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111/156

111 唯、砂浜に描く。

 数百メートルの道のりをシュパッと一直線。 

 目的の桟橋(さんばし)が見えてきた。


―――あれ…でも、船ないよね…。


 間違えちゃったかな。

 さすがの私でも、南へ一直線で迷うことはない…と思いたいけど、自信がなくなってきた。


「ガーちゃん、あそこであってるよね?」


 頼れるお姫さまに聞いてみよう。


「はい。今は(りょう)に出られないので、船は少し離れた場所に片づけてあるそうです。」

「姫さまの仰るとおりです。あの岩陰を少し進んだところに、船をとめておける場所がありまして。」

「そうなんですか。私間違えたかとおもって…あはは…。」


 そんなこんなで桟橋まで到着。

 天変地異だの、世界の終わりだの…さんざんな驚かれ方をしちゃったけど、もう慣れてきたから大丈夫。


―――まぁ…船を持ち上げた女の子が、笑顔で海から飛んできたら…。


 うん、だんだん私にも()がある気がしてきた。

 こほん…気にしない、気にしない。


「皆さん、安心してください。こちらガーネットひ」

「コホンッ!」


 唐突(とうとつ)すぎるガーネット姫の咳払い。

 私は苦笑い。


「冒険者のガーネット…さんとユイさんです。魚がとれなくなった原因を調査していらして。」


 挨拶(あいさつ)を済ませて、取り急ぎの現状報告。

 話はすぐに広がったみたいで、数分後には100人近い漁師さんが集まってくれた。


―――よーし…がんばろ!


