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81. 任務完了!

〇前回のまとめ

・囚われていた子供たちを発見。

・無事に洞窟を脱出し、町まで帰還。

・憲兵から冤罪をかけられそうになるが、饒舌を駆使して返り討ちに。

 憲兵団は誘拐被害者家族の一覧でも持っていたのか、『トリコロール』と子供たちを待機させている間に使いの者を送った。

 ラルスの保護者であるソフィーとは面識があるが、あとあとの面倒を忌避するために、直接連れて行くのはやめた方が良いとのこと。

 ということなので、ジェイラがカフェ『森の妖精』にまでソフィーを呼びに行った。


 家族が来るまでもうひと踏ん張り。

 子守を担ったのはほとんどエリンだ。魔法使いという玩具は、子供からしてもなかなか飽きない代物だったらしい。


「ラルス? ラルスなの!?」

「あ、お姉ちゃん!」


 ソフィーが来たのは3番目だった。

 詰所から『森の妖精』まではそこそこ離れているが、居ても立っても居られずに飛び出してきたようだ。

 弟の姿を確認するや、ソフィーはたまらず抱きしめた。


「あぁ、本当に、本当に無事で良かった! もう、とっても心配したんだから!」

「お、お姉ちゃん、ぐるじぃ…………」


 だんだんとラルスの顔色が悪くなっていくようにも見えるが、感動の再開に水を差す者はいない。

 弟の温もりをしっかり感じ取ると、ソフィーは立ち上がってエリンたちに頭を下げた。


「皆さん、本当にありがとうございました! 大したお礼もできませんが、皆さんから受けた御恩はこの身が朽ち果てる時まで決して忘れることはありません」

「いえいえ、お金なんかじゃなく、正義のために闘うのが私たちの仕事です。私たちはただ務めを果たしただけですので、」


 たしかに家族の命を救ったことは大きいかもしれない。

 ただ、エルフは長命の種族で、何百年も生きるとされている。それだけ長い間自分たちの存在を留めておかれるのは、さすがに想いが重すぎる。


「あ、そうだ!」


 きちんと依頼書に完了した証となるサインを(したた)めてもらい、エルフの姉弟が帰路に就こうとした時だった。

 何かを思い出したようにラルスが立ち止まると、エリンのところへと小走りでやって来た。


「ん、どうしたの?」

「白いお姉ちゃんにお礼! ねえ、ちょっと耳貸して」


 感謝を伝えるのに大きな声で言うのは恥ずかしいんだな。

 なんてことを考えながら、エリンは上体を傾けて顔をラルスに寄せた。


チュ

「……………………は?」


 頬に伝わった感触の意味を理解するのに、エリンは幾許(いくばく)かの時間を要した。

 意図を探ろうかと相手を窺うが、ラルスはすぐ姉のところへ駆け戻る。それでも、いつも真っ白なラルスの頬が、夕焼けのように朱く染まっているのは確認できた。


「エヘヘ、じゃーねー! また今度!」

「…………は、はぁ」


 パーティーの仲間や憲兵たち、そしてソフィーは「あらあら~」と温かい目を向けてくるが、エリンの背を流れる汗は酷く冷たいものだった。


「お嬢さん、モテますこと」


 ダーシャが揶揄ってくるが、あまり気分がよいものではない。

 エリンの感覚でいうと、27の成人男性が、自分よりも年上の男性から接吻されたのだ。そう考えたら複雑な心境になる。


「ま、まぁ、子供がすることだし…………」

「そういえば昔、聞いたことがあります。エルフの男の人が人前で異性にキスをすることは、その人に唾をつけるという意味があるんですよ。『コイツは自分のものだ』ってアピールするんです。子供であっても変わらないとか」

「オーマイガー……」


 沈鬱(ちんうつ)は絶望になり、曇り空だった心に雨が降り始めた。

 エリンの精神としては、相変わらず神崎麟太郎(かんざきりんたろう)のままだ。男性から向けられる好意に対しての心理的抵抗感は大きい。


(3人もいるというのに、なんで自分が…………?)


 エルフ族は魔法に長けた種族である。そうしたこともあって、魔法が得意な者がモテる傾向にある。あとは、エルフ族のように美形で薄い体も好まれやすい。

 魔法を使いこなすペッタンコは、まさしくエルフの少年にとってストライクゾーンのど真ん中だった。


 エリンが鬱々としている間にも、次のお迎えがやってくる。1時間も経たないうちに、保護した子供たちは皆家族の下へ帰っていった。

 しかし、子供たちがいなくなっても、外には何組かの保護者の姿が残っていた。


「レミー! レミー!?」

「ウチのアマンドはどこだ!?」

「メルシェちゃん、ママが来たよ。出ておいで!」


 すでに誘拐犯によって別の場所へ送られてしまった子供たちの親だろう。

 発見した洞窟の中に、食料は最低限しかなかった。誘拐事件はエリンたちが【ケークタウン】に来る前から起こっている。全員の救助が間に合ったわけでは決してない。

 喉から血が出るんじゃないかというくらい我が子の名を叫ぶ母の声は、無残にも夜空に吸い込まれていった。


「エリン…………」


 倒れそうになる母を父が支えていく姿を見送り、ダーシャがポツンと仲間の名を呼ぶ。


「…………仕方ないよ、こればっかりは」


 今はただ、そう答えることしかできなかった。

 そんなエリンを見て、ジェイラが話しかけてくる。


「たしかに全員を取り戻すことはできませんでした。でも、これで事件が終わったわけじゃありません。ここで立ち止まってしまえばミッション失敗になります。私たちにできることをやりましょう!」


 ジェイラの言葉に、ダーシャは強く頷く。


「そうね。ギルドに報告して、早急に捜索を強化してもらわないと。明日の朝でいいかなって思ってたけど、そんな余裕はないわ。今からでも行くわよ!」

「あ、じゃあよろしくね」

「アンタも来なさいっ」

「ひえ~~~」


 魔法を使いまくって疲労困憊のエリンは、無慈悲なダーシャによって引きずられていった。

 今日も今日とて、夜は長い。




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