91. ハンターフェスティバルⅠ
〇前回のまとめ
・ボニファー&ネストルが現れた。
・2人の少年はエリンをめぐって言い争う。
・一方、ハンナはエリンへの対抗心を燃え上がらせるのだった。
「一攫千金を狙うハンターたち、準備はいいかーーー!!」
「「「「「うおおおおおおおっ!!!」」」」」
ハンフェスに参加するハンターたちを前に、白皙の老人が壇上にあがった。彼は【ケークタウン】のギルドマスターだ。
ギルマスが老人とは思えないほどの大声をあげると、ハンターたちから大歓声が沸き起こる。
「今日はみんなが待ちに待ったハンターフェスティバル本番だ。テーマは『狩って、勝って、稼ぎまくれ!』だ!! ハンフェスで狩った獲物は、大会終了後にいつも通りギルドで換金できるぞ。今回もたくさん稼いでくれよな!!」
全身のエネルギーを声に変換しているようで、ギルマスは叫ぶだけで汗をかきまくっている。
「そしてここでー、今回の上位入賞者に授与される賞品の紹介だー!! 獲得ポイントが高かった上位5チームには、豪華賞品がプレゼントされます!!
まずは5位からだ。5位のパーティーに渡されるのは、ケークの人気店、マリアンドュ・フレールでのケーキバイキング券だー!! 王国各地に支店を構える老舗の本店だぞー!!」
「「「「「おおっ!」」」」」
ギルマスが叫ぶと、隣にいたギルドのスタッフがチケットを両手で掲げてハンターたちに見せびらかした。
あれさえ持っていれば、お腹いっぱいになるまで美味しいケーキを堪能することができる。
「ケーキバイキングか。行きたかったな…………」
どうせ自分には関係ないからと、エリンは事前に賞品を調べることなく参加していた。
だが、ハンフェスで頑張った人へのご褒美を聞き、心が傾きかけていた。ケーキを食べてからでも間に合うのではないか、と。
「ダメですよ、エリンさん。私たちが目指すのはそこじゃないんですから」
「うん。それは分かってる……けどさ~」
「お、嬢ちゃん。自分たちは5位なんかに収まる器じゃねえってか? くぅ~、見上げた心意気だな!」
「は、はぁ。そうですね……」
隣にいたハンターは、ジェイラの言葉を間違って解釈したみたいだ。けれども、その方が『トリコロール』にとっては都合が良いので、わざわざ訂正することはしない。
「お次は4位だな。4位になったみんながもらえるのは、ケークグランドホテルの宿泊券だぁぁぁ!」
「「「「「おおおっっ!!」」」」」
ケークグランドホテルという名前は、エリンたちも知っていた。この町に来た時に泊まろうとしたホテルのひとつだ。
清潔感にあふれており、一般庶民がお目にかかることなんて滅多にないようなディナーと朝食、それに貸し切り温泉やマッサージなんかも付いてくる。一度でも泊まれば、他のホテルには泊まれなくなること間違いなし。
が、その値段を見て何事もなかったかの如く引き返した。
1人当たり1泊30万フォート。
とてもじゃないが、ぽっと出の新米ハンターに払える額ではない。3人で泊まれば、誘拐犯逮捕とポイズンスネーク討伐でゲットした報奨金のほとんどが一晩で持っていかれる。
ところが、あのチケットさえあれば、そんなホテルに無料で招待してくれる。まさしく夢の国への切符だ。
「ぐぬぬ、ハンターギルドめ。私を町から出られなくするつもりか…………」
物欲にまみれたエリンに、ダーシャ呆れ、ジェイラは不安そうに苦笑いした。
こいつは本当に脱走計画を遂行する気があるのだろうか。
「続いて第3位、すごい傷薬10本!!」
「「「「「おおおおっっ!!!」」」」」
ギルドスタッフが机の上にかぶせてあった布を取り払うと、澄んだ色の液体が入った小瓶がたくさん現れた。
「あ、いらね」
「「おい」」
エリンにはクロフォードに教わった回復魔法がある。それさえあればたいていのケガは治療できるので、あまり必要性を感じなかった。
「エリンさん、あれは手足が引きちぎれる以外の大怪我でも治せる薬で、ハンターからかなり需要があるんですよ。手に入れるのも難しいですし、使わなくても高値で売れるんです」
「さっきのホテル代よりも?」
