115 唯、換算する。
シヤークとの追いかけっこに勤しむこと数分。
だいぶ距離感覚がつかめてきた。
「それーっ!」
杖をふりふりしながら、それっぽい掛け声を添えてみる。
魔法を使ってるから、特に叫ぶ必要はないんだけど。
―――無言で…すーって行くのもね。
それはそれでシュールなんだけど…なんていうか、雰囲気がでないもん。
「おっと…ライトニング・スピアッ!」
途中、こうやって突撃してくる「はねっかえり」もいるんだけど…びりびりで言うこと聞かせてる。
水属性には雷って相場が決まってるもんね。
ぐへへ。
ドSなハラグロ・モードで全速前進。
―――あとは進むだけだね。
背後はしっかり魔法の網でおさえてあるし、誘導用の仕掛けも万全。
普通なら、おっちょこちょいをやらかしてないか心配になる頃合いだけど、なんていったって今回はフリルさまの作戦だもん。
なにこの安心感。
そんなこんなで、シヤークの大群を仕掛けの入口付近まで誘導できた。
いえーい。
『ぴよー』―――ユイちゃん、どう?
心配になって見に来てくれたフリルさま。
シヤークと間違えて魔法を使いそうになったのは…へそくりと一緒に隠しとくつもり。
「フリルちゃん。良い感じ!」
『ぴよよ!』―――こっちも良い感じー!
ところでシヤーク…どんな味なんだろう。
高値で取引されてるみたいだし、これは期待できるよね。
…見た目はアレだけど。
―――サメより普通のお魚に近いんだよね…キバ以外。
どうだろう…大きさはおかしいけど、サケみたいな雰囲気はするんだよね。
白身かな。
『ぴよ…』―――ユイちゃん…。
上空から呆れられてしまった私。
やっぱりフリルさま、私の心よんでるよね。
そんな疑いを濃くした真夏の海、じゃぶんという波の音が響いてた。
■
「ユイ―!」
右腕を大きく振って、こちらに呼びかけてくれてるガーネット姫。
周りの漁師さんたちは…うん。
―――あ…あご、大丈夫かな…?あと…目。
本当に驚くと、人ってあんなマンガみたいな感じになるんだね。
あごとか、地面に着いちゃってる気がする…さすがは異世界。
…って、納得してる場合じゃないか。
「ガーちゃん!そろそろ着くよーっ!」
とりあえず手をふりふり。
「はい!皆さん、よろしくお願いします。」
「お…おうよっ!」
「準備しろー!来るぞっ!」
ガーネット姫の掛け声を受けて、捕獲の準備を始めた漁師さんたち。
捕獲用の釣り竿…なのかな、棒の先にどでかいエサがついてる。
そんな仕掛けがどんどんと生け簀に投げ込まれてく。
氷の足場は安定してるし、ほとんど「つりぼり」状態。
そして、逃げ場がないことに気づきはじめたシヤーク。
最後の抵抗とばかりに突撃をしてくるけど、バグステータスの前ではただの悪あがき。
「ライトニング・テンポッ!」
ばりばりどがーん、雷魔法で飛んできた数匹には海へとお帰りいただきましょう。
ほらほら、ちゃんと泳がないと食べちゃうぞー。
えへへ。
―――あっ!
私の方は無理だと悟ったみたいで…シヤークが3匹、ガーネット姫の方へと飛んで行っちゃった。
どうなるかわかってるし…先に言っとこ。
―――…かわいそう。
ふわっと笑顔でもって、杖を大きく振ったガーネット姫。
風の魔法が集約されてく。
「嵐の悪戯ッ♪」
ガーネット姫、ウインクしてかわいく唱えたって…目の前の現象を変えられるわけじゃないからね。
魔法の突風で…長いながい空の旅を楽しむことになったシヤーク3匹。
上空100メートルくらいかな。
―――ほら…漁師さんたち引いちゃってるじゃん…。
ツッコミいれたいとこだけど、いれたら負けな気がする。
そしてこれが、ガーネット姫が身分を隠したがる本当の理由…だと私は思ってる。
お姫さまがこれやったら…まずいもんね。
イメージ的に…。
「…ユイ?どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです♪」
コホン…というわけで、シヤークを特製「生け簀」に誘導完了。
生け簀の入口を魔法で封鎖。
堰を切ったように始まる捕獲作戦。
「おぉ…壮観だね。」
次々と釣り上げられてくシヤークは宙を舞い、専用の金網へと収納されてく。
針を外さなきゃいけないみたいなんだけど、金網担当の漁師さんたち…ほぼ素手でやってる。
プロってやっぱスゴイ…。
手袋はしてるけど、傍目からは結構ドキドキな光景。
「大量ですね…あ、大漁です!」
「入れ食いだもんね。私も釣ってみたいなぁ。」
絶対楽しいよね。
…モンスターじゃなきゃ。
「…ユイの場合は、釣るより手掴みの方がはやいと思いますが…。」
絶妙な毒舌で真理をつかれちゃった私。
秘技、苦笑いを返してみる。
ちなみに漁師さんたちは、結構目の色変わってる気がする。
シヤークの取引価格、1キロでアルバイトがんばったときの日給くらい。
1匹で4キロくらいはあるらしいし…。
―――さっきついでにとってきたのは…100匹くらいだから。
現金な計算スタート。
こういうときだけ算数力が限界突破する私。
年収くらい稼げたかな。
ぐへへ。
「あれ?ユイもシヤークとってきたんですか?」
「あ、うん。魔法使ったらさ…ちょっと暴走しちゃって。3匹くらいは食べるけど、あとは漁師さんたちにパスかな。」
「そうだったんですか。先ほどユウサクさんに調理方法を伺いましたので、一段落したら皆さんと食べましょうか。」
「賛成!」
『ぴよよ!』
元気にブイサイン。
フリルさまもハイテンション。
みんなの視線はシヤークに集中。
『ぴよよ』―――おいしそう…。
「だね…。」
「ですね…。」
みんなの認識が一致したところで、私はもうひと仕事。
そこらじゅうに張っちゃった魔法の網を回収しないといけない。
漁師さんやお魚さんの邪魔になっちゃうし。
というわけで。
『魔法削除!』
魔法は片付けも楽ちん。
これにて「お魚事件」無事に解決。
めでたし、めでたし…?




