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83. 想定外

〇前回のまとめ

・ギルドマスターに事の顛末を報告し、任務完了。

・スーパーランクにランクアップした。

・ギルドは相変わらずドケチだった。

 お尋ね者だった連続児童誘拐犯の逮捕に大きく貢献したことで、『トリコロール』は報酬として60万フォートをゲットした。ポイズンスネークの売却した分も合わせると、優に100万フォートを突破。

 一気に大金を手に入れ、心躍る日々を送っていた。


 メリットを享受したのは『トリコロール』だけではない。エルフの歌姫・ソフィーもまた、その1人だった。彼女がお金を借りた先が、かのパープルプラント商会だったのだ。

 パープルプラント商会はエリンらの告発を受けて憲兵団にガサ入れされ、今までの悪事が暴かれることになった。

 ソフィー以外にも不当な暴利で金銭を貸し付けていたことが明るみになり、商会に対する借金は全て帳消しとされた。むしろソフィーは過払い金を取り戻すことができたくらいだった。

 他方、ナッシュとかいう商人は投獄され、()(ゆう)に帰した。まあ、今までさんざん好き勝手やってきたツケが回ってきただけだ。自業自得。


 さらに、先日助けた子供たちの中に宿屋の息子がおり、その両親からぜひともお礼にということで、無料で宿に泊めてもらえることになった。

 食事は別料金で風呂も共用だけど、折角なので3人は好意に甘えることにした。風呂は、森の中でトリコロールハウスの浴室を使えばよいだけのことだ。


 あれから数日後、事件解決の功労者である『トリコロール』は大手を振って町を歩いていた。【ケークタウン】での知名度も大きくアップし、一歩外に出れば周囲からの視線を感じる。

 が、注目されることは必ずしも良いことばかりではない。デメリットだってもちろん出てくる。


「見つけたぞ、エリン!」

「「「…………」」」


 つい先程まで気分は晴れやかで、足取りも軽かった。

 ところが、心の環境破壊は一瞬だった。


「あぁ、心配したんだぞ。いきなり現れたモンスターと一緒にいなくなって、もしかしたら食べられたんじゃないかと。本当に気が気じゃなかった……」


 目の前に突如現れた大柄な少年はひとりでしゃべり続けているが、言葉の内容に耳を傾ける者は誰もいない。


「ハァァァァ……。どうしてアンタがここにいるのよ、ネストル」


 硬直したエリンに代わってダーシャがボヤく。

 【フェヘールシティ】の寮で出会った少年、ネストル。恋するエリンのため、はるばる追いかけてきた。

 もっとも、当のエリンからすれば、ネストルはただの迷惑な変態ストーカーでしかなかった。彼はダーシャには目もくれず、隣のエリンを目指して一歩、また一歩と近づいてきた。


「ッ! アンタねぇ…………」

「も、申し訳ないでやんすけど、話だけでも聞いてほしいでやんす。そうしたらネストルもきっと落ち着くと思うでやんす」

「それでネストルの気が済めばいいんだけどね~」


 たまらずダーシャはバッグから弓矢を取り出すが、ネストルの仲間であるスタースとエフィムが間に割って入る。彼らは口頭での説得は最早不可能と諦め、ネストルが暴走した時に止めようと付いてきていた。…………まあ、結局のところ骨折り損だったわけだが。


