017 唯、オムレツを食べる。
「本当ですか!?ありがとうございます!…では早速…何からはじめればよろしいでしょうか?」
子どものような笑顔があふれ、ヒマワリみたいなお姫さま。
そこから飛んできた、現実的な質問。
固まってしまう私。
―――何…から始めれば…良いんだろ…?
わかんない。
お姫さまはもう冒険者登録をされてるみたいだし、魔法をそれなりに使ってみえるみたいだし。
うんうん唸りながら、しばらく考える私。
キラキラのまなざしで待ってくれてるお姫さま。
「えっと…とりあえず、冒険者試験を受けてみる…というのはどうでしょうか?私、レベルが足りなくて受けられなかったんですけど…合格すると冒険者の基本とかも教えてもらえるみたいですし…。」
お姫さまが持ってるのは、あくまでも「名誉冒険者」としての称号。
名誉職的なものだと思うし、お姫さまが試験を受けたなんてことはないと思う。
「試験…ですか?」
「はい。私…ちょっと変な経歴でして…ギルドであれば、新人冒険者さんもたくさんいますし。」
そもそも論、私が教えられることなんて何もないと思う。
変なことを教えてしまう可能性もあるし…。
頼れるものといえば…図書館で買った基本書ぐらい。
その基本書も、まだ序盤しか読んでいない。
餅は餅屋さん。
本職の力を借りるのがベストだと思う。
「なるほど…それが良さそうですね。となると…お勉強しないといけませんね…。」
お姫様がすっと立ち上がり、タンクさんがいる扉へと向かわれた。
一言二言話してる。
何かを頼んだようで…お姫様は「少し待ちましょう」と言うように、紅茶に手をかけた。
「いただきます…。」
私も一口。
―――お、おいしいっ!
高級感があふれでてます。
あの…あとでテイクアウトをお願いしても良いですか?
■
しばらくすると、タンクさんがやってきた。
大量の本とともに。
「お待たせいたしました。ギルドの図書館で借りて参りました。」
「ありがとう。」
「はい。失礼します。」
そのまま部屋を後にしたタンクさん。
そのきびきびとした一挙手一投足に、「シャッ!」って効果音がつきそうな感じ。
「お姫さま…あの、これは…?」
「お勉強には、やはり御本が一番でしょう。あと、ユイさん。できれば…その、『ガーネット』とお呼びいただけると…。」
さすがに呼び捨てはまずい気がする。
しかし言われてしまった以上、「お姫さま」という呼び方を続けるわけにもいかない。
―――折衷案。
私も「ユイさん」と呼ばれていることなので、「ガーネット姫」と呼ぶことにした。
しかしそんなことの前に、テーブルの上に並べられた大量の本に圧倒されている。
30冊はあると思う…もう壁だよね、壁。
なんだかまぶたが重たくなってきた気が…。
「ユイさん。私、がんばります。タンクに聞いたところ、試験は明日受けられるそうですし…。なんとか今日中に…。」
「きょ、今日中…。」
この量を。
基本書2冊で満足していた自分が…急に恥ずかしくなってきた。
タンクさんには「冒険者試験を受ける」というところまで知らせてあるらしい。
ガーネット姫が本当に冒険者になろうとしていることなど、知る由もない。
―――私も勉強しないと…。
ガーネット姫が本をめくり始めたのに、私が紅茶ばっかり飲んでるわけにもいかない。
私も基本書を取り出して、片っ端から読み進めていく。
その後、ガーネット姫から幾度となく質問を受けた。
普通なら全く答えられないはずなんだけど、ありがたいことに…私が買った基本書に答えが全部書いてあった。
「なるほど…では、魔法の計算はこの式を使った方が、ミスが少ないのですね。」
「はい。」
…と、『魔法の基本』には、そう書いてあります。
この基本書、すごい。
■
「…さん、ユイさん。」
「むにゃん…もう食べれません…。…ふにゃ?」
「ふふっ、おはようございます。」
目の前に、ガーネット姫のお顔があった。
「ふへっ!?はっ!私…ご、ごめんなさい。」
見事に寝落ちしてしまったみたい。
申し訳なさすぎる…。
たしか…夜ごはんまでちゃっかりいただいて、ガーネット姫に基本書を薦めたところまでは覚えてる。
そこから先の記憶が…ダメだ、思い出せない。
「いえいえ。お付き合いいただいて、ありがとうございます。そろそろ試験の時間なので、一応お声をかけさせていただきました。」
「頑張ってください!…あ、私も一緒に行きます!」
お外では小鳥がぴよぴよ鳴いている。
朝ごはんまで用意していただいたようで、隣の机にはトーストやサラダ、スープまで用意してある。
オムレツの良い香り…。
―――おなか…空いた…。
食欲と戦っていることに気づかれてしまったようで、ガーネット姫に食事を勧められた。
「いえ、でも…。」
「大丈夫ですよ。最初の1時間は、試験の説明など手続的なことだそうです。私ひとりでもなんとかなります。」
「では…お言葉に甘えさせていただいて…。」
「ふふふっ、はい。」
ごめんなさい、食欲には勝てませんでした。
そもそも私は試験を受けるわけじゃないんだけど、お姫さまに試験をすすめた手前…さすがに顔を出さなければならないと思う。
―――私も講習受けてみたいし。
特別試験で合格した私は、基本の講習を受けていない。
基本書にいろいろ書いてあるとはいえ、冒険者としての基本的なこととかは…あんまり知らない私。
異世界で生きていく以上、異世界の常識を知る必要があると思う。
珍しくまともな思考をたどって、まともな結論を得た私。
「では…いただきまーす!」
おいしい…感動レベル。
こんなの毎日食べれたら…私…。
―――幸せ…。
オムレツすごい、トロトロほわほわだ…。
ウインナーもぷりんぷりんしてる。
スープのほのかな甘みぃ…。
「あの…。」
「おかわりですね?どうぞ。」
「ありがとうございます…。」
止まらない、止まらない。
ウインナーの塩味とオムレツの甘味、その無限ループにはまりました。
どうも、22歳…くいしんぼうのユイです。
―――むにゃ?そろそろ時間が…でも、食べたい…。
あと1回だけ…なんて後ろ髪を引かれてはいるけど、さすがに理性が勝った私。
紅茶を飲み、デザートを頬張る。
「ありがとうございました…とーってもおいしかったです!」
「それはよろしゅうございました。その…ユイさん、おなかの方は…大丈夫なのですすか?」
「…?あ、あはは…だ、大丈夫です。では、行ってきます!」
「はい。お気をつけて。」
「行ってきます!」はおかしい気もしたけど、適当な言葉が見当たらなかった。
タンクさんたちはガーネット姫についているため、メイドさんに見送られて、おいしいごはん…じゃなかった、館を後にしたのだった。




