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022 唯、つい勢いで。

「これから…フィールドに出るのですね。」


 町の出口で歩を止めて、ゆっくりと視線をあげたガーネット姫。

 私にとっては町の出入口としか認識していないこの門も、ガーネット姫にとっては冒険者としての船出を意味する大切な場所。


「…はい。」


 大切なイニシエーションを邪魔しないように、小声で返事。

 門番のお兄さんも、あたたかい眼差しで優しく見守ってくれてる。


「なんと…美しい…。」


 もとい、見惚れてるだけだった。


―――…。


 別に悲しくなんかないもん。


「行きましょうか。」

「行きましょう!」


 コクリと頷き合った私たち。

 こうしてガーネット姫と私、ふたりの大冒険は幕を開けたのでした。





「ふふふーん、ふふふーん♪」


 へたっぴなスキップを添えて、鼻唄混じりに歩く街道。

 目指すは薬草や回復花が群生してるエリア。


「ふふふ、ユイさんご機嫌ですね。」

「ふぇ?あ、ごめんなさい。うるさかったですか?」

「いえ、初めて聞くお歌です。故郷に伝わるお歌ですか?」

「あ…えっと…はい。そんな感じです。」


 「流行りのJポップです。」とは言えないし、言っても伝わらない…。

 それはさておき。


―――「お歌」か…「お」をつけると品が出るのかな…?


 向上心が明後日の方向に進んでしまってる私。

 美化語を使うだけで品格が出るなら、誰も苦労しない。

 わかってるんだけど…かたちから入るのが私の常。

 うん。


「あ!ユイさん、あそこじゃないですか?」

「えっと…そうですね。お薬草が見えます。」

「?」


 …私には早すぎたみたい。


「こほん…。」


 実体のない咳払いをしつつ、群生エリアへ。


「これが…薬草なのですね。」


 ガーネット姫が見つめる先には、15センチほどに成長した葉っぱがゆらゆらと揺れている。

 濃い緑色をしてて、見た感じは「ほうれん草」とかに似てるかな。

 雑草とはまず間違えない見た目だけど、超簡単に見分ける方法があったりする。


「はい。青白く光っているのが薬草で…えっと…あった。この黄色く光っているのが、今回の目的、回復花だそうです。」

「そうなのですね。それにしても…さすがです、ユイさん!」

「え?あ、あはは…。」


 キラキラの目線を向けてもらえたんだけど、苦笑いしか返せない私。

 種明かしをすると、今しゃべったこと…全部ガイドブックに書いてあった。

 ガーネット姫が受諾の手続きをしてくれてる間、必死に覚えた。


「それにしても…回復花は少ないですね。やはり貴重な素材のようです。ギルドの人もおっしゃっていましたが…30本、なかなか骨が折れそうです。」


 苦笑いを浮かべたガーネット姫。

 ぐるっと周囲を見た感じ、1メートル四方に1本くらいの割合かな。

 黄色い光がポツンポツンと確認できる。


「じゃあ…始めましょっか!」

「はい!」


 ふたりで薬草のなかに飛び込む。

 うきうきな様子で地面とにらめっこを始めたガーネット姫。

 私もワンピースのすそをたくし上げて、その場にしゃがむ。


―――あ…またあった!


 採取は順調、とっても順調。

 黄色い光を頼りに見つけ、タッチして魔法で収納…その繰り返し。

 単調な作業だけど、これが意外と楽しかったりする。


「あ!見つけました!うふふっ!」


 ガーネット姫、超ハイテンション。

 はじける笑顔に、私まで笑顔になる。


 ところでこの「勝手に収納してくれるシステム」、想像以上に便利。

 収納方法は手で触れて、収納しようと思うだけ。

 取り出すときは、手のひらを下に向けて、取り出そうと思うだけ。

 とっても簡単だし、カバンが重たくなるような心配もなし。

 おそらくだけど、この世界で一番便利なシステム。

 子どもから大人まで、みんな使ってる。


 もとの世界に持ち替えれたら、大儲けできそう。

 ぐへへ。


『ピロピロリン♪』


 採取を続けることしばらく、独特な音が鳴り響いた。

 依頼内容を達成したことを意味するもので、スマホ…じゃなくて、冒険者証から発せられる。

 どういう仕組みとかはさっぱりわかんないけど、依頼を効率的にこなしたい人には人気のシステムらしい。


「ユイさん!やりました!はじめてのクエストクリアです!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるガーネット姫。

