018 唯、学ぶ。
町を1周して、なんとかギルドにたどり着いた私。
2周しなかっただけ成長。
うん。
―――…。
次こそは。
謎の意気込みを胸に、ギルドの扉を開く。
「おはようございます。」
「おはようござい…ん?ユイ殿ではありませんか!今日はどの依頼を受けられます?巨大クマを追い払う依頼などおすすめですが。あと魔王討伐などもおすすめですね。えぇ。」
ギルドに着くなり、クロックさんがクエストを勧めてきた。
弟子入り志願とかされないだけましなんだけど、ギルドマスターというお偉いさんがこんなほいほい出てきて良いのかな…。
むしろそっちの方が心配になる私。
―――いや、そうじゃなくて…。
今、「魔王討伐」をさりげなく勧められたよね。
一瞬、受けてみようかなとか考えちゃったけど、新人冒険者になに世界の命運を任せようとしてるんだろ…この御仁。
「魔王…じゃなくて、今日は別の用事で…。」
「そうですか…。」
そんな露骨にがっかりしないでください。
「あの…冒険者試験に受かった人の講習ってあるじゃないですか。」
「ええ、ありますよ。新人講習ですね。…もしや、講師を引き受けてくださるのですか!?いやー、ユイ殿が講師となれば、我がギルドのレベルは世界一、もはや『新人ギルド』などとは呼ばせませんっ!」
すごい勢いで話が進んじゃった。
しかも、あらぬ方向へ。
「そ、そうじゃなくてですね…私も受けれたりしますか?その…新人講習。」
再び露骨にがっかりしたクロックさん。
そして、やや困惑した表情になったクロックさん。
「え…?ユイ殿が…新人冒険者の講習を受けられるのですか?おそらく必要ないとは思いますが…一応、受けることはできますよ。」
「そうなんですか!ありがとうございます!私、受けたいです!」
これで私も「常識」を手に入れられる。
そんな喜びのテンションに任せて、キラキラの目線をクロックさんに送った。
「は、はあ。わっかりました!ユイ殿の頼みとあればこのクロック、たとえ火の中水の中っ!」
そ、そこまでは大丈夫です。
「…そういえば、今日はガーネット姫が試験を受けられていますよ。冒険者のことまで学ばれているとは…いやはや。」
感嘆、といった様子でクロックさんが試験会場に目をやる。
私もその視線を追って、静かに応援。
がんばれ、ガーネット姫。
「あの…それでガーネット姫は、合格できそうですか…?あ、えっと…実は昨日、一緒にお勉強を…。」
「ユ、ユイ殿がガーネット姫と!?」
「あ…えっと、私は本を読んでたくらいなんですけど…。」
あと、途中から爆睡してました。
ごめんなさい。
「ユイ殿はあいかわらずですね…。」
「あはは…。」
「うーん…個人の成績については、いくらユイ殿の質問とあれどお答えできないのですが…。今回の試験では、不合格者は出ないと思いますよ。」
「…!」
間接的に合格だと教えてもらえた。
クロックさん、やっぱり良い人。
―――それにしても…まだ午前だよね?
試験は2部制のはず。
昨日、タンクさんがそう言ってみえたし、目の前に掲示にもそう書かれてる。
まだ後半の試験が終わってないはずだけど、その結果を待たずにそういう話が出るということは…前半がかなりの高得点だったということ。
―――さすがお姫さま…。
それよりも…この町の人たち、レベルが高すぎ。
…いや、意外と簡単な試験なのかな。
レベル10で受けれるみたいだし、中学生くらいの子も受けてるみたいだし。
あ、例題あるじゃん。
こう見えても社会人の私。
さすがに解ける。
―――えーっと…魔法の集中点までの距離をT1(集中点を含まず。)、集中点から拡散点までの距離をT2とする。放射式の火属性魔法をt秒間使用した場合、魔法の有効威力Gはどのように変化するか。シュークリーの魔法波動方程式を用いて図示せよ。なお、魔法波動定数は4.9071とし…。
「…。」
「ユイ殿?」
「…。」
あれれ、あたまがくらくらするよ。
しゅーくりーむほうていしき?
なにそれ、おいしいの?
