表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/156

023 唯、恐怖と歩く。

―――【討伐依頼】森に()悪戯(いたずら)

依頼詳細 いたずらキノコ5体の討伐

対象地域 ビギナー地方・迷いの森

報  酬 700ゴールド

受注制限 なし


追加情報 迷いの森に出現する厄介者が暴れている。小屋や橋まで壊される始末だ…。俺の大切な写真も盗られちまった…。なんとか討伐してもらいたいんだが、ヤツは冒険者にもいたずらをしかけてくる。くれぐれも用心してくれ。 

―――



 依頼票を手に、町の出口へとやってきたガーネット姫と私。

 目的地の地図とかはもらってるんだけど、門番さんにルートだけ確認しとこ。

 …迷子になったら大変だもんね。


「すみません。」

「はーい。あぁ、ユイさんにガーネットさま…さん。クエストですか?」

「はい。『いたずらキノコ』の討伐で『迷いの森』に向かうんですが、街道をまっすぐで大丈夫ですかね?」

「『いたずらキノコ』ですか。俺もいろいろやられましたよ。顔に落書きをされたり、水をかけられたり…。はぁ…。」


 どうやら苦い思い出があるみたい。


「あ、すみません。ルートはこのまま『旅立の街道』を進んでもらえれば大丈夫ですよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「一応、道案内の看板は出ていますが…ヤツらが動かしたりしてるかもしれません。地図を頼りに進まれることをオススメします。」


 ありがたい情報がもらえた。

 でも、ひとつ問題が発生。


「地図…あの、ガーネットさん。」

「はい。」

「私…ちょっと苦手で…。」

「?」

「迷子になる才能にあふれてると言いますか…。」


 真逆に進む直観力を持ってる私。

 そういうときだけなぜか決断力バツグンで、確信を持って迷っていく。


「あぁ、なるほど。わかりました。お任せください!」


 苦笑いを浮かべつつ、胸をポンと叩いたガーネット姫。

 お世話になります。


「お願いします。」

「では、行ってきます。」

「はい。お気をつけて。」


 門番さんに手を振って、旅立の街道に歩を進めた私たち。

 「迷いの森」まで一直線の道のり。

 それでも迷うのが私なのです。

 えっへん。





「ユ…ユイさん?」

「は、はい。」

「ちょっと…ふ、雰囲気が…。」


 討伐クエストの舞台、「迷いの森」に無事たどりついた私たち。

 …なんだけど。


―――く…暗すぎじゃない…?


 自由奔放に成長した草木の影響で、太陽光がほとんど遮断されちゃってる森のなか。

 ガーネット姫、暗いの苦手みたい。

 ちなみに私も…右に同じです。


「…ちょっと薄暗すぎませ…ひいっっ!?」

「ガーネットさん!だ、大丈夫ですよ!ほら、ただの葉っぱですから。」


 私の右手首を強く握りしめて、森の様子に怯えまくりのガーネット姫。

 普段は少し見上げないといけないガーネット姫のお顔、いまは私の肩の高さに。


―――うーん…たしかに怖いけど、お化け屋敷と比べれば…うん。


 もとの世界で友だちに連れられて入ったお化け屋敷、とてつもなく怖かった。

 修学旅行の思い出なんて時空の彼方に吹っ飛んで、二度と行きたくないという強い決意(けつい)だけが(きざ)まれたあの夏。

 そんなわけで私も思いっきり叫びたい気分なんだけど、ガーネット姫のあまりの怖がりように…なんとか冷静さを維持してる私。


「は、入りますよ?」

「は…はぃ…。」


 消えそうな声でそう呟いたガーネット姫。

 が、がんばれ私。

 パーティだもん。

 こういうときは助け合わないと。


「ユイさ…きゃぁぁぁぁっ!?」


 ガーネット姫、森に入ってからずっとこの調子。

 「帰りましょうか?」と、何度も声はかけてみたんだけど…その度に泣きそうな顔で断られた。

 ガーネットさんの「冒険者」としての責任感。


―――わ…私も…そろそろ限界かも…。


 心臓バクバクが止まんない。

 気づかれないように平静を装ってはいるんだけど、背中は冷や汗が滝状態。


「あっ!」

「ひぃぅわっ!?ど、どうしましたぁぁ…!」


 からだをビクッとさせるガーネット姫。

 これはいきなり声を出しちゃった私が悪い。


「あ…ごめんなさい。ほら、あそこに『いたずらキノコ』が…。」


 ひそひそ声で伝え、指先と目線を左方へ移す。

 全長1メートルくらいかな?

