92. ハンターフェスティバルⅡ
〇前回のまとめ
・ハンフェス開始に先立って、ギルマスから賞品が紹介される。
・豪華賞品を前に、エリンの心は揺らぐ。
・そんなこんなで、ハンフェスが始まった。
今度こそハンターフェスティバルが始まった。
参加するハンターたちは皆、躍起になってモンスターを探し出す。
だが、『トリコロール』はモンスターなぞお構いなし。舞台となる【朗らかな山】を回り込んで反対側から下山し、そこから【ケークタウン】とおさらばするつもりだった。…………つもりだった。
「「「どうしてこうなった…………?」」」
スタート地点を出て数分後、エリンたちはトボトボと歩きながらため息をこぼした。
「あ、エリンさん、コボルトが現れました! 見ててくださいね、僕の華麗なる勇姿を! 〈闇滅の一閃〉!!」
「おい、エリン。そんなヤツよりこっちを見ろ。オークだぞ。くらえ、〈熾烈な拳〉!!」
エリンたちの前方で発見されたモンスターを、1人の少年がロングソードで斬りつけ、もう1人の少年がクマパンチで殴り飛ばした。
「ふっふっふっ。一番槍はこの僕でしたね。どうでしたか、エリンさん?」
「何言ってんだお前、コボルトよりオークの方がポイント高いんだよ。残念だったな、今んトコは俺の勝ちだ」
「そんなの暫定でしょ。どうせ最後は僕が勝つんだから問題ないね。土壇場でうっちゃりを食わせてやるのも面白そうだ」
「あ゛ぁ?」
「「「…………」」」
『トリコロール』の前では、2人の少年がにらみ合っていた。
ネストルとボニファーは、2人ともエリンに良いところをみせようとして、開始早々彼女たちの前にいつの間にかやって来ていた。
『トリコロール』としては、戦闘離脱する際に他の参加者や運営委員たちから不審に思われたり引き止められたりするのを防ぐため、できるだけ人目に付かない場所まで移動したかった。
けれども、邪魔者がいるせいで想定していた行動が実行できずにいたのだ。
いっそのこと3人で空を飛んで山の中腹まで先回りしようかとも思ったが、エリンたちの後ろにいる1人の人物のせいでそれは躊躇われていた。
ボニファーを護衛するスパイラルパーマだ。ブロンズランクハンターの監視下で逃亡を図れば、それだけで十分に怪しまれる要素となりかねない。そもそも逃げ切れるとは思えないし、すぐに見つけられるだろう。
(この人くらいになれば敵の追跡くらいお手の物だろうし。う~ん、どうしたもんかねぇ)
エリンが恨みがましい目で天を仰いでいたら、ふとジェイラが道端の草むらを指した。
「あ、ゴブリン」
「ヒエッ!」
「「どこだ!?」」
剣士のボニファーと拳闘士のネストルは、それぞれのファイティングポーズをとってモンスターの姿を探した。
「あ、ごめんなさい。気のせいでした」
ジェイラが悪びれずに言うと、少年たちは緊張の糸が切れて肩を落とす。
「ちょっとジェイラ、変な冗談はやめてよ!!」
「ハハハ、ダーシャはゴブリンが怖いからね」とエリン。
「こ、怖くなんかないし! 苦手なだけだし!」
(怖いんだ)
ムキになるダーシャを、ジェイラは不思議そうに見つめる。
これまでゴブリンと遭遇したときは、いつもエリンが気を利かせて先手を打っていたため、ダーシャたちが見かけることは滅多になかったのだ。
「ダーシャは何でゴブリンが苦手なんですか?」
「うっ、そそ、それは…………」
「追い詰められて漏らしたから」
「言うなーーー!!」
身も蓋もないエリンに、ダーシャが赤面して怒鳴る。
「お前ら、大きな声を出すな。刺激されたモンスターに囲まれるかもしれないだろ」
「「「すみませんでした…………」」」
背後からマチアスに注意され、素直に謝る3人。彼がチャランポランだったら適当に聞き流すが、優秀な先輩の言うことは大人しく聞いておくべきだ。
「てゆーか、アイツらちょっと鬱陶しいのよね。アンタ、あの子どっかに連れてってくれないかしら。保護者でしょ」
「生憎、私は坊ちゃんがピンチのとき以外は干渉しないことにしているんだ。それに、意固地になっている坊ちゃんに言うことを聞かせたいならば、私よりもお前たちの方が効果的だろう」
「えー」
正直なところ、ただ単に面倒なだけに思っているような気もするが。子供同士の諍いになんざ興味はなく、さっさと終わってほしいのが彼の本音だろう。
とはいえ、無理に頼んでマチアスの機嫌を損ねるわけにもいかない。渋々ではあるが、ダーシャがネストルたちに声をかけた。
「ねえ、アンタたち、邪魔だからどっか別の場所に行ってくれない」
