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024 唯、壁を建てる。

「ユイさん…大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!」


 もちろん強がりです。

 かなりヤバい心境ではあるんだけど、しっかりしなきゃの精神でなんとかしてる。


―――ガーネット姫に迷惑をかけるわけには…。


 …ちっぽけな責任感を杖がわりに、生まれたての小鹿さんみたいな感じで立ってる私。

 でも、恐怖には波があるみたいで、ちょっとずつの改善傾向にはあるみたい。


「ユイさん、安心してください!私が…?」

「?」

「…。」


 みるみるうちに青くなっていくガーネット姫。

 胸をはったガーネット姫の右肩に…ボトリと落ちてきたのは…。


「ク…クモ…無理、無理です。ごめんなさい、ごめんなさい…。」

「大丈夫です!い、いまとりますから!」

 

 へなへなと座り込むガーネット姫。

 私もクモ苦手だけど、そんなこと言ってる場合じゃない。


―――ただの葉っぱ…ただの葉っぱ…。


 思い込み作戦を実行。

 右手をハンカチで覆って、そのままサラッと払った。


「あ…ありがとぉございます…。」


 さっきまでのテンションは一瞬にして崩壊。

 スタスタ歩いていたはずのガーネット姫、今は私の左手首を必死に握りしめてる。


―――ふ…振り出しに戻った…。


 微妙すぎるメンタルのバランスをとりつつ、なんとかして森を進む私たち。

 もう少し出現場所とか詳しく教えてもらっとけばよかった。

 いまさらだけど。


「み…見つからないですね…。」

「…ですね。あんまり奥に行くのは…アレですし、戻りつつ探しましょっか。」

「はい。そうしましょう。そうするべきだと思います。」


 すっごく肯定された私の提案。


―――あぁ…攻略サイト見たいな…。


 ゲームだったら間違いなく確認してると思う。

 もちろんスマホもパソコンもないこの世界にあるはずもなく…。


―――ん…?じゃあ、攻略本(こうりゃくぼん)とか作ったら売れるんじゃないかな?


 急にひらめいた商売のアイデア。

 得意かどうかはともかくとして、文章を書くことには慣れてる私。

 もとの世界ではキーボードをかたかたするのが中心だったけど、手書きでもいけないことはないはず。

 これは…ベストセラー作家への第一歩…かもしれない。

 そんな淡すぎる期待に胸を膨らませながら、おっかなびっくりで進む森のなか。


「うわぁぁぁっ!?あ…葉っぱでした…。」

「あはは…。」

「って…は、葉っぱじゃないです!?」

「!?」

『グググッググググ』


 不気味な重低音が響く森。

 私たちの真横に迫っていたのは、木のかたちをしたモンスターだった。


―――き、気持ち悪い…。


 いきなり失礼すぎる感想しか出てこないんだけど、枝っぽいのがうねうねにゅるにゅるしてて…生理的に無理。

 次の瞬間、モンスターがその枝をぎゅるんとのばしてきた。


「ガーネットさん、下がって!」

「ふわぃ!?」


 ガーネット姫とモンスターの間にカットイン。

 勢いそのままにモンスターとの距離を詰める。


―――むぐぐ…。


 にゅるにゅる動く枝に翻弄(ほんろう)されまくる私。

 触りたくないという強い気持ちが影響してるみたいで、思うように踏み込めないし…。


「おわっ!?おわわ…。」

「ユ、ユイさん!」


 ぬかるみに足をとられ、そのまま枝でぐるぐる巻きにされちゃった私。

 でも。


「大丈夫です!ちーっとも痛くないので、私ごと攻撃しちゃってください!」

「えっ…ええぇぇ!?」

『ギュググググッグググ』

「むぅ。」


 雰囲気的に締め付けられていると思うんだけど、(いた)くもかゆくもない。


―――さすがバグステータス。


 って、感心してる場合じゃないか。

 さすがに持ち上げられて振り回されると厄介(やっかい)なので、なんとか右腕をのばして…そのままモンスターの(みき)っぽい場所をぐいっとつかむ。


『グッ?…ギュォォォォォォォッ!?』

「あれ?」


 やりすぎたかな。

 モンスターから悲鳴みたいな声が聞こえてきた。


「ガーネットさん!今がチャンスです!攻撃を!」

「で、ですが…。」


 ガーネット姫が戸惑ってる。

 そりゃそうだよね。

 いくら私が大丈夫って言ってても、人を攻撃するのは…ためらうよね。


―――うむむ…このままグイっとひねれば…。


 作戦変更

 幹っぽい部分を思いっきりつねる。


『グギュゥゥゥゥゥゥゥッ!?』


 ベキベキと良くない音がしたかと思ったら、モンスターが私を解放してくれた。

 モンスターはそのまま森の奥へと消えていった。


―――あれ…まだあんまり力いれてないんだけど…?


