここで噛む。私。




