021 唯、手をふってみる。
ひとしきり感心した後、事情を飲み込んでくれた様子のクロックさん。
お姫さまが冒険者として活動するという…なかなかなレアケースだと思うんだけど、そこはさすが百戦錬磨のギルドマスター。
あごに手を当てて数秒、クロックさんの足が掲示板の方へ向いた。
「そういうことでしたら…あ、掲示板の方へどうぞ。」
「はい。」
クロックさんの後ろを歩く私たち。
あと…言って良いのかわかんないんだけど…。
―――窓の外から…すっごい視線を感じる…。
あれ…絶対タンクさんだよね。
心配なのはとってもよくわかるけど、現状…思いっきり不審者になってる。
ほら…ギルドの職員さんがひそひそ話を始めてる。
「昨日ご説明した通り、ほとんどのクエストは…この掲示板にはり出されています。討伐依頼はもちろん、採取や運搬の依頼…調査依頼などもここに掲示されます。」
縦1メートル、横3メートルくらいの木製掲示板。
冒険者関連の情報はもちろん、町のことなら…だいたいここを見れば載ってるらしい。
「私たちふたりで受けたいんですけど、おすすめというか…そういうのありますか?」
重ねて問うた私。
別に急かしてるとか、そういうわけじゃないんだけど…早くしないと、タンクさんが不審者として通報されちゃう。
せめてその…ドロボウみたいな頬被りだけでもとってもらえるとましなんだけど…。
届かないだろうそんな願いを込めて視線を送ってみたけど、やっぱり届かなかった。
―――…。
むしろ挙動不審になってる…不審者感倍増しちゃったし…。
「えっと…そうですね…。ユイ殿がついておられる以上、どんなクエストでも問題ないように思いますが…。」
「…。」
「これなどいかがでしょうか?」
そう言ってクロックさんが見せてくれたのは、緑のタグが付けられた依頼票だった。
―――「回復花を集めよ!」か…。
エリアボスの討伐とか、ダンジョンの探索とかじゃなかっただけで一安心。
それはさておき、ギルドにはさまざまな依頼が寄せられてくる。
薪を運んでほしいとか、畑を荒らすモンスターがいるから追い払ってほしいとか…とにかく多種多様。
そんなわけで、掲示板には山のように依頼票が掲げられているわけで…確認するだけでも一苦労だったりする。
―――基本的に依頼の受諾って早い者勝ちだし、わりの良い依頼はすぐなくなっちゃうみたいだし。
そんな苦労を少しでも軽減してくれるのが、このタグ。
そのクエストの種類を色で、難度を星の数でシンプルに示してある。
「採取クエスト…回復花を…30本集めれば良いのですね!」
ガーネット姫がウキウキな様子で依頼票を受け取った。
ちなみに緑のタグは採取クエスト。
薬草や回復花を集めてほしいという依頼はもちろん、加工品を納品してほしいという依頼もここに分類されているらしい。
ちなみに新人講習で聞いたことの…受け売り。
えっへん。
「ユイさん!私、このクエスト受けてみたいです!」
「良いと思います!依頼主も町の人ですし、ガーネットさんの思いにもあってると思います!」
ガーネット姫の勢いに押され、私まで元気100パーセントな声でこたえる。
採取クエストなら危険は少ないはずだし、なによりガーネット姫の「人助けがしたい」という冒険者理想像にもマッチしてると思う。
―――クロックさん。
クロックさんと、目と目で通じ合う私。
できるだけ危険は避けたいという考え、一致しているみたい。
さすが頼りになるギルドマスター。
「では、あちらの受付に依頼票をお出しください。あ、冒険者証も一緒に提示してくださいね。」
「はい!ありがとうございます。行ってきます!」
ガーネット姫が天使のような笑顔を添えて、無邪気に手を振ってる。
私も笑顔。
クロックさんはもっと笑顔。
周囲の冒険者さんたちにいたっては、笑顔を突破している。
―――タンクさん…泣いてるし…。
ガーネット姫とタンクさんって、親子くらいの年齢差だし…いろいろ思うところあるんだろうなって、勝手に妄想で想像を補った私。
「…ところでユイ殿。ガーネット姫とパーティーを組まれた…ということですよね?」
「…はい。あの、何かまずかったですか?」
そう、ガーネット姫と私はパーティを組んでる。
昨日の新人講習で教えてもらったんだけど、パーティを組むメリットはたくさんあるらしい。
共同で建物を借りれたり、依頼をパーティとして受諾できたり…挙げればきりがないくらい、痒い所に手が届くメリットがたくさんある。
―――まぁ、申請書を書くだけだったし。
というわけで昨日、新人講習おわりに申請しといた。
ガーネット姫の案を採用して、「ばらのはなたば」というなんともかわいらしい名前のパーティーを組んだんだけど…新人冒険者どうしだし、何か特別な手続きが必要だったのかな。
「いえ。ユイ殿はこの町の最高戦力ですから…もし、仮に、万が一、お手すきのことあれば…その、討伐依頼など受けていただけますと…。あ、いえ、そのお願いといいますか、私個人の気持ちといいますか…。」
私が最高戦力であるか否かはさておいて、討伐クエストの受注は町を守るうえでも大事だったりする。
ここはゲームの世界でいうところの「はじまりの町」的な場所なので、新人の冒険者さんがほとんど。
当然ながら強力なモンスターを討伐できる冒険者は限られてくるわけで…。
ギルドもいろいろと大変なんだと思う。
―――お世話になってるし、できる限りのことはしたいよね…。
魔王を倒すとかは無理だけど、少なくとも「オオイノシシ」はなんとかなったんだし、バグを頼れば大抵のことはなんとかなるはず。
「わかりました。どこまでできるかわかりませんけど、がんばります。」
「そうですか!ありがとうございます。」
「ユイさーん!」
「あ、はーい!」
ガーネット姫が待つ受付へと向かう私。
ちょっとだけガーネット姫の真似をして、クロックさんに手を振ってみたんだけど…いたって普通の笑顔だった。
周囲の冒険者さん…気づいてもくれないし…。
―――…。
ガーン。
なんだか悲しい。
そんなことを考えながら歩いていると、後ろから何か聞こえてきた気がする。
…気のせいかな。
「ガーネット姫がユイ殿とパーティーを…。ということは、ガーネット姫はユイ殿の一番弟子も同然。つまり、ガーネット姫に弟子入りすれば、私もユイ殿の弟子ということに…ぶつぶつ。」
き、聞こえなかったことにしよ。
あとタンクさんがギルドの職員さんに捕まってるけど、まぁ…気にしない、気にしない。




