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020 唯、全力で応援する。

「うーん…。」


 ガーネット姫との待ち合わせ時間までは、まだ少しある。

 あんまりうろうろして不審者扱いされるのも困るので、塀を背に地面にお絵描きを始めた私。


―――子どもと間違えられるのが役に立つことって…あるんだね。


 傍から見ると、地面という壮大なキャンバスに集中する子どもにしか見えないはず。

 木の枝、拾っといて良かった。


―――な、なんか…悲しい。


 そこはかとない悲しみはさておいて、何を描こう。

 当前のように絵のセンスは持ち合わせていない私。

 小説の設定とか書くときに、ちょこっとイラストを描くことはあるんだけど…うん。


「…。」


 こう…なんて言うんだろ。

 自分で描いた絵なんだけど、自分でも恐怖を感じちゃうんだよね。

 もう一周まわってセンスがある気すらしてる。


「クマさんでも描こうかな。本物のクマさんだと…怖すぎるから、ぬいぐるみをイメージして…。」


 まずは耳から…あら、右耳がピサの斜塔みたいになっちゃった…修正、修正。

 次は輪郭。

 おっと…台形を描きたかったわけじゃないんだけど…そうなっちゃうか。

 じゃあ、目から…あ…これは…目線が…。


「よし…できた。うん。かんぺ…き。」


 地面と格闘を続けること数分。

 なんとか完成。

 どこからどう見ても、クマさん。

 …闇の魔法に支配されちゃったバージョン。


「しょ…証拠隠滅…。」


 戻るキーを連打…じゃなくて、右足で砂をジャッジャッとならしとく。

 誰も見てないよね。

 うん。





 そんなこんなで暇をつぶすこと数分。

 ドアがガチャリと開く音がした。


―――ガーネット姫かな?


