94. ハンターフェスティバルⅣ
〇前回のまとめ
・ハンフェスで『トリコロール』に勝つため、『ホワイトエンジェル』はモンスターと闘っていた。
・喧嘩したりふざけたり、それが彼女たちの日常。
・ソーニャの指摘に、メイリは激しく動揺させられた。
「まったく、あの子たちにも困ったもんだよ…………」
メイリは愚痴をこぼしながら木々を飛び越え、山頂の方向へと進んでいた。
たしかに、自由奔放な仲間たちに対して思うところは多々ある。それでも彼女はきちんと自分の役割を果たそうとしていた。
「うー、やっぱり上の方に来ると冷えるな~。山頂のあたりには雪が積もってるし」
シーフということで、メイリは動きやすいように普段から薄着だ。動いていれば多少は体が温まってくるとはいえ、それでも寒さを感じてくる。
「ま、ボクたちのレベルじゃこの先は危険だから、そろそろ引き返そう。ジュディももう落ち着いてると思うし…………って、うん?」
ドシン、ドシン、ドシン
何やら振動を感じたので、適当な木の上でストップした。そこで二の腕を両手でさすりながら周辺を観察する。
「何だろう、あれ?」
すると、前方から何やら大きな気配が急速に接近してくるのを感じた。視力の良いメイリが目を凝らして見てみると、2つの人影と、その後方に巨大な影がある。
「うわああぁあああぁ!! 助けてくれええぇぇぇ!!!」
「ひいいいぃぃぃ!! こ、殺されるううぅぅぅ!!!」
巨大なモンスターが、2人のハンターを追い回していた。
「え、な、何なの…………? オーガ…………にしては大きすぎない!?」
見たこともない化け物の姿を目の当たりにし、メイリの顔は蒼白になった。
前を走る人影の正体は、ハンフェスが始まる前に見かけた黒い服装の男たち。1人欠けているが、恐らく巨大モンスターにやられてしまったのではないか。
「麓に向かってる!? このままだとみんなが、町が危ない。ともかく、まずはハンナたちに知らせないと…………!」
シーフであるメイリは素早さには自信があるとはいえ、攻撃力は今ひとつ。オーガ1体でも、1人で太刀打ちするのは難しい。
男たちを見殺しにするかもしれないことに後ろめたさはあったが、仲間のために来た道を戻り出した。
「「ほえあーーー!!」」
直後、彼らのものと思しき悲鳴が背中に届いた。
(一体、何が起こってるんだ…………!?)
メイリを除いた『ホワイトエンジェル』のメンバーは、素直に山道に沿って進んでいた。そのおかげで、メイリは迷うことなく仲間と見つけることができた。
ドサッ
「「わっ!?」」
いきなり目の前に物体が落下したせいで、ハンナとヘレンが飛び上がる。ソーニャも言葉こそ発していないが、目を見開いていた。
「あれ、メイリじゃん。早かったね。モンスターいた…………って、どしたの、そんな慌てて?」
唯一平常心を保っていたジュディがメイリに問いかけると、彼女は息を整える間もなく情報を伝える。
「みんな、たいへんだ! 山の上の方から巨大モンスターが向かってきてるんだ!」
「「「「巨大モンスター??」」」」
「このままアイツが山を下りてきたら、町が危ないっ!」
彼女たちが生まれるずっと前から、ハンフェスでモンスター関連のトラブルが起こったと聞いたことはない。そこらへんの憲兵とかだったら、馬鹿らしいと一蹴したことだろう。
だが、強い絆で結ばれた仲間の言葉を、ハンナたちは1ミリも疑うことはなかった。メイリの必死な表情を見て、ハンナは躊躇せずに頷く。
「分かったわ。ハンナたちは近くのハンターに知らせる。メイリはスピードがあるから、本部にそのことを伝えてきて」
「うん、お願い!」
♦
「はぁ……。やっとアタシたちだけになることができたわね。あの2人だけだったら何とかなりそうだけど、ブロンズランクが付いてたからイヤだったのよ」
山道を移動中の『トリコロール』。ダーシャはジェイラの腰にしがみついている。
「まぁ、いざとなったらエリンさんの魔法で空を飛んで逃げるというのもありましたけど」
「えー。ブロンズランクにもなれば、空飛ぶ敵くらい追いつけるんじゃないの? ヒューって」
エリンは両手をバタつかせるようにして鳥のマネをしてみせる。が、仲間たちを乗せるチェレンの斜め後ろを滑走していたため、ダーシャたちがその様を見ることはなかった。
「空を飛べるかはともかく、逃げた敵を追いかけるくらい造作ないでしょうね。鳥系のモンスターと闘うことだってあるでしょうし…………ん?」
「「ん?」」
ダーシャがふと空を見上げたので、エリンたちもそれに倣った。
「「ぎゃアアアァーーー!!」」
「「「…………え!?」」」
澄み渡る蒼穹から、似つかわしくない悲鳴と共に何か黒い物体が落下してくるのが見えた。
そして、それは『トリコロール』の前に落っこちた。衝撃によって土埃が舞い上がる。
「ケホ、ケホ…………。な、なんなのよ一体? ジェイラ、エリン。2人とも大丈夫?」
「は、はい。何とか…………」
「こっちも大丈夫」
障害物の出現によって行軍を停止し、何が起こったのか状況を確認しようとした。
衝撃が発生した場所には、黒い服装をしたハンターが2人。見覚えのある顔に、エリンが声を上げる。
