93. ハンターフェスティバルⅢ~『ホワイトエンジェル』編~
〇前回のまとめ
・ハンフェスが始まると、すぐさまボニファーとネストルがやってきた。
・なんとか説得し、2人を遠ざけることに成功。
・一方その頃、山の奥で暗躍する者がいた。
「ハアァァァァァァ!!!」
ドォォォン
ハンナが魔法の水球を放つと、その勢いで艶のある金髪がたなびいた。
2体のゴブリンは彼女の魔法を正面からモロに食らってバランスを崩す。
「ジュディ、今よ!」
「任せるじゃん!」
そこへ木の上で待機していたジュディが、同時に3本の弓を射る。アーチャーの上級職であるボーマスターならではの技だ。
ヒュウと音を立てて矢は空を切り、2本の矢がゴブリンの脳天を貫いた。
「……一発」
「さ、さすがですっ、ジュディ!」
「フフ~ン。あちきにかかれば、このくらい楽勝じゃん」
敵が動かなくなったのを確認してから、自らは攻撃手段を持たないソーニャが陰からひょこひょこと出てきた。そして、短剣でゴブリンの耳を切り取る。
これが討伐証明部位として、ハンフェスでの『ホワイトエンジェル』の獲得ポイントになるのだ。
「みんな、気を付けて! 前方からモンスター接近。オーク5体」
モンスターを倒して喜ぶのも束の間、すぐに盗賊のメイリが新手の襲来を告げに来る。
「5体はちょっと多いわね。ヘレン、アレいける?」
「は、ひゃいっ」
ハンナの指示に従い、ヘレンは持っていた黒い篠笛に形の良い唇を当てる。
そして、敵の姿が見えるや否やヘレンが歌口に息を吹き込んで指先を軽やかに動かすと、笛だけでなくほぼ全身が黒い彼女から夜想曲のような音色が響き始めた。
「ググッ!」
格好の獲物となりそうな少女を発見した薄汚いモンスターたち。
♪~
「グオッ?」
けれども、近づこうとするよりも前に巨躯が地面に倒れこむのが先だった。
「ヘレン、ナイス! よし、今のうちに」
闇魔法使いであるヘレンの魔法で敵が拘束状態に陥っているところへ、メイリが短剣でオークの急所を攻撃していった。
「よくやったわ、メイリ、ヘレン。これで、えっと、ひぃ、ふぅ……」
「ゴブリンが1体3ポイントで、オークが5ポイントだから、合わせて31ポイントだね。かなり調子良いよ」
スムーズな計算ができずに指を曲げて混乱するハンナに、メイリが彼女の求めている答えを教えた。
「そ、そうね、31ポイント。それくらい分かってるんだからねっ」
「さっ山麓は他のハンターが集中するので思い切って上の方にまで来ましたけれど、これは正解でしたねっ」
「ええ。たしかに出遅れたかもしれないけれど、これで一気に上にいったのは間違いないわ。この調子でガンガンいくわよ!」
「うん。ただ、意気込むのもいいけど、油断しないようにね」
「分かってるわよ。ハンナを誰だと思ってるの」
ムキになるハンナに、弓を持ったジュディが声をかける。
「いやいや、ハンナはす~ぐ調子に乗るじゃん。割を食うのはあちきらなんだから、1分ごとに言っとかないと忘れるって」
「そんなに忘れっぽくないわよ! だいたいジュディだって、さっき矢を1本外してたじゃないっ。アンタこそ気を抜いてたんじゃないの!?」
「最低限の仕事はやったんだし、文句言われたくないじゃん」
「あー、はいはい。喧嘩してると置いてくよ~」
気が強いハンナとジュディが言い合うのはいつものこと。それを仲裁するのがメイリの主要な役割になっている。2人とは対照的に気の弱いヘレンやソーニャでは荷が重そうだし、他に適役はいない。
「……メイリ」
「ん、どした、ソーニャ?」
「……膝」
「膝?」
小柄なソーニャから自分の顔を覗き込むように言われ、メイリは素直に膝を見てみた。