 塀の隙間から館の方を見てみると、装備一式に身を包んだガーネット姫の姿があった。

 白色を基調とした魔法使いのローブ、腰にはカーキー色のカバン。

 右手には…バラかな?きれいなお花がたくさんあしらわれてる魔法の杖。


「すごぉ…。」


 アニメとかで見る魔法使いのイメージそのまま。

 見惚れちゃいそうな勢いだけど、ここに隠れてるわけにもいかない。

 入口へテトテトと歩き出す私。


「タンク、見送りは大丈夫ですから。王城へ戻る準備をなさい。」

「いえ…ユイさんにお会いするまでは…。それに姫様、宿の準備などは大丈夫なのですか?もし必要でしたら、私が…。」

「昨日ちゃんとギルドの方に教えていただきましたから。今日からクエストも受けられますし、お金のことも大丈夫です。」

「は、はぁ…しかし…。」


 (ねば)(ごし)を発揮しまくるタンクさんと、それを足早な歩みであしらうガーネット姫。

 なんだかちょっぴり申し訳ない気持ちがあるんだけど、ここは夢の出発点なのだ。

 夢を追い続けてるひとりとして、ガーネット姫のことを全力で応援したい。


「もう待ち合わせの時間になりますから。」

「ですから…ユイさんにお会いするまで…。」

「もう…ちゃんと3か月後の結婚式までには戻りますから…あ、ユイさん!」


 ガーネット姫と目線があった。

 飛び切りの笑顔で手を振るガーネット姫と、いまにも泣き出しそうなタンクさん。


「ガーネット姫。おはようございます。」


 とりあえずご挨拶を。


「おはようございます。…あの、できれば…。」


 そうだった。

 昨日の新人講習でも、「冒険者間での敬語はできる限り避けること」と教えてもらったんだった。

 指揮系統がばれないようにするためとかなんとか…まだ戦乱の世だったころの名残(なごり)らしい。


―――でも、さすがに…。


 ガーネット…はまずいよね。

 いろいろ問題になりそうだよね。

 下手するとタンクさんに捕まるよね。


「えーっと…ガーネット…さん。」


 ガーネット姫は笑顔で納得のご様子。

 タンクさんはというと、アニメみたいにあごが外れてた。

 両手で支えてるみたいだけど…大丈夫かな。


―――お城の人の前では…「姫」ってちゃんとつけよう。


 その度にあそこまで驚かせちゃうのは、さすがに申し訳なさすぎるもん。

 あごがいくつあっても足りなくなっちゃう。

 そんなことを考えていたら、あごを支える勢いそのままに、タンクさんが急接近。


「!?」

「ユイさん!」

「ひゃいっ!?」

「姫様のことを…どうぞよろしくお願いいたします。」


 頭を深々と下げたタンクさん。

 この時のタンクさんの表情…私、忘れることはないと思う。

 私は責任感を胸に、ありったけの元気をかき集めてこう宣言した。


「任せてくだしゃい!」


 …なぜここで噛む、私。





「も…もう少しだけ…。」

「はぁ…わかりました。ギルドの入口までですよ。すみません、ユイさん。」

「いえいえ。」


 館の入口でしばしのサヨナラを済ませたはずなんだけど、タンクさんの心配がやむことはなかったみたい。

 最初は「そこの階段まで…」だったはずなんだけど、「もう少しだけ…」が繰り返された結果、ギルドのすぐそばまで来ちゃった。


―――ガーネット姫も根負けしてるし…。


 私は苦笑いを浮かべることくらいしかできないので、満面の苦笑いで対応中。

 別に嫌とか、そういうネガティブな感情を抱いてるわけじゃないよ。

 衛兵さんがそばにいてくれるんだから、むしろ安心感があるし。


「では…ここで。」

「はい。落ち着いたらお手紙書きますから。」

「姫様…はい。あの、お返事を書いても…よろしいでしょうか?」

「お手紙ですからね。もちろんです。」


 ガーネット姫、意外とツンデレなのかな。

 そんな会話を生暖かい目で見守る私。

 にゅふふ。





 タンクさんと別れた私たちは、いよいよ冒険者としての第一歩を踏み出した。

 …私は第五歩くらいの感じだけど、実質的には第一歩ということで。

 昨日、新人講習も受けてるし。


 ギルド前の階段をのぼりきった瞬間、ガーネット姫がくるりとこちらに向き直った。


「?」

「ユイさん、改めまして…よろしくお願いします。」

「あ…こちらこそ、よろしくお願いします。」


 ペコリと頭を下げ合った私たち。

 身長差と立ってる場所の位置関係で…視線の高さはガーネット姫のお膝…。

 なんだか悲しい。


―――あれ…?もしかして、私が階段の上で…丁度おんなじくらい…?


 知りたくなかった真実に気づいてしまった私。

 いきなり自分でメンタルを崩壊させてしまったけど、すぐにいつもの調子を取り戻す。


「では…行きましょうか。」

「はい。」


 所作から落ち着きと気品があふれてるガーネット姫。

 扉の開け方にもなんだか品がある。

 そう思いだすと、一挙手一投足に品を感じるから不思議。


―――私も…あんなスゴイ感じになれるのかな…?


 高望みがすぎるかな。

 でも、目標は高くても良いよね。

 うん。


「これはこれはガーネット姫。ようこそギルドへ。」

「おはようございます。」


 受付付近にいた人たちに声をかけられた私たち。

 ガーネット姫は、気品あふれる微笑みと会釈を返してる。


―――なるほど…そうするのか。


 またひとつ勉強。


「ユイ殿!おはようございます!洞窟に潜む怪物の主を討伐する依頼(クエスト)があるのですが…?」

「!?」


 奥の部屋から扉を半壊にしつつ飛び出してきたのは…もちろんクロックさん。

 この町のギルドマスターにして、扉の押す引くを確認しない人代表。

 怪物の主とか…絶対に新人冒険者に任せる依頼じゃないと思うんだけど…それはさておき。


―――ペコリ。


 せっかくなので、ガーネット姫にならって、微笑みと会釈を返してみた。


「…?私の顔に…何かついてますか?」

「…。」


 クロックさんには伝わらなかった。

 どうやら私に「品」とやらは早すぎたらしい。


「あ…えっと、おはようございます。」


 いつもの調子に戻り、そのままガーネット姫の方へと視線を移す。


「…は!これはガーネット姫。本日はお日柄も良く…ではなくて…何かありましたでしょうか?」


 急にテンションと対応が変わるクロックさん。

 そりゃそうだよね、お姫さまだもん。


―――…私ももう少し敬意を表さないと…まずいかな?


 えっと…本日はお日柄も良く…。

 だ、だめだ…私には無理っぽい。


「実は…私、冒険者になりたいのです!」

「…へ?」


 ガーネット姫突然の宣言に、クロックさんは目が点。

 思いが前面に出過ぎたみたいで、いろいろな説明が置いてけぼりにあってる。

 肝心のガーネット姫はというと、高らかに宣言できて満足そうな表情を浮かべているので…ここは私がフォローしてみる。


「あの…かくかくしかじか…でして、採取依頼あたりから始めてみようかと…。」

「なるほど!さすがはガーネット姫。多くの世界に視線を向けられるその姿勢…クロック、感服の至り。」


 周囲の冒険者さんからも感嘆の声が上がった。

 ガーネット姫の少し照れたような視線がこちらに向いたとき、もう一度「品のある微笑み」に挑戦してみた私。


―――ニコッと。


 どうかな?


「あの…ユイさん。私の顔に何かついていますか?」


 いえ…そんなことは…。

 ぐすん。

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