 身体が笑顔で構成されてるんじゃないかってくらいの笑顔も添えて。


「冒険者としての第一歩ですね!ギルドに報告してから、別のクエストもやってみますか?」

「もちろんです!」


 ガーネット姫につられて、私もテンションがあがる。

 誰かが楽しそうにしているのを見ると、やっぱり自分も楽しくなるよね。

 実家で飼っていたワンちゃんもそうだった。

 もちろん私は犬じゃないけど。





 無事にギルドへと戻ったガーネット姫と私。


「すみません。」

「はーい。」


 受付のお姉さんに声をかけて、クエストの達成報告をスタート。

 採取クエストの場合には、対象のアイテムや素材をテーブルの上に取り出すだけ。

 あとはギルドの担当者さんが、魔法で鑑定してくれる。


「ありがとうございます。えっと…31本ですね。超過分については、買取という形でよろしかったですか?」


 ちょうどで済ませたつもりだったんだけど、どこかで計算ミスってたみたい。

 まぁ、足りないわけじゃないから問題なし。


「はい。あ…これもついでにお願いしても良いですか?」


 薬草を数本取り出した私。

 間違えてとっちゃったんだよね…。

 あんなにわかりやすいのに。


―――…。


 …ちょっとでも儲けようとか思ったわけじゃないからね。

 うん。


「わかりました。となると…まずはこちらですね。達成報酬の300ゴールドになります。」

「わぁ!ありがとうございます!」


 報酬を両手で受け取ったガーネット姫。

 そのまま大切そうに見つめてる。


「こちらが超過分と薬草の買取分ですね。11ゴールドになります。」

「ありがとうございます。」

「以上で手続きは終了です。お疲れ様でした。」


 まだ受け取った報酬を見つめてるガーネット姫。

 その表情は、とーってもキラキラしてる。


―――いろいろ精いっぱいだったけど…楽しまなきゃ損だよね。うん。


 異世界なんてびっくりな経験の宝庫。

 小説のアイデアだって山のようにあるはず。

 文章にできるかどうかは…私次第だけど。


「がんばろ…。」


 両手をぎゅっと握った私。

 そのままガーネット姫と一緒に、掲示板の前へと移動する。


「やっぱりたくさんありますね。えーっと…。」


 とりあえず採取意外のクエストを中心に。

 採取依頼をこなすだけでも、十分に生活水準が保てるこの世界。

 もちろん採取だって誰かの役に立ってるわけだし、冒険者と名乗ることに何の問題もないと思う。


―――でも、やっぱり「冒険」っていったら…。


 モンスターと戦ったりしてみたい。

 フィールドに出て芽生えた好奇心。

 ガーネット姫からその気持ちを伝えられたとき、私もその気持ちに気づいた。


 石橋(いしばし)をたたきまくる性格なので、普段だったら絶対安全な依頼を選ぶと思う。


―――調子に乗ると…絶対痛い目にあうと思うけど、いろいろ挑戦してみたい。


 もちろんガーネット姫を強引に連れて行こうなんてことは全く考えていない。

 一緒に回復花を採取していると忘れてしまいがちだけど、ガーネット姫はこの国のお姫さま。

 万が一…なんてことは絶対に避けなきゃいけない。


「何かお困りですか?」


 好奇心(こうきしん)と理性のせめぎ合いをしていると、後ろから声をかけられた。

 ギルドの職員さん。

 いつもならクロックさんが飛んでくるタイミングなのだけれど…急用でいらっしゃらないらしい。

 理由はどうあれ、気にかけてもらえることは大変にありがたい今日このごろ。


「はい。今、回復花の採取依頼を終えたのですが、次はどれにしようかと思いまして。」

「そうですか。でしたら…こちらの討伐(とうばつ)依頼はいかがですか?ほとんどの冒険者さんが、初めての討伐依頼として選ばれていますよ。…まぁ、ユイさんには物足りないかもしれませんが…。」

「討伐依頼…。」


 ギルドの職員さんからまさかの提案。

 ちょっとびっくりしたけど、新人冒険者に対する提案としては当前だよね。

 そんな提案をされたガーネット姫は、とても真剣なまなざしで依頼票を見つめている。


 依頼票にはオレンジのタグ、討伐クエストである証。

 ちらっと横から見るに、対象は「プライアント」を2体。

 丸っこい水風船みたいなモンスターで、道中で何度か見かけたことがある。

 見た目はほとんどス○イムなんだけど、スラ○ムとは言えない大人の事情があったりなかったり。


―――…何言ってるんだろ、私?


 コホン…個人的には、ぷにぷにしてみたいモンスターランキング堂々の第1位。


「あの…他の討伐クエストだと…どんなものがありますでしょうか?」


 あら、どうやらガーネット姫的にはNG(ノー・グッド)だったみたい。

 そんなやりとりを、私はあたたかい目線で見守ってる。


「それでしたら…『いたずらキノコ』などはいかがですか?山小屋(やまごや)が荒らされたりして、木こりさんも結構困っていらっしゃるんですよ…。」


 緑というか茶色というか、毒々しい見た目にニヒルな感じの目。

 ちょっと怖い印象を受けるキノコ型のモンスター。

 大きさは私より少しだけ小さいくらい。

 …そう考えると結構怖いけど、それが異世界の標準クオリティ。


「それにしましょう!ありがとうございます!…ユイさん、大丈夫ですか?」

「もちろんです!」


 勢いそのままに返事をして、その勢いを維持して受付へ。

 ここまで来たらがんばるしかない。

 ガーネット姫のことは、私がちゃんと守る。

 バグステータスの名に賭けて。


―――…ん?なんか賭けるとこおかしいかな…?


 まぁ、そういう意気込みということで。


「あの、プライアントは苦手でしたか?」

「…いえ、その…かわいすぎて無理でした…すみません。」


 頬を染めて、少し下を向いたガーネット姫。


―――か…かわいいっ!


 ハートをズキュンて撃ち抜かれました。

 キュンです、キュンです。

 キュンが止まりません。

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