「おいお前、邪魔だとよ。とっとと失せろ」
「は? あれはお前に向けた言葉だ。それくらい理解しろ、クマ公が」
何というか、予想通りというか。
お次はダーシャから肩をポンと叩かれたジェイラが説得を試みる。
「あの、お2人が近くにいると私たちがモンスターを狩れないんです。そしたら0ポイントで最下位になってしまうので、どうかお願いします」
「ご友人、それなら問題ない。僕が取った分をエリンさんに渡せば、最下位にならずにすむから」
「コイツの分なんていらねえ。俺のだけで十分だ――」
「ハァ? アンタたち、エリンに不正させるつもりなの? サイテーね」
「「っ!?」」
ダーシャの落とした爆弾に、少年たちはハッとさせられた。
やっと諦めてくれたのか、まずネストルが先陣を切る。
「それに、アンタたち2人より、アタシたちだけの方がよっぽと稼げる――」
「おい、行くぞ。エリンに恥をかかせるわけにはいかない」
「あ、ああ。考えてみれば、これから先いつでもエリンさんと一緒なんだから、今にこだわる必要はないんだ。僕は目先のしょうもない願望しか見えず、自分が今何をすべきか、どこへ向かうべきか分からないような人間じゃないからな」
丁度三叉路に行きついたところで、『トリコロール』は少年たちと別れることに成功した。
これで静かになったと、エリンは安堵の息をこぼす。
「あー、やっといなくなったー」
「ホント、迷惑な連中ね」
「そうですね。だけど、こんなところでゆっくりしてるヒマはありませんよ。予定よりも遅れた分、先を急ぎましょう!」
同意しつつも気の緩みをたしなめジェイラに、エリンとダーシャは強く頷いた。
「チェレン、カム!」
ジェイラが従魔のチェレンを自分の影から呼び出し、ダーシャと共にその背に乗った。
エリンも魔法で手ごろなサイズの氷の板を作り出し、それに足を乗せる。
「さあ、行くわよ! 目指すはあの山の向こう!」
「「おーっ!!」」
ハンフェスが終了する時刻になったら、黄色い花火が打ち上げられることになっている。参加者たちは花火から30分以内に受付まで戻って、集めた討伐証明部位を提出しなければならない。
もし時間に遅れれば、棄権したものとして扱われる。
『トリコロール』はこのルールに目を付けていた。
運営側だって、間に合わなかったパーティーのことなんか一々気にかけはしない。冒険に出たハンターの生死は自己責任という原則を貫くだけだ。
だからこそ、ハンフェス中に町から脱出してもすぐにはバレないと踏んでいたのだった。
チェレンやボードを利用する『トリコロール』の移動速度は、一般的なハンターのそれを大きく上回る。ストーカーがいたとしても、追いつかれることはまずない。
仮に何者かが近づいてきたとしても、索敵能力に長けるチェレンがいれば撒くことだってできるはず。
避けられがたいトラブルにでも巻き込まれない限り、このまま脱出計画は成功するだろう。
頬いっぱいに風を受け、3人の少女たちは木々の間を突き抜けた。
♦
頂に近い山腹で、黒い格好をした3人組のハンターが歩いていた。
先頭の男は道のわきにある洞穴を見つけると、その中を覗き込む。
「やっと着いた。ここか?」
「ああ。この奥にヤツが眠っている」
同伴者の1人、ダンが頷くのを見て、男は洞窟へと足を踏み入れた。
「な、なあ、アン。本当にやるのか?」
「ケッ、この期に及んでビビってんじゃねーよ、テー」
臆病になるテーなど気に留めず、アンは奥へと進んだ。
上に行くほど気温が下がり、山頂は年中雪が積もっている【朗らかな山】だが、洞窟の中は程よい温もりに包まれている。
「大丈夫だって。バレたところでセルゲイさんが逃がしてくれる」
「そ、そうか…………」
ダンにも励まされ、とうとうテーも彼らに続いた。
洞窟の奥には、地面にうずくまる大きな何かが存在していた。
「ふっふっふっ。これでボスの仇を打てるぜ」
「んでもよぉ、アン。あんなガキどものために、ここまでする必要あんのか?」
「分かってねーなー、オメエはよぉ。たしかに俺たちが直々に手を下してもいいが、それだとさすがのセルゲイも助けちゃくれねーだろ。やり終わった後のことまで頭が回んねーから、いつまでたってもお前は三流なんだよ」
舌打ちしそうになる自分を押さえ、ダンはアンを軽くにらむにとどめた。
アンの傲慢は今に始まったことではない。
「フフハハハハハ。これでヤツらも、このちんけな町もろともおさらばだ」
そして、アンは懐から小瓶を取り出し、物体に掲げた。
「目覚めよ、オーガキング!!」




