90. 祭りのプレリュードⅣ
〇前回のまとめ
・受付を済ませ、『ホワイトエンジェル』と遭遇した。
・ハンフェス会場の【朗らかな山】について説明してもらった。
・不良トリオの『ダーク・ダンス』と出会った。
「さっきからずっと変な人たちに絡まれ続けてるけど、ようやく解放されたよ~」
「残念だったわね、エリン。そうなるのはまだまだ先みたいよ」
「え?」
首をかしげそうになったが、まだジュディに固定され続けているためそれはできなかった。
ただ、ダーシャの表情から、これから何が起こるのかは予測できた。
「いやあ、朝からエリンさんに出会えるなんて、今日はツイてるなぁ! …………なんか余計なのが付いてきたけど。でも、エリンさんと会えたからプラマイゼロ、いや、プラス100だ!!」
「白々しいぞ、お前。エリンがここに来ることは分かってたことだろーが。それに、とっくに昼は過ぎてる。お前は何時に起きたってんだ」
愉快な少年たちのお出ましである。
「あーあ。余計な虫さえいなければ、素晴らしい1日になるはずだったのに……」
「同感だな。ブンブンうるさい羽虫がいらあ」
相手のセリフにお互いムッとし、エリンの前でにらみ合った。
「ま、フェスティバルが終わる頃にはコイツも大人しくなるんで、今のところは我慢しておいてやろう。
それよりもエリンさん、大丈夫ですか? 頭のおかしな連中に絡まれていたみたいですけど。もしアレでしたらサザグたちに潰してもらいますよ」
(“潰す”!? 潰すって何!? 物理的にブチューって? 貴族怖い!)
ボニファーが真顔だっただけに、冗談半分での発言とは思えなかった。
この子なら本当にやりかねない。そんな狂気が感じられる。
「ヘッ、俺だったらわざわざ人にやらせたりしないな。自分の手で取っ払ってやる」
「野蛮だなぁ。これだから貧民は」
煽り合う2人。ここに来る際も一緒に並んで歩いてきてたし、すっかり仲良くなったのでは?
「いや、潰すとか、そんなことしなくていいから。ちょっと挨拶してただけだからっ」
勝手なマネをされて、後から殺人教唆とかをでっち上げられるなんてことがあってはならない。ただでさえ一部の憲兵に目を付けられているのだから。
「そうですか。エリンさんはご自分で思っているより可愛いんですから、もっと気を引き締めてください。ただでさえ余計な虫に追いかけられているんですから」
「おい、お前それは俺のこと言ってんのか!?」
「あれ、自覚があったんだ」
まもなくハンフェスがスタートするため、辺りには人が集まってきている。そんな場所でギャーギャー喚き散らしているもんだから、周囲からの白けた視線が気になってきた。
「ねえ、エリンちゃん。こいつら何? 知り合い?」
「さ、さあ?」
頭上からジュディに問いかけられたので、適当に返しておく。
先ほどの『ダーク・ダンス』のときほどではないが、ジュディはボニファーたちへ警戒心を抱いているみたい。彼らが自分の意中の人を狙う競争相手だと本能で悟ったのだろうか。
「ああ、これはエリンさんのご友人ですか? 僕の意中の人がお世話になっています。ぜひ今度フェケテまで遊びに来てください」
「フン、他の女にまで色目使いやがって。女だったら見境なく手を出すクズじゃねーか」
「挨拶もできない礼儀知らずにどうこう言われる筋合いはないかな」
「礼儀なんかよりも大切なモンがあるんだよ」
あー言えばこう言う。
言い返すだけ、エリンを始め周囲の人々を興ざめさせるだけだというのに。
「何コイツら、マジでキモいんだけど」
「あわわわ……喧嘩は、やめたほうがいいと思いますっ」
「大変そうだね」
「まったく、いい加減にしてほしいわね」
居合わせた少女たちがエリンへの同情や少年たちに対する悪感情を示す中、1人だけまったく異なったことを考えている者がいた。
(お、男の子2人が、エリンを取り合ってる!?)
エリンをめぐるバトルが目の前で繰り広げられていることに、ハンナは打ちひしがれていた。
『ホワイトエンジェル』はケークのアイドル的存在であったが、実際にチヤホヤしてくれているのは商店街のおじちゃんや、余生を謳歌しているおじいちゃんたちばかり。
恋愛対象となるような若者たちは、なかなか寄って来てはくれなかった。
実際には高嶺の花すぎて安易に近づけず、ハンナ以外のメンバーも青少年たちから向けられる熱視線に気付いていたが、如何せんアクションを起こす男の子がいなかったせいで、ハンナは自分がモテないと思い込んでいたのだ。
そして、ハンナはモテない理由として、自分がハンターをやっていることが影響しているという結論に至り、そう思い込んできた。今はまだ、女性のハンターはあまり一般的でない。だからみんな1歩踏み出せないだけなんだろうと。
恋愛のためにも、もっともっとハンターとして活躍しなければと思っていた。
ところがどうだろう。自分と同じ女性ハンターで、功績をあげて輝いている少女が自分の眼前で熱烈なアプローチを受けているではないか。こんな幼児体形ですら、ご執心になる男が2人もいるのだ。これが自分だったら……。
「ぐぬぬぬぬぬ…………。こんな“ちっこい”のに負けていられない!」
ハンナの対抗心は燃え上がっていた。
「えいっ!」
「痛っ!?」
彼女はエリンを抱え続けるジュディの後頭部にチョップし、怯んだ隙にエリンから引きはがした。
「ちょっ、何すんのよ!?」
「ジュディ、行くわよっ。まったく、いつまでエリンを抱っこしてんのよ」
「ま、待って! 置いてかないで~」
出会った時から先ほどまで強い苦手意識を持ち、忌避しようとしていたジュディにエリンはしがみ付いた。
目を血走らせた少年たちを前にしながら、ジュディという盾を失うのは恐怖だった。
「わっ、エリンちゃん♡」
「あ、コラッ!」
決して、前世では体験できなかった温かく柔らかい感触に味を占めたからではない…………多分。
「はいはい。エリンはこちらでーす」
「ありゃ?」
ジュディもエリンに応えるため、抱擁しようとした瞬間だった。
割り込んできたダーシャによって、エリンはひょいと持っていかれてしまった。
「イヤー! エリンちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
エリンを奪われ、ジュディの悲痛な叫びが響いた。
「ああ! 僕のエリンさんは今日も輝いている!」
「おうよ、俺はこの時ほど自分を生んでくれた親に感謝したことはねぇ」
「はぁ~。もうすぐ始まるのよ。アンタたちはあっちでしょ。付いて来ないでよね」
ボニファーとネストルをしっしと払い除け、ダーシャは指定されたスタート地点へと仲間を伴って向かった。
そしてようやく、しょうもないプロローグに4話も費やしておきながら、いよいよハンターフェスティバルが始まるのだった。
「……………………どうしてこうなった?」




