82. ランクアップ
〇前回のまとめ
・誘拐された子供たちを両親に返した。
・中には我が子と再会を果たせなかった親も。
・エルフの想いは重かった。
カランコロン
ハンターギルドは夜遅くまで開いている。夜更けまで探索するハンターに対応するためだ。
この日『トリコロール』が訪問した時、ギルドの中にハンターは2,3人しかいなかった。たが、エリンたちは彼らには目もくれず、受付までまっしぐら。
特にすることもなくボーっとしていたユリヤに、ジェイラが声をかけた。
「こんな時間にすみません。依頼完了の証明書を持ってきたので、確認してください」
「あ、はい。少々お待ち…………って、えぇ!?」
睡魔を振り払って応対しようとしたユリヤだったが、『トリコロール』が受注した依頼内容や、憲兵からもらった討伐証明書を見て驚きの声を上げる。
「誘拐された子供たちが戻ってきたとは聞いていましたが、あなたたちだったんですね…………」
ずっと未解決のままになっていた事件を、町に来たばかりのノーマルランクが解決するとは思いもよらなかった。
それでも事務仕事をテキパキこなすユリヤに、ダーシャがさらなる事実を告げた。
(まぁ、冷静に考えれば、この子たちにそんな実力があるなんて――)
「あと、誘拐団の元締めを突き止めたわ」
「何ですって!?」
ユリヤの考えでは、『トリコロール』はたまたま捕まっている子供たちを発見し、たまたま敵の目がなかったことで無事に依頼を達成してきたというものだった。誘拐犯は、どうせ寝ているところを運よく捕縛できたところだろうと。
まさか敵の大ボスまで辿り着くなんて、想像の域を大きく逸脱する事態である。
「今回の事件を裏で操っていたのは、パ――」
「あ、ダーシャさん、ちょっとストップ!」
そのまま自分に情報を伝えてこようとしたダーシャの口を、ユリヤは身を乗り出して塞いだ。
「むぐっぅ!? もごもご!」
「こういうところでする話じゃありません。もっと場所を選んでください。奥の方へご案内します。
セリーヌちゃん、すぐにマスターを呼んで! 火急の用事があるって」
「え、でもユリヤさん。こんな時間じゃ、もうマスターも寝てるかと……」
「叩き起こして!!」
「ひ、ひゃいっ!」
ユリヤが強めに言い放つと、セリーヌというギルド職員はすぐさま建物を飛び出していった。
そして、エリンたちは奥にある談話室へと通された。
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20分が経過しても待ち人はなかなか姿を現さなかったので、たまらずユリヤが飛び出していった。
それからさらに5分くらいで、ユリヤは1人の男性を連れて戻ってきた。
白髪交じりの髪はボサボサで、面倒くさそうな表情を誤魔化そうともしない。そんな男に向かってユリヤは言い放つ。
「ホラ、もう着いたんですからビシッとしてください、ギルマス」
「んなこと言ってもよぉ、ユリヤ。おめぇさん、今何時だと思ってるんだ?」
「何時でも構いません。とにかく、まずはそこに座ってください」
ユリヤがエリンたちの向かいのソファーを指すと、ギルマスという男性は頭をかきながらため息まじりにこぼす。
「あー、めんどくせー。…………んで、話って何だ? こんな時間に呼出しといて、大した要件じゃなかったら降格させるぞ」
安眠を妨害されたのか、ギルマスの機嫌は芳しくなかった。水でもかけられたらしく、前髪が少し濡れている。
眠たいのは自分も同じだと少々苛立ちながらも、エリンは不満を抑えて答えた。
「はい。実は、連続誘拐犯の犯人を突き止めたので、その報告に参りました」
ユリヤが眠気覚ましの紅茶を差し出すが、ギルマスはカップに口を付ける前に目を覚ましたようだった。
少ししか開いていなかった目を光らせる。
「ほう、それは面白そうだな。詳しく聞かせてもらおうか」