「話って何? 一方的に自分を好きにしたがる危ない人に進んで近寄るほど、私はバカじゃない。どんなことされるか分かったもんじゃないしね」

「そうか、危ない目に遭ったんだな。だけど、もう大丈夫だ。これからは俺がお前を守ってやる」

「…………」


 アンタの存在が私の人生史上最大の危機だ。

 なんて言ったところで、この足りない脳みそでは理解してはもらえないだろう。


「エリン、逃げなさい。アタシたちがアイツを押さえておくから。大丈夫よ、後から行くわ」

「え?」

「あの人の狙いはエリンさんだけです。私たちは眼中にないようなので、一先ずエリンさんの無事を確保できれば、きっと何とかなりますよ」


 以前のように、チェレンを召喚するわけにもいかない。

 かといって3人そろって氷の板で逃げようとしても、ストーカーが飛びついてくる可能性が充分にある。ネストルは仲間の壁をかき分け、距離をかなり小さくしていた。

 ただ、自分だけが逃げたところで、ヤツの欲望の矛先がダーシャたちに向かないなんて断言できない。


 エリンは迷った。

 しかし、闘いの現場では小さな躊躇(ためら)いが命取りになる。


「おぉ、エリンーっ! 好きだ――!!」

「って、うわっ!?」


 往来の真ん中で、ネストルはエリンに跳びかかる。

 操の危機を感じたエリンは体が強張り、咄嗟に動くことができなかった。


「――――そこまでだ!」


 両腕を額の前でクロスさせて身を固めたエリン。

 しかし、襲われる感触はいつになってもやって来なかった。


「…………ん?」


 恐る恐る前を見てみると、エリンはハッとした。ネストルが地面の上でひっくり返っていたのだ。


「え、何…………? 一体どうなってんの?」

「怖かっただろう。我々が来たからにはもう安心だ」

「……はい?」


 背後から聞こえた声を振り返ってみると、3人の壮健な男性がそこにはいた。個性あふれる髪型が印象的だが、それ以上に圧倒的なオーラを放っている。

 彼らの襟元を見て、ジェイラが呟いた。


「ブ、ブロンズランク…………!」


 ウルトラランクとブロンズランクのランクの差は1つだが、両者の壁は大きい。

 突然の高ランクハンターの登場に、『トリコロール』だけでなく『BB団』のエフィムとスタース、ついでに居合わせた野次馬たちは瞠目(どうもく)した。


「な、何しやがるっ!? 町中で魔法を使うとかルール違反だぞっ」


 ただひとり、自分の恋路を邪魔されたネストルだけが憤懣(ふんまん)やるかたない様子。

 すると、ブロンズランクの内、(げき)を持ったスパイラルパーマがネストルを見下ろして言い放った。


「たしかに、もちろん我々だってそのことを知っている。だが、それには例外がある。『不正の侵害から自己または他人の利益を守るためなら許容される』と」

「俺がいつ誰を害そうとしたってんだ!? 俺たちがノーマルだからって調子に乗ってんじゃねーぞっ!」


 ネストルはいきり立ち、2人の仲間が必死に彼を抑え込もうとしている。

 彼らこそ1番の被害者であるはずだが、ネストルと同じ民族、同じパーティーメンバーということもあってか、周囲からは同罪のように見られていた。


「ネストル、落ち着くでやんす! 相手はブロンズランクでやんすよ~!」

「相手が悪すぎるよ~。もう帰ろうよ~」

「うっせー! 放せっ、放しやがれー!」


 エフィムたちの拘束を振り払い、ネストルはエリンへと手を伸ばす。


「来い、エリン。俺たちは運命共同体だ。そのおっかねーヤツから逃げるぞ!」

「ひいっ!」


 ダーシャとジェイラが、怯えるエリンを守ろうとする。ところが、それよりもブロンズランクの2人目、オールバックが動くのが早かった。


「〈万物の根源たる火よ 彼の者を沈めよ ファイヤーボール〉!!」


 するとオールバックの前からバランスボールくらいの火の玉が生み出され、それは『BB団』に向かっていった。


「「「ぎゃ~~~~~!!!」」」


 火球は爆発し、3人の少年を空まで吹き飛ばしてしまった。


「エリン、お前は運命の人だ! 俺はまた会いに来るからなー!!」

「何でオラまでこんな目に~! 連帯責任なんてもう嫌だ~!」

「理不尽でやんす~!!」


 3人は町の外にまで飛び、悲鳴と共に星になって消えた。「やな感じ~」って言ってたら完璧だったのに。


「す、スゴイ……。あれが、ファイヤーボール…………!?」

「さすがブロンズなだけあるわね。ふ、フン、ちょっと驚いたわ…………」


 一流ハンターの魔法を目の当たりにし、ダーシャとジェイラは目を丸くする。

 一般的な魔法の基準が分からないエリンは、窮地が去ったとホッと一息。ブロンズハンターたちに頭を下げた。


「あ、あの、どうもありがとうございました」

「いや、構わない。依頼対象の保護は仕事の範囲内だ」

「ん、依頼対象?」


 最後のハンター――バッハのような髪型をしていたので「黒髪バッハ」とでも呼ぶことにする――の言葉の意味が理解できず、エリンは怪訝そうに彼を見上げる。

 その時、彼らの背後から1人の少年が姿を現した。


「やっと見つけましたよ、エリンさん!」

「…………へ?」

「ふっふっふ、そんなお面を付けていたところで、僕の目は誤魔化せません! 一目で分かりましたよ」


 それは金髪の少年だった。年齢はエリンたちと同じくらいだろうか。若いくせになかなか仕立ての良い装備を身に着けている。

 向こうはこちらのことを知っているようだが、生憎エリンは彼が誰だか見当がつかなかった。


「えっと、どちら様でしょうか?」

「あれれ、もしかしてまた記憶喪失になったんですか? そんなことないですよね。何てったって僕とあなたの仲なんですから」

(いえ、全く思い当たる節がないんですけど。…………ん、モヴィーか? いや、アイツはもっと背が低かったはず。う~ん、分からん)


 エリンがアレコレと転生してからの記憶を探っていると、金髪の少年は今にも泣きだしそうな顔になった。


「エリンさん、まさかと思いますが、僕のこと忘れたんですか…………?」

「えっと…………、どちら様ですか?」

「んなっ!?」


 よほどショックだったのか、少年はその場で膝から崩れ落ちた。

 ただでさえ今のエリンは注目の的。町の中で少女が男の子を泣かせたとあって、野次馬の良からぬ会話(妄想)がエリンの耳にまで運ばれてきた。

 ダーシャたちは心底帰りたそうな顔。それはエリンとて同じだった。どうしてこうも、人生にはロクなことが起こらないというのか。


「ボ、ボニファーです。オルティス家のボニファーですよ、エリンさん…………」

「あー!」


 ようやく少年が素性を明かした。

 そしてその家名を聞いた時、エリンは合点がいった。

 オルティス男爵は、エリンが【フェケテシティ】に滞在していた間、次男のシデラを救出したお礼として寝食を提供してくれた親切な貴族だ。たしか、そこの長男がボニファーという名前だった。


「思い出した。あの時のお兄ちゃんか」


 そりゃあ15話にちょこっとしか登場していないのだ。読者の皆さんだって「そんなヤツいたっけ?」と思っているに違いない。


 とはいえ、これで謎が解けてスッキリした。だが、同時に次の謎がやってきた。


「でも、どうして君がこんなところに来たの?」


 ボニファーはエリンが自分のことを覚えていたと分かり、気持ちを持ち直したらしい。

 自力で立ち上がると、エリンの目を見てビシッと言い放った。


「それはですね、偉い人に頼まれてエリンさんを連れ戻しに来たんですよ!」

「…………はい?」




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