 缶詰のフタをとるときくらいかな。

 まだこれからだったのに。

 ぐへへ。


「な…なんだったのでしょう…?」

「さ、さぁ…?」


 逃げていくモンスターの背中を見送りつつ、あっけにとられた私たち。

 クマさんパターンなのかな。

 このままいくと…私、モンスターたちに(おび)えられて生きていくことになりそう…。





「ほいっ!よいしょーっ!」


 どっかんどっかん。

 迫りくるモンスターを吹き飛ばしつつ、森の探索を進める私たち。

 ふたりともモンスターに慣れてきたみたいで、だんだんと恐怖心が薄れていくのがわかる。


―――よし…この調子で。


 異世界で冒険者として生きていく以上、モンスターには慣れなきゃいけない。

 毎度まいど怖がってるわけにもいかないし、なんとか克服しとかないと。


「フリージング・ライド♪」

「…。」


 ノリノリのガーネット姫。

 迫りくるモンスターを氷魔法でかためては、風魔法で好き放題に吹っ飛ばしまくってる。


―――…。


 見なかったことにした方が良いのかな。

 あとから怖い人たちがぞろぞろ来て、「さっき見たことは忘れてください。」なんて言われたりしないよね…。


「コツをつかめば…いけますね!」

「はい…よいしょっ!」


 そもそもここは「はじまりの町」の近く。

 ゲームでいうところの…チュートリアル的な場所なのだ。


―――そもそもガーネットさん、強いし。


 モンスターと戦った経験が少ないだけで、ガーネット姫はエリアボスである「オオイノシシ」に屈しなかったレベルの冒険者さん。

 恐怖心さえ乗り越えれば、このあたりのモンスターなんて…。


「ユイさん、こちら側は大丈夫なようです。」

「とうっ!よいしょーっ!こっちもオッケーです。」


 片付いたかな。

 20体くらいのモンスターに囲まれるときもあったけど、ごり押しで突破。

 特にケガもなかったし、さすがはバグステータス。


「それにしても…モンスター、多いですよね?」

「ですね。聞いてた感じと違うような…。」


 新人冒険者向けって聞いてたんだけど…。

 初心者がこれほど大量のモンスターを相手しなきゃいけないなんて…この世界、意外とスパルタなのかも。


―――…ん?なんだろ…なんか背中に当たったような…?


 気のせい…いや、木のせいかな。

 えへへ。


『ギャギャギャギャ』

「ユイさん、後ろですっ!」

「へ?」


 振り返ると…ヤツがいた。

 オバケ屋敷でさんざんに私の恐怖をあおり、学校の理科室へ入るのを躊躇(ちゅうちょ)しちゃう原因となった…白いあれ。


「が…が、が、がいこつぅぅ!?」


 くすみがかった白い骨がぷらーんてなってて、カシカシと軋むような音が響いてる。


―――…。


 これだけは本当に無理。

 絶対無理。

 泣く、泣きます…もう泣いてます。


「はわわわわぁぁぁ…。」


 動けなくなった私。

 剣らしきものを振り下ろされてるんだけど…構ってなんかいられない。

 ガーネット姫の魔法も有効打にはなってないみたい…厄介なうえに強いときた…。


―――うぅぅぅ…!


 全力で迎え撃とう。

 使ったことはないけど…基本書の最後、応用編のページに書いてあった魔法を記憶を頼りに…。


孤高(ここう)氷結界(ひょうけっかい)極光と白夜の物語ミッドナイト・ストーリアッ!」


 キュィィィィィィィン。


 目の前に幾何学的(きかがくてき)魔法陣(まほうじん)が輝く。

 一瞬の間もなく、爆発的な光量が放射された。


「…へ?」

「…?」


 ガーネット姫が…見せてはいけない表情をしてる。

 …あご、外れてないのかな。

 ちょっと心配。


―――…。


 それもそのはずで…さっきまで森だったはずの場所が、凍ってるんだもん。

 いや、そんな生易(なまやさ)しいものじゃなくて…目の前に氷の壁ができてる。

 流氷かなにかをドカンと落とした感じ。


 首を横断歩道を渡るときのように動かしてみたけど、壁のおわりは確認できない。

 上を見上げると…氷の壁は隣に見える山と同じ高さだった。


「…あ、あははは…やりすぎました…。」


 笑って誤魔化(ごまか)せる範囲、絶対に超えてる。

 こんなことになるなら、基本書に載せないでほしい。


―――いや…私のステータスのせいか…。


 クエスト達成の音楽が空しく響いている。

 どうやら目標(ターゲット)も、この氷塊(ひょうかい)に巻き込まれたらしい。

 棚ぼた。

 いえーい…。


「と…とりあえず帰りましょうか。」

「は…はい…。」


 茫然としてるガーネット姫。

 氷の壁を左に見つつ進む帰り道。

 結局、壁は森の入口付近まで続いていた。


―――はやく…とけて…。お願い…。


 必死の願いもむなしく、この氷塊は「町の七不思議」として語り継がれるのでした…。

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