025 唯、友だちができる。
―――やってしまった…。
こんな「異世界チート系小説の王道的なセリフ」を、本当に呟くことになるなんて…思ってもみなかった私。
気にしないようにはしてるんだけど、隣にそびえる氷の壁は…それを許してくれなかった。
「ユイさん…いったいどういうお方なんですか?」
「…。」
お姫さまに「お方」なんて言われちゃった私。
いや、一般人なんです。
本当に。
ただ、うまれ育った場所が…ちょっとだけ遠くなだけなんです。
「本に書いてあった魔法だったんですけど…あはは…何か間違えたのかな…。」
「…。」
誤魔化そうかとも思ったんだけど、困惑のまなざしを受けて…急遽方針転換。
そもそもこんな天変地異みたいな氷塊をつくり出しといて、「一般人です…。」は…さすがに無理があるよね。
―――むぅぅぅ…。
いろいろと天秤にかけてみたけど、損得勘定はわかんなかった。
そもそもパーティまで組んでるガーネット姫に隠しごとを続けるというのも…なんか違う気がするし。
よし。
覚悟を決めて、スッと立ち止まる。
「ユイさん?」
「あの…ガーネットさん…。」
「はい。」
「実は…私…。」
信じてもらえないと思うけど、私はこれまでのことをありのままに話した。
別の世界からやってきて、バグの影響でステータスがふりきっちゃってることを。
―――言っちゃった…。
ちょっとはスッキリするのかとも思ってたけど、現実は違った。
胸のあたりにズキッとささる後悔と不安。
「…。」
「…そうだったのですか。あの、ユイさん!」
「は、はい。」
「もし…私でよろしければ、なんでも言ってください!私にできることなんて、大したことではありませんが…。その…た、頼ってください!…?」
杖をぎゅっと握って、優しい言葉でそう伝えてくれたガーネット姫。
想定外の返答に、言葉を見つけられない私。
「えっと…あの…ありがとうございます…その、信じてくれるんですか…?こんな話…。」
「異世界から来て、ステータスがバグってます」…なんて、普通に聞いたら荒唐無稽の極み。
信じろという方が無理だし、何かを隠すための嘘と怪しまれても仕方ない。
―――でも…。
ガーネット姫は信じてくれてる。
まっすぐな目で、私を見てくれてる。
うれしいやら恥ずかしいやらで、ドキドキが止まんない。
「その…ユイさんは…大切な友だちですから。」
「ガーネットさん…。」
「それに、ユイさん…たまに私の知らない言葉を使われてましたし…。それに、この氷塊を見れば…とても一般人とは…。」
「あぅ。」
ショックが声にならない言葉で漏れちゃった。
苦笑いを浮かべるガーネット姫。
―――そういえば…。
思い返せば、そんなこともあったかも。
私、敬語とか苦手で…ちょっとくだけたような会話をすることもある。
もちろん失礼のないように頑張ってるんだけど、知らないうちに「この言葉はこの世界でも通じるかなフィルター」をすり抜けていた可能性…あると思う。
「ユイさん…やっぱりすごいです。」
「へ?」
「もし…私なら、さっきの私みたいに…ただ怯えて、誰かにすがることしかできなかったと思います。ただただ泣いて過ごしてたかもしれません…。」
少しだけ目線を下げるガーネット姫。
「いや…ただ鈍感なだけで…。」
そう、危機感が足りないというか、明後日の方向にポジティブというか…。
要するに、その…褒めてもらえるようなことじゃ…全然ない。
「ユイさん。」
「はい。」
「やはり『ガーネット』とお呼びいただけませんか?私も…『ユイ』とお呼びしますので。その…私の大切な…『友だち』ですから…。」
うれしかった。
距離が縮まったというか、縮めてもらったというか。
あいかわらずの棚ぼた感は否めないけど、この世界で…はじめて「友だち」ができた瞬間。
三日坊主で終わることが目に見えてる日記だけど、今日のことだけはしっかりと書き残しておきたい…。
「改めましてよろしく…ガーネット!」
あ…敬語までどっか飛んでっちゃった。
タンクさんがいないとこで良かった…。
「はい!ユイ、よろしくお願いします!」
森の出口が見えてきた。
そこから吹き込む優しい風。
今まで気がつかなかった小鳥のさえずりに、なにかの訪れを感じた。
■
あんなに怖かった森だけど、抜けるときには笑顔になってたガーネット姫と私。
「ふへぇ…やっと抜けれた…。」
「ふふふ、大変でしたね。本当に。」
優しく微笑むガーネット姫。
その背後には…巨大すぎる氷塊が鎮座してるんだけど、見なかったことにしよう。
―――いや…さすがに…。
無理だった。
いつもの街道が見えてきて一安心なんだけど、いつもと雰囲気が違う。
「とりあえずギルドには伝えてきたけどよ…。なにかのモンスター…いや、天災…?」
「魔王がいよいよ侵攻してきたのか…?」
「おっかねぇよ。はやく町に戻ろう。町が一番安全だ。」
風にのって耳に届いた街道を歩く人たちの会話。
突然こんな氷塊が登場したんだから…当然の反応だよね。
うん。
張本人の私ですらびっくりしてるんだから、事情を知らない人ならなおさらのことで…。
―――わ…私のせいだ…。
どうしよう。
いや、どうしようもないけど…。
「大丈夫ですよ。とりあえずかき氷にでもしましょう。100年分くらいにはなりそうですね…。」
「…。」
私はポジティブって思ってたけど、ガーネット姫の方が一段上だった気がする。
かき氷…うん、そう思えば…。
―――いやいや…。
現実、現実。
魔法といっても氷だし、そのうちとけるはず。
理論をたどって明後日のポジティブさを取り戻した私。
気を取り直して、街道を進む。
幸いなことに町へたどり着くころには、氷塊は氷解してた。
―――魔法だし、きっと効果時間とかがあるんだね。
うん、ひとりで納得。