「あ、思い出した。『アンダンテ』のクダさんとンスさんだ」
「…………『ダーク・ダンス』のダンさんとテーさんです」
「一瞬、鳥モンスターかと思ったよ。おーい。生きてますかー?」
せっかくベイカーベイカーパラドックスを回避したと思いきや、そもそも名前を正確に覚えていなかったエリン。ジェイラの訂正も聞き流し、彼らに歩み寄った。
「エリン、そんなヤツら放っておきなさいよ。アタシたちは先を急がないと」
「あ、うん。ちょっと待ってて。怪我してるみたいだから治していくよ」
「お人好しね」と眉をひょいと上げるダーシャ。モンスターが出る場所へ行くことは、ハンターにとってハイリスク・ハイリターン。お手柄でも死んでも自己責任だ。
それに、身勝手な者が多いハンターを助けたところで、後足で砂をかけられることも珍しくない。悪人の走狗だったという2人のことなど構わず、先を急ぎたかった。
「い、いてててて…………。って、げ」
「人の顔見て“げ”とは何だよ。まったく、失礼な人だなぁ」
「お、おまっ、何するつもりだ…………うっ」
顔を上げると、先刻挑発したばかりのエリンが近寄ってくるところだったので、ダンはビックリして跳び下がろうとした。しかし、落下した際に足をくじいたのか、立ち上がることすらできずに転んでしまう。
「あーもう、無理しないで。怪我治すんで、脚を出してください」
「…………」
自分たちへの害意がないと分かり、ダンは恐る恐る従う。そこへエリンが手をかざすと、黄緑色の光があふれて患部を包み込み、見る見るうちに傷が癒えていった。
「「…………なっ!?」」
(あんな高いところから落ちて、よくこれだけですんだな)
ダンとテーはエリンの魔法に目を見張るが、エリンは無表情。そのままテーの怪我も治療する。
「そういえば、ダーさんはどうしたんですか?」
「そ、それは、誰のことだ? 俺たちの名前が混ざってるのか?」
「多分アンさんのことだと思います」
エリンの後ろから届けられたジェイラの補足に、『ダーク・ダンス』は「ああ」と納得する。だが、すぐには答えず、少しの間2人は目を合わせて何かを語り、やがてダンが口を開いた。
「……じ、実は、バカみたいにデカいモンスターがいて、アンはソイツにやられた。俺たちも逃げようとしたけれど、追いつかれて殴り飛ばされたんだ」
「そんなモンスターがいるなんて、聞いたことないわよ」
「ほ、本当だって! 俺たちだって最初アンに聞いた時は嘘だと思ってた。でも、いざ洞窟に行ってみたら本当にいたんだって!」
半信半疑の目を向けるダーシャに、ダンは必死に反論した。
「洞窟の中にいたの? じゃあ、なんでアンタたちは空から落ちてきたのかしら?」
「それは、お前たちに――」
「ポ、ポイント稼げるって思ったんだよっ。なっ、そうだろ、ダン?」
「あ、ああ。ねね、眠ってたから、ちょっとくらいイタズラしてやろうと思ったんだ。そしたら起こしちゃって……。あ」
嘘を伝えるなら、できるだけ真実を含ませた方が相手を信じさせやすい。だが、彼らは真実を含ませすぎた。
「「「お前らの仕業かー!!」」」
「「す、すみませんでした~!」」
言い逃れできず、2人は即座に土下座した。怪我したとしても自業自得。エリンたちだけでなく、チェレンまでもがダン&テーを見下す目を向けた。
「…………これでよしっと」
とりあえずダン&テーをロープで縛りつけ、『悪人です。逮捕してください』と書いた看板を脇に立てておいた。これで、通りかかったハンターか憲兵が彼らを連行してくれるだろう。
獰猛そうなチェレンに睨まれていたせいか、多少なりとも後ろめたさがあるせいか、2人は暴れたりせず素直に縛られた。
「ハァ、馬鹿らしいったらありゃしない。こんなヤツら助けるんじゃなかったわ。エリン、行きましょ」
「でも、放っておいて大丈夫なんですか?」
「別にいいわよ。こいつらがモンスターに襲われたって、アタシたちの知ったこっちゃないわ」
「そ、そんな~。せめて麓まで連れてってくれよ~!」
「そうだ。放っておかないでくれ! せっかく白いのに助けてもらったんだ。仲間の優しさを見習えー!」
ダーシャの冷たい宣告に、ダン&テーは座り込んだまま抗議する。
「いえ、別に私もこの2人のことなんか心配してません。起こしてしまったというモンスターのことです」
「そんなモン、他のハンターたちが何とかしてくれるでしょ。今この山にはブロンズランクだっているのよ。アタシたちの出る幕はないわ」
ジェイラが自分たちを気にかけていたわけではないと知り、ダンたちは悲しそうな顔になる。
「さ、行きましょ。これ以上時間を無駄にするわけにはいかないわ」
「次から次へとトラブルが舞い込んでくるね」
「また何かやってきたりして…………」
「まさか~」
「「「ハハハハ――」」」
ジェイラの冗談を笑い、『トリコロール』がその場を後にしようとした時だった。
「あ、アンタたち、丁度良いところにいたわ!」
「「「――ハ」」」
その声が耳に入った時、3人は笑った顔のまま固まった。
そして悟った。もう、この山からは逃れられないと。
(これ、絶対ダメなやつだ…………)




