97. ハンターフェスティバルⅦ
〇前回のまとめ
・結局、エリンたちもオーガキング討伐に向かうことになった。
・ネストルが負傷するも、通りすがりのソーニャが治癒する。
・ネストルとボニファーの間に友情が芽生えた……?
「かなり近づいたはずなのに、まだ距離があるのね…………」
「まぁ、それだけデカいんですよ、あれ」
状況を把握するため、エリンはハンナとともに氷のスケボーに乗って飛行していた。『ダーク・ダンス』によって目覚めさせられた巨大モンスター・オーガキングは、着実に下山し続けている。
町に被害が生じる前にヤツを倒そうと、多くのハンターが立ち向かっていた。
「あ、あっちに知り合いのパーティーがいるわ。行ってみましょう」
「えー、もういいですよ。そろそろ戻りません?」
エリンとしては、ハンナと2人きりの空の旅を早く終わらせたかった。
まだ子供だと思っているダーシャやジェイラだったら気にならないが、ハンナは見た目だけなら大人の女性。今まで意識しないように努めていたが、密着されるとそうもいかない。ずっと背中にしがみ付かれているせいで、精神が落ち着かなかいのだ。
「そうね。帰りたいわよね。部外者のあなたたちを巻き込んで、本当に申し訳ないと思ってる。
いいわ。ハンナだけここで降ろして。パーティーのみんなには、ハンナは一足先に女神さまのところに行ったって伝えておいてね」
「あーもう! 分かった、分かりました! 行けばいいんでしょ、行けば!」
ハンナはペロッと舌を出すが、エリンからは見えない。
高度を下げていくと、木々に囲まれた小さな広場のような場所にいた4人組のハンターがエリンたちに気付いた。
「な、何だあれは!?」
「新手の敵か? クソ、こんなところにまで…………」
「ピエールさん! 『ホワイトエンジェル』のハンナです! 敵じゃないから攻撃しないで!」
「ハンナ? あ、あぁ…………」
空中からハンナが声をかけると、ハンターたちは臨戦態勢を解いた。向こうにも敵意がないことを確認して、エリンたちは着陸する。
そこにいたのは、『変幻自在』というシルバーランクのパーティーだった。
「ここは危ない。君たちも早く逃げなさい。空を飛べるんだから、無事に逃げ切れるはずだ」
「いやです。ハンナたちも闘います」
忠告をバッサリ切り捨てられ、ハンターは苦笑い。
「アイツは強い。それこそ、僕たちでも敵わないくらいにね。君たちなら尚更だよ。やめた方がいい」
「だからこそです! 正直、あれの前ではノーマルもシルバーも大差ないと思います。だからこそ、みんなで力を合わせて闘うべきなんです!」
ハンナの眼差しに、ハンターは困ったようにため息をついた。
自分が止めたところで、どうせ勝手に参戦するだろうと諦めたのかもしれない。
「そうか、分かった。故郷を想う気持ちは君も同じだもんね」
ハンターが頷いたところへ、エリンが割って入った。
「えっと、できればオーガキングについて教えてほしいんですけど……」
「やはりオーガキングか。……アイツはものすごく固いよ。アイツの皮膚はまるで鋼鉄の鎧さ。僕らも魔法には自信があるんだけど、全然効いてなかったね」
よほどショックを受けたのか、彼は仲間と共に顔を曇らせた。
だが、エリンはお構いなしに質問を続ける。
「使ったのはどの属性ですか?」
「僕らは火が2人で、こっちの彼が風だよ。火の魔法で体毛を焼けないかと思ったけど、焦がすことすらできなかったね」
「えっと、そちらの方は?」
エリンは指したのは、身長2メートルは越えてそうなマッチョだ。白い上着を纏っているが、それでも隆起する筋肉を隠せてはいない。『変幻自在』は4人いるのに魔法使いは3人ということで、残る彼の役割が気になった。
「ああ、彼は回復士だよ。普段は町の診療所で、看護師としてお手伝いをしてるんだ」
(これで白衣の天使だと!? むしろ悪魔だろっ)
オーガキングにスモールライトを当てて、さらに日焼けサロンに押し込んだような外見のハンター。ケークタウンで入院したら、彼に世話されることになる。そんな光景を思い浮かべるだけで身の毛がよだつ。
「なあキミ。その板で空を飛べるんだろ。僕も連れて行ってくれないかな」
「え、人のいないところに連れて行って何をしようと?」
ピエールに視線を向けられると、エリンは自分の体を抱くようにして1歩下がった。
「な、何もしないよ! なんでこの状況で変なことすると思った!?」
「そうですか。ケークのためとかいう名目で、私の操を犠牲にするんですね」
「だからしないって! アイツだって顔は弱いに違いない。どうせこのまま死ぬくらいなら、最期に悪足搔きしてやろうって思っただけだっ」
オーガキングといえど、顔面に急所が集まっていることには変わりない。たしかに、そこを狙って攻撃すれば勝機が見えるかもしれない。
だが、一般的な魔法使いは呪文に時間を取られるため、攻撃を躱しながらだとタイミングを合わせるのが難しい。それに、おじさんに抱き着かれるのはイヤだ。
ピエールの申し出は、エリンにとって受け入れがたかった。
「ほらさぁ、ちょっとだけでいいから」
「先っちょだけでいいから!?」
「ちっがぁぁぁぁぁぁう!!」
真顔のエリンに、ピエールは叫び散らす。『変幻自在』の他のメンバーも頬を染めて顔を背けたが、ハンナはなぜピエールが怒り出したのか分かっていないようで、ただひとりポカンとした顔。
「エリンー!」
「あ! ダーシャ、それにみんなも」
木々の向こうから自分を呼ぶ声が聞こえ、振り返って見ればダーシャとジェイラ、それにジュディがチェレンに乗ってこちらへ向かってくるところだった。
さすがに5人はチェレンの定員オーバーだったらしい。あとの2人は後から来るのだろうか。
「よくここが分かったね。木のせいで見通しが悪いのに」
「チェレンにエリンさんのにおいを追ってもらったんです。迷わずに真っ直ぐ来れました」
(怖っ。ある意味ネストルより恐怖だわ)
ジェイラに頭を撫でられて気持ちよさそうにするチェレンにエリンは怯え、『変幻自在』は驚いていた。
「デ、デビルウルフだと……!? そんな凶悪なモンスターを使役しているというのか!」
「なぁ、この子たちってあれじゃないか。誘拐団を壊滅させたっていう」
「なるほど。ランクこそ低けれ、実力はたしかということか……」
『変幻自在』のメンバー同士で何事かを話し合っているが、エリンたちは気にしないようにした。
「何かもめてたみたいだけど、大丈夫だった?」
「この人が、どうせ死ぬんだから最期にヤらせろって――」
「言ってねえええぇぇぇぇぇ!!!」
「――空中スケボーを」
エリンの付け加えた一言に、ピエールは膝からガクッと崩れ落ちた。
「もう、エリンちゃんったら。てっきりこの変態がロリコンかと思ったじゃん」
「ロリコンではありますよ」
「おいこら誰がロリコンじゃ」
「変態なのは認めるんですね」
「ち、ちがわいっ!」
「…………ねえ、みんな」
ハンターたちがブツブツ言い合っていると、ジュディが口を挟んできた。
「さっき大声を出したせいで、アイツにここが気付かれたみたいだけど」
「「「「「え」」」」」
見上げると、輝く太陽の代わりにオーガキングの眼が煌めいていた。
エリンたちがいた場所は、巨体に覆われて日陰になっている。
「に、逃げろーーーーー!!」
「「「「「うわああああぁぁぁ!!!」」」」