「あ」
本人が気付かないうちに剥きだしの膝をすりむいており、傷口からはメイリの髪の色よりも赤い血が流れている。
「あー、さっき木の枝に足をぶつけたから、その時に怪我したみたいだね。大丈夫。言われるまで分からなかったし、大したことないよ」
「……ダメ。治す」
ソーニャはプルプルと首を横に振り、メイリの前でしゃがみこんだ。
「いや、大丈夫だって。アレくすぐったいし、放っておいても治るよ」
「……破傷風。右脚切断。一生寝たきり」
「うっ」
瞳の奥を見透かすような目を向けられ、メイリはたじろいだ。そこへ、ハンナから肩をポンと叩かれた。
「メイリ、万全の状態をキープするのもハンターの務めよ。大人しく受けなさい。アンタがやられたら、ハンナたちもやられるんだから」
「わ、分かったよ…………。ソーニャ、お願い」
ソーニャはコクリと静かにうなずくと、メイリの患部に手をかざしてなにやら呟く。
「……〈医術の神・アスクレーピオスよ 傷病を癒すため 我に力を貸したまえ ヒール〉!」
すると、ソーニャの手から温かみのある光があふれ、メイリの傷口を柔らかく包み込んだ。
「ふふっ。ん、ん~~~!!」
体の内側からくすぐられるような感触を覚え、メイリは下半身を固定したまま上体をウズウズさせた。
「おや? ほれ、ほれほれ」
「ひゃうん!」
そんなところへジュディから脇腹をつつかれ、メイリは体をビクンと跳ねさせてしまう。豊満な部位が波打ち、空気が揺れたように見えた。
「な、何するのっ!?」
「いや~、メイリのカワイイ反応を見たくなっちゃってつい」
「うぅ~~~!」
メイリは髪と同じくらい顔を真っ赤にさせて、悪びれもしないジュディを睨みつけた。
一見しっかり者のメイリだが、意外にも弱点が多く、しばしば仲間から(主にジュディ)いじられている。
「じぃ……」
「ソ、ソーニャ、今度はどうしたのかな?」
気が収まらず、さらに文句を言ってやりたいと思うメイリだった。しかし、しゃがみこんだままのソーニャから向けられた視線に気付き、そちらの方が気になった。
メイリの顔…………よりも下を見つめ、ソーニャは口を開く。
「……また大きくなった」
「「んなっ!?」」
思わぬソーニャの言葉に、なぜかハンナまでもが反応を示していた。
メイリは視線から逃れようと、両手で胸を押さえて後ろを向く。
ところが、ジュディに隙だらけの背後へ回りこまれた。そして彼女は、メイリの腕の隙間から最も柔らかい部分へと手を差し込んできた。
「おー、どれどれ、お姉さんが確かめてあげよう」
「ジュ、ジュディ、止めて! お願いっ!」
脇腹と同じくらい、あるいはそれ以上に弱いところを責められ、メイリはたじたじになってしまう。
「あわわ、ジュディさんっ、こっこはモンスターの生息エリアでですよっ。そんにゃ危ないことを――」
「いい加減にしろっ、この変態!」
「あぎゃっ」
ハンナが調子に乗ったジュディの頭に鉄拳を打ち下ろすと、ようやくメイリは解放された。そして安らぎを求め、ヘレンに飛び込んだ。
「ヘレン~」
「もう大丈夫ですよ、メイリ。怖かったですね~」
「うん、うん!」
泣きつくメイリに、最早しっかり者の面影は消え失せていた。
「んで、ジュディ。どうだったの?」
「バッチリじゃん。2センチはアップしてる」
「ふ、ふ、2人とも、何言ってるんですかっ!」
ジュディの狼藉を止めておきながらも、実は気になって仕方ないハンナ。腕を組んで確認すると、ジュディはサムズアップを見せびらかしてきた。
メイリの味方はヘレン1人だけなのかもしれない。かわいそうなメイリの背をさすりつつ、ヘレンは立ち上がっていたソーニャに話しかけた。