「私たちは今日、先日誘拐された子を捜索するために【レンガの洞窟】へ行きました。その際、入り口で出会った『ブラック・ネイル』の皆さんと行動を共にすることになったんです。洞窟探索の経験者である自分たちが同行した方が、依頼の成功率は上がるだろうと言われて」
『ブラック・ネイル』と聞いて表情を若干変化させたユリヤと異なり、ギルマスは眉ひとつ動かさずにエリンを見つめたまま。乗り越えてきた場数が違うんだろうなと、エリンは勝手に感心する。
「ですが、時間をかけて洞窟の奥、行き止まりに行きついた時、彼らは正体を明かしました。ヤツらは誘拐団の一味で、人身売買の斡旋をしていたようなんです。その場には多数の仲間が集められていて、私たちも危うく殺されるところでした。そしてラカムから元締めの名前を聞き、囚われていた子供たちを連れて洞窟を脱出したんです。
あ、あと、ダルトワっていう憲兵から冤罪をかけられそうになりました」
「おい、おい、ちょっと待て」
今日の出来事を要約したつもりだったが、ギルマスには引っかかるところがあったみたいで、話を遮って尋ねた。冤罪のところだろうか。
「肝心なところが抜けてる。行き止まりに追い詰められていたってのに、どうやって抜け出したんだ?」
「そんなの、エリンの魔法があればちょちょいのちょいよ」
「「…………」」
ダーシャが端的に説明するが、説明にはなっていない。
ギルマスは諦めたように続ける。
「はぁ…………。よく分からんが、分かった。ハンターの詮索をしようとした俺が悪かった。んで、その『ブラック・ネイル』はどうなった? それと、誘拐団の元締めとやらも教えてもらおうか」
「『ブラック・ネイル』は、まだ洞窟に残っていると思います。あと、裏で糸を引いていたのはパープルプラント商会のナッシュとかいう人です。いずれもすでに憲兵に伝えてあります。すぐに捕縛隊が差し向けられました」
「そうか、分かった…………」
ハンターギルドは憲兵に出し抜かれたことになるが、ギルマスの顔は苦々しいものではなかった。
そこへジェイラが問いかける。
「あの、『ブラック・ネイル』はどうなのでしょうか?」
「今の話だけでも未成年者略取・誘拐罪、監禁罪、人身売買罪、殺人未遂罪が彼らに成立します。生憎この国には死罪がないので、彼らは鉱山送りにされますね」
(鉱山……。シベリア的な?)
「それで、ギルドとしては『ブラック・ネイル』のハンターとしての身分を剥奪した上で、多額の制裁金を科すことになります。その一部は賠償金として被害者に配られます。あ、皆さんも対象になるので安心してください」
「もらえたらいいねー」
エリンが皮肉交じりに言うと、ユリヤは顔を引きつらせた。
日本でも犯罪被害者が加害者に賠償を請求することはある。もっとも、裁判では勝てるが、実際に賠償金を受け取れることはほとんどない。そもそも、犯罪者なんてお金に余裕のない人がほとんどなんだから。
今回も、『ブラック・ネイル』から賠償金を回収するのは難しいだろう。
「まあ、あれだけ手こずっていた事件の解決に貢献してくれたパーティーがノーマルってのもおかしな話だ。これを機にスーパーランクに上げようじゃないか。ポイントも問題ないはずだしな」
「「「おぉ!!」」」
3人の顔が、一瞬にして喜びに輝く。
一般的には早い方だが、エリンたちにとっては、これまでの道のりが長く感じられるのだった。
「そういえば、児童誘拐犯はお尋ね者になっていましたよね。エリンさん、私たちの手取りが増えますよ!」
「そうだったわ! たしか150万フォートだったわね。ということは、えっと……、ああもう! 細かい計算なんていいのよ。早く持ってきなさい!」
「スーパーランクに昇格したから、取り分も増えますね!」
「残念ですが……」
キャッキャウフフと手を取り合って喜ぶ『トリコロール』に、ユリヤは言い辛そうに切り出した。
「ギルドがいただく手数料は、依頼達成時のランクに応じて決まります。ですので、今回までは6割引かせていただくことになりますね」
「「「…………ドケチ」」」
金の亡者、ハンターギルド。この恨みは忘れない。