「た、多分…………」
ハンターからすれば、1日で使い切ってしまう宿泊券よりも、自分や仲間の身命を守ることができる傷薬の方が貴重。
だが、エリンの感覚からすれば、3位よりも4位になった方がお得だった。
「そして、第2位のパーティーには、『リビティーナの杖』をあげちゃいまーす!!」
「「「「「おおおおおっっっ!!!!」」」」」
エリンたちもギルドでよく見かける受付嬢が、白い箱に入った1本のステッキを恭しく持ち上げて見せびらかした。
「なんですか、あれ? 黒くて太い棒みたいですけど…………。それに、あんな大きいの(バッグに)入りませんよ」
「ジェイラ、女の子がそんなこと言っちゃダメだよ」
「?」
ジェイラの何気ない発言で周囲にいた男性ハンターたちが頬を染めることになったのだが、発言者本人はそのワケを理解できなかった。
「でもなんか、先っちょの丸い部分が蝸牛みたいだよね」
「「カギュウ?」」
「あー、耳の奥にある渦巻きみたいな器官だよ」
「「え…………」」
ジェイラのよりも、このエリンの発言の方がインパクトが強かった。
解剖なんてやるモノ好きもほとんどいない世界で、人体の中身について基礎的な知識すら広まっていないのだ。もちろん、耳の内部の構造を知っている人は、少なくともこの場にはいなかった。
にもかかわらず耳の奥が渦巻きになっていることを知っているということは、実際に見たことがあるとしか思えないのだ。
「ま、まぁ、きっと魔法使い向けの杖よね。アンタも『アプサラスの涙』を持ってるじゃない」
余計な思いを断ち切るかのようにそう言って、ダーシャはエリンが首から下げているペンダントトップを手に取った。
「あれは黒いから、恐らく闇属性の魔法使いが使うんだわ」
「でもダーシャ、魔法使い全般ならともかく、闇属性の使い手ってなると少ないんじゃない?」
「うっ……」
もっともな問いを投げかけられ、ダーシャは即答できずに苦い顔。
「ま、まあ、希少価値があるのよ! 高ランクのパーティーとか、収集癖のある貴族とかになら高く売れるわよ」
「90万フォートより?」
「…………」
エリンの問いに、今度こそダーシャは言葉を詰まらせた。
(さすがにこれ以上はいじめないでおこっと)
そうして、エリンはギルマスの後ろにある大きな陰を見やった。成人男性10人分くらいありそうな高さで、赤い布で外からは見えないように隠してある。
あれこそが優勝パーティーへの褒賞なのだろう。
今のところ、2,3位になるよりも、4,5位の方が豪華なラインナップになっている。
だが、あのサイズからして、エリンを落胆させるようなものがあるとは思えない。
(もしかして、金貨…………!?)
あの山が全て金貨の詰まった箱だとしたら…………。
エリンは金貨の海で泳ぐ自分の姿を思い浮かべてニンマリ。最早なぜ自分がここにいるのかなんて、忘却曲線の遥か彼方に置き忘れていた。
「さ~て、いよいよ第1位へのプレゼントの発表だ!」
妄想を膨らませ、エリンはワクワクドキドキ。
ジェイラたちも期待を込めて壇上を見つめている。
「優勝パーティーにはなんとなんと…………ラム酒1年分だぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」」」」」
今日一番の大歓声。
赤い布で隠された物の正体は、大量の酒樽だった。
ハンターたちは働き盛りの男性が多い。日中は危険が伴う肉体労働に従事し、1日の終わりに飲むお酒を楽しみに生きている人ばかり。そんな彼らにとっては、最高のご褒美といえるだろう。
しかし――
(((い、いらねー)))
酒を飲まない少女たちからすれば、無用の長物でしかなかった。
熱気に包まれた会場の中で冷めきっていた『トリコロール』だったが、エリンの後ろ髪を引かれる思いをかき消すのには丁度良かった。
豪華賞品を狙うハンターたち、想い人を求める少年、逃げ出したがる誰かさん…………。
「よーし、みんな準備はいいか? 行くぞ! ハンターフェスティバル、スタート!!」
それぞれの野望をかなえるための舞台が、ついに幕を切った。