「だけどソーニャ、よく分かりましたね。私なんか全然気付きませんでした。立派なモノを持ってるとは思ってましたけど……」
「うぐっ」
前言撤回。味方なんていなかった。
「……怪我するのはほとんどメイリ。だからいつも見てる」
「仲間の小さな変化も見逃さないなんて、さすが私たちの回復士です!」
ヘレンに褒められて、ソーニャはすまし顔を作りながらも頬を染める。
「……ウチは4人とも大きい。でも、メイリが一番」
「うっ」
「そうですねっ。最近ちょっと動きにキレがなくなってる気はしてましたけど、それが原因だったんですねっ。いつも小さく見せようとさらしを巻いたりと陰で頑張っているのは知ってましたけど……」
「な、なんで知ってるの!?」
発育の良いところがコンプレックスのメイリは、秘密が仲間にバレていたと分かって今日一番赤面した。
だが、パーティーで唯一ぺったんこであるソーニャは、誇らしいところを恥ずかしがるメイリに内心でムッとしていた。
(クッ、あれだけのモノがあるというのに、何がそんなにイヤなんだ……!?)
「ほら、こんなとこでノロノロしてないで、さっさと次行くよ。あの子たちに負けられないんだからっ!」
あらゆる分野で一番になりたがるハンナ。もちろん女性のシンボルである胸の大きさでも、少なくともパーティーの中では一番でありたかった。だが、一番になるどころかジュディにも負けているのが現実だ。
自分は陰で努力しているのに、メイリは何もせずに突き放していく。そのせいで少々イライラしており、せめて他パーティーとの競争には負けられないと自分を鼓舞する。
「う~、どうしてこんななっちゃうかな~」
山道を歩きながら、まだ心のわだかまりが溶けないメイリが呟いた。
「あちき、いっつもメイリの脇腹つついてるでしょ。あれって胸を大きくするツボらしいんだよね」
「「っ!?」」
「もう! 余計なことしないでよっ」
犯人発覚で、メイリはジュディをポカポカと叩き始める。
「そうよ、ジュディ。メイリが困ってるんだから止めなさいよ」
そんなことをのたまうハンナだが、腕を組むふりをして自分の脇の下を指で押していた。
「あれ、ソーニャ、どうしたの?」
「……な、なんでもない」
いつの間にかソーニャは歩行しながら万歳をしていた。ヘレンに問いかけられてもそれを止めない。
その顔は、どこか期待の色が混じっているようだ。
「ジュディのせいで、ジュディのせいでーっ!!」
「ハハハ、冗談だって。落ち着いてよ、メイリ。脇腹つついたくらいで大きくなるわけないじゃん。そもそも、そんなツボがあるんなら世の中みんな巨乳だって」
「「っ!?」」
「そ、それもそっか……」
素直すぎるメイリ。冷静になってみると分かることに気が付き、ポカポカを止めた。
「でも、脇つんつんは止めてよねっ」
「えー、どうしよっかなー」
「もう! 知らないっ」
メイリはつんとそっぽを向くと、軽やかな身のこなしで先に行ってしまった。引き留める間もなく、彼女の姿は目の届かないところへ。
「ジュディ、ハンフェスが終わったら覚悟しときなさい」
「あれ、なんでハンナ怒ってんの?」
「……ジュディが怪我しても、私知らない」
「えー、なんでソーニャまで~」
ハンナは腕を解き、ソーニャは両手を下ろしていた。
なぜこの2人から怒りの矛先を向けられるのか見当がつかず、ジュディはきょとんとした顔。
「え、えっと……皆さん、仲良くいきましょう」
と、言えればよかったのだが、ここで言葉が出ないのがヘレンだった。
ここに来た目的を覚えているのは、ヘレンだけかもしれない。




