023 唯、恐怖と歩く。
―――【討伐依頼】森に啼く悪戯
依頼詳細 いたずらキノコ5体の討伐
対象地域 ビギナー地方・迷いの森
報 酬 700ゴールド
受注制限 なし
追加情報 迷いの森に出現する厄介者が暴れている。小屋や橋まで壊される始末だ…。俺の大切な写真も盗られちまった…。なんとか討伐してもらいたいんだが、ヤツは冒険者にもいたずらをしかけてくる。くれぐれも用心してくれ。
―――
依頼票を手に、町の出口へとやってきたガーネット姫と私。
目的地の地図とかはもらってるんだけど、門番さんにルートだけ確認しとこ。
…迷子になったら大変だもんね。
「すみません。」
「はーい。あぁ、ユイさんにガーネットさま…さん。クエストですか?」
「はい。『いたずらキノコ』の討伐で『迷いの森』に向かうんですが、街道をまっすぐで大丈夫ですかね?」
「『いたずらキノコ』ですか。俺もいろいろやられましたよ。顔に落書きをされたり、水をかけられたり…。はぁ…。」
どうやら苦い思い出があるみたい。
「あ、すみません。ルートはこのまま『旅立の街道』を進んでもらえれば大丈夫ですよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「一応、道案内の看板は出ていますが…ヤツらが動かしたりしてるかもしれません。地図を頼りに進まれることをオススメします。」
ありがたい情報がもらえた。
でも、ひとつ問題が発生。
「地図…あの、ガーネットさん。」
「はい。」
「私…ちょっと苦手で…。」
「?」
「迷子になる才能にあふれてると言いますか…。」
真逆に進む直観力を持ってる私。
そういうときだけなぜか決断力バツグンで、確信を持って迷っていく。
「あぁ、なるほど。わかりました。お任せください!」
苦笑いを浮かべつつ、胸をポンと叩いたガーネット姫。
お世話になります。
「お願いします。」
「では、行ってきます。」
「はい。お気をつけて。」
門番さんに手を振って、旅立の街道に歩を進めた私たち。
「迷いの森」まで一直線の道のり。
それでも迷うのが私なのです。
えっへん。
■
「ユ…ユイさん?」
「は、はい。」
「ちょっと…ふ、雰囲気が…。」
討伐クエストの舞台、「迷いの森」に無事たどりついた私たち。
…なんだけど。
―――く…暗すぎじゃない…?
自由奔放に成長した草木の影響で、太陽光がほとんど遮断されちゃってる森のなか。
ガーネット姫、暗いの苦手みたい。
ちなみに私も…右に同じです。
「…ちょっと薄暗すぎませ…ひいっっ!?」
「ガーネットさん!だ、大丈夫ですよ!ほら、ただの葉っぱですから。」
私の右手首を強く握りしめて、森の様子に怯えまくりのガーネット姫。
普段は少し見上げないといけないガーネット姫のお顔、いまは私の肩の高さに。
―――うーん…たしかに怖いけど、お化け屋敷と比べれば…うん。
もとの世界で友だちに連れられて入ったお化け屋敷、とてつもなく怖かった。
修学旅行の思い出なんて時空の彼方に吹っ飛んで、二度と行きたくないという強い決意だけが刻まれたあの夏。
そんなわけで私も思いっきり叫びたい気分なんだけど、ガーネット姫のあまりの怖がりように…なんとか冷静さを維持してる私。
「は、入りますよ?」
「は…はぃ…。」
消えそうな声でそう呟いたガーネット姫。
が、がんばれ私。
パーティだもん。
こういうときは助け合わないと。
「ユイさ…きゃぁぁぁぁっ!?」
ガーネット姫、森に入ってからずっとこの調子。
「帰りましょうか?」と、何度も声はかけてみたんだけど…その度に泣きそうな顔で断られた。
ガーネットさんの「冒険者」としての責任感。
―――わ…私も…そろそろ限界かも…。
心臓バクバクが止まんない。
気づかれないように平静を装ってはいるんだけど、背中は冷や汗が滝状態。
「あっ!」
「ひぃぅわっ!?ど、どうしましたぁぁ…!」
からだをビクッとさせるガーネット姫。
これはいきなり声を出しちゃった私が悪い。
「あ…ごめんなさい。ほら、あそこに『いたずらキノコ』が…。」
ひそひそ声で伝え、指先と目線を左方へ移す。
全長1メートルくらいかな?