 がんばるところは人それぞれ…どうも、主語がたまに飛んでいっちゃう22歳、冒険者のユイです。





 シヤークが我が物顔で暴れてるという、最低限の説明を済ませた私。

 …もとい、説明はガーネット姫とユウサクさんがしてくれた。

 私は探知魔法(たんちまほう)の画面を動かしてただけです…はい。


「しかし困ったな…。 シヤークが暴れまわっているとは…。」

「冒険者さんに依頼したいところだが…海となると…。」

「コウゾウのとこにシヤーク用の罠なかったか?」

「あるにはあるが、網にかかったりしたとき用だからな。」


 ユウサクさんが危惧(きぐ)してた通り、解決が難しそうな状況みたい。

 というわけで、今度こそ私の出番。


「あの、私がシヤークを一か所にまとめます。それで…つかまえる作業の方を、お願いできませんか?」


 説明めっちゃ端折(はしょ)っちゃったけど、伝えたいことは簡潔に。

 倒しちゃって良いなら私だけで十分なんだけど、食べれると聞いちゃった以上…つかまえなきゃだよね。

 しかも高く売れるみたいだし、何よりおいしいらしいし。

 ぐへへ…。


―――餅は餅屋さん…お魚をつかまえるなら、漁師さんだよね。


 シヤークはモンスターではあるけど、レベルはかなり低め。

 ユウサクさん(いわ)く、漁師さん的には「ちょっと狂暴(きょうぼう)なお魚」程度の感覚らしい。

 しばらくお魚とれなかったみたいだし、これで漁師さんの生活も(うるお)えば…まさにウィンウィン。


「それは…ありがたい提案ですが、一か所に集めるって…どうやって?」

「それはですね…。」


 砂浜に絵を描いて作戦説明。

 絵のセンスがときたま暴走する私だけど、直線や四角形を描くくらいなら…うん、さすがに大丈夫。


「私の魔法で、こんな感じに『氷の(あみ)』を設置します。あ…氷と言っても魔法の氷なので、冷たくはないですよ。」


 そう、氷魔法…実は温度まで調整できる。

 セ氏30度くらいの氷という…科学的におかしいことまでできちゃうところが、まさに異世界なんだけど。


「それで…こんな感じで網を設置して、この辺に追い込もうと思います。シヤークのせいで他のお魚全くいないので、シヤークだけをまとめれるかと。」

「な…なるほど…。」


 さすがにまだ信用してもらえてないみたい。

 素性(すじょう)もよくわからない私服姿の自称冒険者にこんなこと言われたって、信じろって方に無理があるかも。


「あとはこの周囲に氷の土台を作るので、そこから()り上げたりしてもらえれば助かります。はい。」


 即席ジェットコースターのコースを作るみたいな感じで、海上に道路を作ってみることにした。

 シヤークは一応モンスターだし、もし船を攻撃されたりすると…いろんな被害が出かねない。

 その点、私の氷魔法なら攻撃されても大丈夫。


―――何か起きても、すぐに対処できるし。


 泳げない私ならではの、とにかく陸地作っちゃえ大作戦。

 作戦は異常…じゃなかった、以上。


「皆さん。ユイはこう見えて、すごい冒険者なんです。ヒマワリの町でのモンスター侵攻や、カエデの町での騒ぎ…全部ユイが解決してきたんです!」


 えへへ、照れるなぁ。

 …こう見えては余計だけどね。

 そんなガーネット姫の言葉に、耳を傾けてくれる人が一人、また一人。


「…あぁ!あのユイさん!」

「コウゾウ…知ってるのか?」

「おう。俺の弟、ヒマワリの町で暮らしてるんだよ。少し前にモンスターの侵攻があったんだ。魔王軍(まおうぐん)の幹部まで絡んでて、大変な事態だったらしいんだが…そこへユイさんという冒険者が現れて、ものの数分で解決しちまったって!しかも魔王軍の幹部を改心させちまったらしいぜ。弟も弟子入りしたって言ってたよ!」


 なーんか話が大きくなってるけど、事実的には間違ってない気がする。

 申し訳ないことに弟さんは知らないけど。


 おかげさまで信用してもらえた様子なので、ありがたかったけども…。


「そうなんです!そのユイが…このユイです?えっと…そのユイも、このユイも、こちらのユイです…?」


 ガーネット姫が混乱してる。


「そんな方が…このハナミズキ・タウンに!」

「これはお願いすべきですよ!」


 よかった…どうやら信用してもらえたみたい。


「では…ユイさん、ガーネットさん…よろしくお願いします!俺たちはすぐに仕掛けの準備をしますので、その間に…。」

「はい、任せてください!」


 格好良い掛け声とともに、漁師の皆さんが一斉に準備を始めてくれた。

 あっという間に大量の竿(さお)とかが運ばれてきて、荷台へと積まれていく。


―――みとれてる場合じゃない…!


 私も急がないと。


「ガーちゃん!」

「行きましょう!」


 即席ジェットコースターの座席に飛び乗って、上空で旋回(せんかい)してたフリルさまに声をかける。


『ぴよよ…』―――うーん…速いの怖い…でもユイちゃんと…うーん…。


 おりてこようかさんざん迷ってたみたいだけど、最終的には自分で飛ぶことにしたみたい。

 というわけで、風魔法で…可及的速やかなスピードでもって前進。


「ユイ!それにしてもすごい作戦ですね!私、びっくりしました!」

「えへへ…ただの思いつきだよ。」


 褒められた…うれしい。


「氷魔法の網なんて…普通、思いつきませんよ。」

「バグステータスのおかげだよ。」


 そう、バグステータスがなければ成立しないこの作戦。

 例の基本書に載ってた感じだと、氷魔法…普通は全力で使っても、半径5メートルの球体くらいしかうみだせないみたい。

 さすがにそれだけだと、想定してる大きさの1割にも満たないと思う。


「ところで、ユイ?」

「うん?」

「網に追い込むのは…どうするんでしょうか?」

「…。」

「ユイ?」

「…!」


 とりあえず作り笑いで誤魔化してみようかな。


「ま…まさか…!?」


 真夏の日差しを受けてるはずなんだけど、冷や汗ダラダラの私。

 ジェットコースターの維持も危ういくらい動揺中。


「…ど、どうしよう!?」


 考えてなかった。

 普通に魔法でなんとかなると思ってたけど、ちょっとスケール感ミスってた。

 探知魔法で見たときは、手で囲えるくらいの範囲だったけど…それは縮尺(しゅくしゃく)というものがありまして…。


―――こ…こんなところでおっちょこちょい発揮(はっき)しなくても…。


 なんだか悲しくなってきた。

 でも、そんなこと言ってる場合じゃない。

 なんとかしないと。


『ぴよよ』―――おこまりのようですね、ユイちゃん!

「フリルちゃん!助けてくだされー!」


 オーバーなくらいに(こうべ)をたれた私。


『ぴよ』―――そんなユイちゃんに、ボクの完璧な作戦を伝授(でんじゅ)してあげる!

「本当っ!」

「ぴよよ!」―――もちろん!


 た、助かった。

 本当にお世話になってます。

 今度、たくさんお魚をお届けします。

 そんな約束をしつつ、私の即席ジェットコースターは「シヤークがうようよいる海域」に到着した。

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