 毒々しい見た目のキノコが3つ…いや、3体。


―――なんかバケツ持ってるし…絶対なにかのいたずら用だよね。


 見た感じ水っぽいけど、一応警戒しとこ。


「私…がんばります!ユイさん、見ててください!」


 その覚悟を受け止めて、コクリと頷く私。

 (ふる)える手を必死の様子でおさえつつ、ガーネット姫が(つえ)を構える。

 へっぴり腰ではあるけれど、最初は誰だってそう。


―――私なんか「終わった…終わった…。」って、震えながらそんなこと考えてただけだもんね…。


 モンスターに向かって行けてるだけ、スゴイと思う。

 さすがガーネット姫。


「…。」


 ガーネット姫が距離を詰めていく。

 魔法の射程範囲まであと少し。

 まだ「いたずらキノコ」には気づかれていない様子。


―――よいしょっと…。


 ちなみにだけど、他のモンスターにはたくさん気づかれちゃってる…。

 その辺は私がちゃんと投げ飛ばして対応中。

 気づかれた理由は…その…ガーネット姫の叫び声…いや、なんでもないです。


『ブゴッ?』


 あ、とうとう「いたずらキノコ」にも気づかれた。

 木陰に隠れようとする「いたずらキノコ」。

 でも、ここはもう魔法の射程範囲内なのだ。


「フ…氷雨の特急フリージング・ライナー!」


 ガーネット姫が放った氷の魔法。

 杖の先から放出された圧倒的な冷気(れいき)が、周囲を巻き込みつつ「いたずらキノコ」を瞬間的に凍らせていく。


『ブゴギャ…』


 巻き込まれたモンスターもろともHPバーが消滅し、「いたずらキノコ」は宝箱に変わった。


「や…やったー!倒せました!」

「すごいです!」

「初めての討伐クエスト…。」


 杖をぎゅっと握って、達成感をかみしめてるガーネット姫。

 私もうれしくなってきて、山積みになったモンスターをハンマー投げの要領で投げ飛ばす。

 祝砲の代わり。

 えへへ。


「宝箱です…宝箱です!」


 さっきまでの怯えはどこへやら。

 ガーネット姫は小躍(こおど)りしつつ、宝箱に向かう。


「わぁぁ!」


 ガーネット姫と私の歓声がかさなった。

 宝箱のなかには、緑色の小瓶(こびん)2本と小さなキノコが入っていた。


 モンスターを倒すと、まれにこのような宝箱があらわれる。

 ゲームの確率ドロップに似たシステムみたいで、この宝箱からしか入手できないアイテムもあるそう。

 そのようなアイテム収集が依頼内容となっている場合もあるので、時に運が必要だったりもするこの世界。


「よいしょっと…あと2体ですね。」


 宝箱のなかみを袋につめていく私。

 この袋もパーティーを組んだときにギルドでもらえるもので、アイテムが個人のものと混ざらないようにできる優れもの。

 要するに…普通の袋だけど。


「あと2体…ユイさん、探しましょう!」

「は、はい。」


 すっかり元気と明るさを取り戻したガーネット姫。

 るんるんな足取りで森を進んでく。


―――ひぃぃぃっ!?…あ、枝か…びっくりした…。


 対照的な私。

 だんだんとへっぴり腰になってきた…。

 恐怖がシミのように広がってくる。


―――オバケなんていないよね…何も…出ませんように…。


 折れかけの心を必死に支える私。

 恐怖を乗り越えたガーネット姫の後ろを、足を震わせながらついていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