毒々しい見た目のキノコが3つ…いや、3体。
―――なんかバケツ持ってるし…絶対なにかのいたずら用だよね。
見た感じ水っぽいけど、一応警戒しとこ。
「私…がんばります!ユイさん、見ててください!」
その覚悟を受け止めて、コクリと頷く私。
震える手を必死の様子でおさえつつ、ガーネット姫が杖を構える。
へっぴり腰ではあるけれど、最初は誰だってそう。
―――私なんか「終わった…終わった…。」って、震えながらそんなこと考えてただけだもんね…。
モンスターに向かって行けてるだけ、スゴイと思う。
さすがガーネット姫。
「…。」
ガーネット姫が距離を詰めていく。
魔法の射程範囲まであと少し。
まだ「いたずらキノコ」には気づかれていない様子。
―――よいしょっと…。
ちなみにだけど、他のモンスターにはたくさん気づかれちゃってる…。
その辺は私がちゃんと投げ飛ばして対応中。
気づかれた理由は…その…ガーネット姫の叫び声…いや、なんでもないです。
『ブゴッ?』
あ、とうとう「いたずらキノコ」にも気づかれた。
木陰に隠れようとする「いたずらキノコ」。
でも、ここはもう魔法の射程範囲内なのだ。
「フ…氷雨の特急!」
ガーネット姫が放った氷の魔法。
杖の先から放出された圧倒的な冷気が、周囲を巻き込みつつ「いたずらキノコ」を瞬間的に凍らせていく。
『ブゴギャ…』
巻き込まれたモンスターもろともHPバーが消滅し、「いたずらキノコ」は宝箱に変わった。
「や…やったー!倒せました!」
「すごいです!」
「初めての討伐クエスト…。」
杖をぎゅっと握って、達成感をかみしめてるガーネット姫。
私もうれしくなってきて、山積みになったモンスターをハンマー投げの要領で投げ飛ばす。
祝砲の代わり。
えへへ。
「宝箱です…宝箱です!」
さっきまでの怯えはどこへやら。
ガーネット姫は小躍りしつつ、宝箱に向かう。
「わぁぁ!」
ガーネット姫と私の歓声がかさなった。
宝箱のなかには、緑色の小瓶2本と小さなキノコが入っていた。
モンスターを倒すと、まれにこのような宝箱があらわれる。
ゲームの確率ドロップに似たシステムみたいで、この宝箱からしか入手できないアイテムもあるそう。
そのようなアイテム収集が依頼内容となっている場合もあるので、時に運が必要だったりもするこの世界。
「よいしょっと…あと2体ですね。」
宝箱のなかみを袋につめていく私。
この袋もパーティーを組んだときにギルドでもらえるもので、アイテムが個人のものと混ざらないようにできる優れもの。
要するに…普通の袋だけど。
「あと2体…ユイさん、探しましょう!」
「は、はい。」
すっかり元気と明るさを取り戻したガーネット姫。
るんるんな足取りで森を進んでく。
―――ひぃぃぃっ!?…あ、枝か…びっくりした…。
対照的な私。
だんだんとへっぴり腰になってきた…。
恐怖がシミのように広がってくる。
―――オバケなんていないよね…何も…出ませんように…。
折れかけの心を必死に支える私。
恐怖を乗り越えたガーネット姫の後ろを、足を震わせながらついていく。