「試験、終わったみたいですね。採点はそんなにかかりません。そのままあの部屋で講習が始まりますので…あ、お席を用意しますね。」
「…は、はい。」
遠慮する間もなく、クロックさんはイスを探しに飛んでっちゃった。
…試験、受けなくて良かった。
■
「どうぞ!」
クロックさんが用意してくれたイス。
どこまで伸びてるんだってくらいに背もたれが高くて、王様が座ってそうなくらい豪華なんだけど…。
私のこと、ガーネット姫と勘違いしてません…?
「ありがとうございます…あの、もう少し…普通な感じのイスというのは…?」
むしろその辺の木箱をお借りできれば、それで。
「すみません、これより豪華なものとなると…あ、そういえば倉庫に…。」
「いや、逆です、逆!豪華すぎます!」
「…?ご遠慮なさらず!ユイ殿はこの町の英雄なのですから。さぁ、どうぞ!」
「…。」
座ります。
座らせていただきます。
「ユイさん!来てくださったんですね…ありがとうございます!」
試験終わりのガーネット姫と目が合った。
疲れを見せず、とびっきりの笑顔で駆け寄ってきてくれるガーネット姫。
―――ほわぁ…心が洗われるぅ…。
嫌なこととか、全部吹き飛んじゃう。
そんなひまわりのように明るい姫の後ろでは…タンクさんが周囲に氷のようなにらみをきかせている。
ガクブル…怖い。
「試験…どうでしたか?」
「難しかったですが…ユイさんのおかげでなんとかなった気がします。これで私も冒険者に…。」
最後の言葉は、タンクさんに聞こえないよう、耳打ちで伝えられた。
秘密を知るという…ちょっぴりくすぐったい気持ちを抱えつつ、笑顔を返した私。
「ユイさんは特別な試験で冒険者になられたのですよね?」
「はい。レベルが足りなくて…。」
「…その試験も、受けた方が良いのでしょうか?」
「!?」
「ユイさん?」
「えっと…やめときましょう。いろいろな人の人生設計のために…。」
「?」
試験とはいえお姫さまと戦ったりしたら…クロックさん、左遷されちゃう。
いや、左遷ですめば良いけど…。
「お待たせしました。試験結果を掲示しましたので、ギルドホールの掲示板をご確認ください。」
「ユイさん、見てきます…!」
「はい。」
緊張している様子のガーネット姫を、優しい笑顔で送り出した私。
「やったー!」
「合格だぜっ!」
「これで俺も冒険者に!」
ひまわりのような笑顔で帰ってきたガーネット姫。
もちろん、不合格の欄には、何の記載もなかった。
「では合格者の皆さん、講習が始まりますので、お好きなお席へどうぞ。参考資料は入口の机に置いてありますので、各自1部ずつおとりくださいね。」
私の分はクロックさんが持ってきてくれた。
やっぱり扱いがおかしい。
丁寧にお礼を言って、これまた扱いのおかしいイスに腰をおろす私。
「皆さん、試験合格おめでとうございます。今日より皆さんは冒険者です。」
そんな感じで始まった新人講習。
知らなかったこといっぱいで、とてもためになりました。
あと、少しだけど初級魔法も教えてもらえた。
もちろんバグステータスの私が使うと…大変なことになってしまうので、実践はしてない。
「では、以上で講習を終わります。冒険者証ができておりますので、受け取ってからおかえりください。登録手続きの関係上、本日は依頼の受諾ができません。明日以降、ギルドへお越しください。」
アナウンスが終わり、新人冒険者たちが巣立つ瞬間が訪れた。
王族という忖度はないみたいで、ガーネット姫もしっかりと列に並んで冒険者証を受け取ってる。
「ユイさん、ユイさん!やりました、私、冒険者になれました!」
ガーネット姫がかわいらしい小躍り。
「おめでとうございます!」
お祝いを伝えると、ガーネット姫が満面の笑みを浮かべた。
その手には「冒険者証」が握られている。
宝物のように、大切に。
「では姫様、お屋敷に戻りましょう。」
「では…ユイさん、また。」
「はい。」
タンクさんに促され、ガーネット姫は館へと戻っていった。
実はガーネット姫とは、すでに明日の約束を済ませてある。
そう、新人冒険者の旅立ちは…明日なのだ。




