99. 『空飛ぶシュトゥルーツ』
〇前回のまとめ
・オーガキング迫る。
・万事休すというところで、エリンは新しい技を覚えた。
・オーガキングを倒した。
それからのことは、よく覚えていなかった。
気が付けば山の麓でジュディに膝枕をされていた。目を覚ましたエリンは驚いて飛び去ったが、後になってからもう少し堪能しておくべきだったと後悔。
エリンがダーシャや他の面々から聞いたところによると、暴れまわっていたオーガキングがなぜと急に転倒。そのまま動かなくなったようなのでハンターたちが様子を見に行くと、オーガキングの絶命が確認されたという。
なお、エリンとハンナは気の枝に引っかかって意識を失っていたところを回収されたととのこと。
空中スケボーの操縦者であるエリンが気絶したため、ハンナもろとも墜落したのだろう。落下死しなかったのが不思議なくらい。
騒動を引き起こした『ダーク・ダンス』のダン&テーは自首し、ことの全貌を白状した。
所詮世の中は金だと思っていたが、山道で怪我をしていた自分たちを黙って救ってくれた善良なハンターさんの恩情に心打たれて出頭したとのこと。
彼らによると、今は牢獄にいる主人のパープルプラントから、自分を追い落とした『トリコロール』とケークタウンの人々に復讐するようにとの密命を受けていたとのことだ。完全な逆恨みである。
なお、パープルプラントは憲兵のセルゲイらと裏でつながっており、近日中に釈放される手筈となっていた。もちろんセルゲイたちも逮捕。セルゲイがギルマスの脚を引っ張ろうとしていたのも納得だ。
ちなみに、事の発端を引き起こした『ダーク・ダンス』のアンは生きていた。オーガキングが眠っていた洞穴に隠れてやり過ごそうとしていたところを発見され、あえなくお縄となった。
もともとオーガキングは、山頂の奥深くにずっと眠っており、パープルプラント商会だけがその情報を持っていた(というか、他に知っている人を排除した)。
アンがパープルプラント商会の店から持ち出したという興奮剤を投入されたことで、大暴れし始めることになったんだとか。
「それで、ギルマスがオーガキングを倒したことについて詳しく聞きたいんだって…………」
『ホワイトエンジェル』のメイリからそう伝えられたとき、エリンはものすごくイヤそうな顔になった。ダーシャとジェイラも複雑そうな表情だ。
エリンは何か1人で思考を巡らしていたようだが、やがてポンと手を叩いた。
「そう! あれはハンナさんがやったんです! 私は関係ないです。ただ近くにいただけなんで」
ハンナはまだ意識を取り戻していない。むしろエリンが起きるのが早かったと言える。お高い防具を身に着けていたため、受けたダメージが最小限に抑えられていたのだろう。
「いやいや、ハンナにそんな力ないって、パーティーメンバーのボクが知ってるから」
「うっ…………。そ、それは、あの人の内に秘められし未知なる力が開花して…………」
「それに、『変幻自在』の人たちが、エリンたちが倒したって先に報告しちゃったんだよね」
「な、なんですと~~~!?」
道理でダーシャたちが微妙な顔をしているわけだ。
ハンフェスも終わり、一度ならず二度までも町を救ったヒーローとなれば、外を出歩くだけで注目される。『トリコロール』のケーク脱出計画は暗礁に乗り上げた。
「ど、どうしよう…………?」
エリンがすがるような目で仲間に相談すると、ジェイラがエリンの双肩に手を置いた。
「エリンさん、こうなったらメイリさんにあの事を説明して私たちを逃がしてもらいましょう。きっと分かってくれますって」
「あー、そうだね。そうしよっか」
「え、何? あの事って? 逃がすってどういうこと?」
事情が呑み込めず、メイリは混乱してしまった様子。
ジェイラはエリンたちを顔を見合わせて頷くと、しずしずと話し出した。
「実は、私たちは始めからハンフェスに最後まで参加するつもりはなかったんです」
「えぇっ!? なんで!?」
メイリは『トリコロール』と『ホワイトエンジェル』がハンフェスで互いのプライドをかけて勝負するとばかり思っていた。
まさかフェイクだなんて疑いもしていなかっただけに、ジェイラの告白は寝耳に水だった。
「頭のおかしな貴族の命令で、エリンを連れて行こうとするハンターたちがいるの。そいつらの目を欺いて、町から逃げ出そうとしてたのよ」
「そうか。そんなこと考えてたんだな」
「「「っ!?」」」
いきなり背後から低い声をかけられ、慌てて振り向く『トリコロール』。そこには、オールバックの髪型をした長身の男性ハンターが立っていた。
「「「げ」」」
「凶悪なモンスターが出て町があぶねーっていうから駆けつけたってのに、モンスターはとっくに倒されてるわ、護衛対象はバカなこと企んでるわ」
「「「あわわわ」」」
高いところからつきつけられる眼光に、エリンたちはオロオロ。
そんな少女たちを見て、オールバックはニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「この俺たちから逃げられると思うなよ」
「「「ヒエ~~~!!」」」
「おい、サザグ。からかうのも、そのくらいにしておけ」
そこへ現れたのは、オールバックと同じく『空飛ぶシュトゥルーツ』のメンバーであるスパイラルパーマのマチアスと、バッハみたいな髪型をした黒髪の男だった。2人の登場に、少女たちの魂が抜け落ちそうになる。
「クッ、こうなったら強行突破するしか…………」
「落ち着け。私たちに君を強引に連れて行くつもりはない。事情が変わったというのもあるが」
マチアスの言葉に、エリンたちの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「実は、坊ちゃんがもう少し修行をしたいと言い出してな。なんでも、例の角張った顔の少年との決着が付いていないし、このまま実家に帰ったとしても父君に合わせる顔がないとかで、当分の間鍛えて欲しいと我々に言ってきたんだ。まぁ、我々からすればその分の護衛料がもらえるから構わないんだが……」
彼は「構わない」と言いつつ真顔を保とうとはしているが、それでも面倒くさいと思っていることが伝わってきた。
「てゆーか、空飛べるヤツを捕まえたところで、すぐに逃げられちまうだろ」
「え? ブロンズランクにもなれば空くらい飛べますよね?」
エリンの何気ない一言に、オールバックたちは目をパチクリ。エリンがふざけていないとみるや、呆れたようにため息をこぼした。
「……お前、ブロンズランクを何だと思ってやがる。ちょっと戦闘経験が豊富なだけの普通のハンターだぞ」
「『空飛ぶシュトゥルーツ』なのに?」
「……揚げ足を取るとか、お前いい性格してんな」
「いや~それほどでも~」
「「「褒めてない!!」」」
「……ぉ!」
理想的な返しに、エリンはちょっと感動した。
こんなちんちくりんが本当に強敵を倒したのかと、疑念を抱き出すマチアスら。案外みんなが言うほどオーガキングは強くなかったのではとも思い始める。
「……どのみち、この依頼はいずれキャンセルすることになるだろうな。ただ、そうするとランクアップにも響くし、経歴にキズが付くことにもなる」
そう言いつつ、マチアスはチラッチラッとエリンに視線を送る。
「坊ちゃんが帰省するとなった際に、ぜひお前にも付いてきてもらいたいんだが……」
「「「お断りします!」」」
『トリコロール』の3人は、元気いっぱいに返事をした。




