030 唯、支えられる。
突然の丸太早切り大会優勝から1週間。遅れて襲ってきた筋肉痛もどこかへ消えつつある今日このごろ。
「さてとぉ、薬草をー探すぅ―。」
変な節回しと鼻唄混じりで橋を進む。橋といっても、ぬかるみを避けるために設置されただけの木の板。平均台みたいな感じ。バランスをとるために両手を広げているだけだけど、そんな少しのことから体育の時間を思いだす。跳び箱でキャッキャ言ってた時代が懐かしい。
―――年…とったよね。
まだ若いと自分に言い聞かせてはいるけど、筋肉痛が遅れてやってきたという事実に、なにか恐怖を感じている。テンションに合わせるように変化する鼻唄の調子。もともと得意じゃないけど、音程が次元を飛び越えてしまった。
「…。」
前を歩くガーネット姫の肩が揺れている。
「…ガーネット、もしかして笑ってる?」
全く怒ってないけど、ちょっと声色を変えて。こんなノリができるほどには距離が縮まった。私の大切な友だちは、この国のお姫さま。
「ふふっ、ユイはいつも明るいなぁと思って。」
「おいしいものいっぱい食べてるからね!」
鼻高々に胸を張って、えっへんのポーズ。
「っととと…うわっ!?」
見事にバランスを崩し、横の水たまりにダイブ。せっかくのワンピースが台無し…とならないのがこの世界。服が一瞬でキレイになる。おっちょこちょいで洗濯が苦手な私にとって、チートみたいなシステム。バグステータスによって、痛みもない。やっぱり異世界最高。
「大丈夫?」
ガーネット姫が手を差し伸べてくれる。
「えへへ…ちょっと油断した…。」
苦笑いを浮かべつつ、立ち上がる。支えてくれるガーネット姫、支えられる私。同い年のはずなんだけど、私が妹ポジションを突っ走っている。
「あ、薬草みつけた!」
怪我の功名。起き上がった視線の先、同じ高さに独特の光が。今回の目的、薬草を見つけた。テンションに身を任せて一歩を踏み出す私。
「あぶな…」
ガーネット姫の警告もむなしく、私は逆サイドの水たまりにダイブした。さすがの私もショックを受ける。後ろを見ようとまでは言わないけど、せめて前ぐらいは確認すべきだと思う。
「…。」
ガーネット姫が静かに手を差し伸べてくれた。ガーネット姫の優しさをもってしても、かける言葉が見つからなかったらしい。なんだか申し訳ない。
そんなドタバタを続けること1時間。無事に薬草採取とメタル・ラビットの討伐が終わった。最近では複数のクエストを受けても大丈夫になってきた。私だけなら絶対に忘れるけど、ガーネット姫が一緒だから安心。えっへん。
■
ギルドまで後少しにせまったところ、入口付近にギルドマスターの姿が見えた。遠くからでもわかるほどに忙しそう。職員の方がひっきりなしに案件を持ってきているようだ。書類がギルドマスターの腕に積み重なっていく。
モンスター異常発生の影響で、ここ数日ギルドはてんやわんや。ギルド本部から派遣された調査班の調査によると、何らかの襲撃が起きる可能性を否定できないとのことだった。丸太早切り大会の雰囲気は一変し、防衛設備の再確認や食料の備蓄など、緊急時への備えが着々と進められているここ数日。
「あぁ、ユイ殿にガーネット姫。無事の帰還、何よりです。外の様子はどうでしたか?」
いつもなら弟子にしてくださいの集中攻撃を受けるんだけど、ここ数日は違う。それほどの異常事態らしい。
「モンスターの数は増えていると思います。あと、モンスターがまとまって行動しているところが気になります。」
ガーネット姫の的確な受け答えに、ただ頷く私。
「なるほど…やはり何か起きそうな雰囲気ですね。モンスターが集団的な行動をするなど…滅多にあることではありません。」
基本書にも同じことが書いてあった。統率のとれた行動ができるのは、高レベルモンスターに限られているそう。ここは「はじまりの町」なので、周囲にいるのは低レベルモンスターのみのはず。
―――だとすると…操ったりしてるモンスターがいるのかな?
異世界ファンタジー的な思考をすると、そんな答えにたどり着く。もちろん理論的根拠があるわけではないので、胸の内にとどめてはいる。
「あれから詳細な分析が行われまして、指揮者が背後にいる可能性が指摘されています。私もその可能性が高いと思いますが、ユイ殿はどう思われますか?」
話を振られたけど、わからない言葉が一つ。助けてガーネット姫、みたいな目線を送る。最近頼りっぱなし。ごめんなさい。
「指揮者は、災厄の魔王に従っているモンスターのなかでも、かなり上位に位置するといわれています。特殊なアイテムでモンスターを操ることで集団を形成し、町を攻めた歴史もありますね。やっぱり、さっきユイが言っていた通りになってます。」
ガーネット姫のありがたい助け船に乗っかった。もちろんそんな話なんてしていない。お姉ちゃんに頼りっぱなしの妹です。
「さすがはわが師、ユイ殿。しかし、ガーネット姫の冒険に関する造詣の深さ、このクロック、感服するばかりです。」
ふたりしてちょっと照れる。そしてやっぱり「師」扱いされている。訂正しようと口を開きかけたとき、初めて聞くレベルの轟音が届いた。




