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80. 濡れ衣

〇前回のまとめ

・洞窟をさらに奥へ進むと行き止まりにぶつかり、『ブラック・ネイル』は本性を現した。

・何とか撃破し、誘拐された子供たちの居場所を聞き出した。

・ジェイラさんマジパネェっす。

 ラカムが言った通りに進んでみると、黒装束の仲間らしき男が座り込んでおり、退屈そうにあくびをしていた。

 その先は部屋に繋がっているようで、恐らく彼は見張りだろう。

 咄嗟に岩陰へ身を隠したので、まだこちらの存在は悟られていない。


「敵はアイツだけみたいね。よし、皆行くわよっ」


 ダーシャの言葉にエリンたちは力強く頷いた。


「ファ~ア。暇だな…………って、うん? だ、誰だ……、うぐっ!」


 見張りが突然の来訪者に気付くも、その時にはチェレンから後頭部を殴られてあっさりと気を失ってしまった。


「他にはもういないのかしら?」

「ダーシャ、ジェイラ、来て」

「どうしたんですか、エリンさん?」


 エリンに呼ばれた2人が追ってみると、そこには6畳くらいの部屋に繋がっていた。

 そこにはしょぼんと座り込んだ子供たちが、ざっと数えて8人。誘拐された子供たちで間違いないだろう。すっかり絶望しているようで、皆、頭を膝にうずめている。

 そして、集団の片隅にはとがった長耳の少年の姿も。彼こそが探していたラルスだった。エリンはバッグに手を入れ、ソフィーから預かっていた彼の帽子を探る。


(あれでも30オーバーなんだよなぁ。どう見ても10歳以下にしか思えないや)

「やりましたね、エリンさん! これで依頼達成です!」


 ジェイラが興奮して言うと、1人の子供が頭を上げた。


「…………おねえちゃん、誰?」

「ん? 私たちはね、ハンターだよ。君たちを助けに来たんだ」

「助け…………?」




   ♦




 レンガの洞窟が別の入り口に繋がっているというのは本当だったらしく、脱出に手間がかかることはなかった。

 このルートを知っていれば、死と隣り合わせの冒険をせずに済んだというのに。


 探索は1日がかりになっていたようで、外に出た時には辺りはすでに薄暗くなっていた。大勢の子供を連れてモンスターが出る夜道を進むのは危険。

 ということで、エリンが大きめの氷の板を魔法で作り出し、それに皆で乗って町の近くまで移動した。

 はじめての体験に、子供たちは大興奮。衰弱していたはずなのにキャッキャッと騒いでいた。


 ただ、ラルスは誰かさんと同じく高いところが苦手だったようで、飛行中ずっとエリンの背に抱き着いていた。

 かぶっている帽子のつばが背に食い込む。それに、年上男性にハグされていると思うと鳥肌が立った。まだ厚めの防具を着ていたので感触が直に伝わらなかったのは幸いか。


 エリンたちはケークタウンの入り口に近づいたところで着陸し、そこからは徒歩で進む。必要以上に尋問されるのは嫌だから。

 まあ、子供の口から空を飛んだなどと聞いても、恐怖で頭がおかしくなったんだと思ってもらえるはず。楽しい時間が終わったことに不満を漏らす子もいたが、「良い子にしてたら今度ね」とか言い聞かせて大人しくさせた。




 はてさて、この日町の出入り口で不寝番(ふしんばん)をしていた2人の憲兵は、他愛もない会話に興じたり、星の輝きを見上げたりしながら時間を潰していた。

 すると、いきなり空から森に向かって何かが降ってきた。怪訝になって注視していると、やがて森の方向から何者かが子供たちを引きつれ、ぞろぞろと向かってくるではないか。


「止まれ、そこな者! 何者だ!?」


 暗がりで遠くからだとよく見えなかったが、相手は3人の少女たち。胸元を見れば、皆ノーマルランクのハンターであることが分かった。

 いきなり槍を向けられて驚くも、少女の中で白い子が前に進み出て、事情を説明してきた。


「あの、私たちはハンターです。依頼を受けて行方不明の子供たちの捜索に当たっていました。何とか発見できたので、こうして連れてきました」

「わ、分かった。一応、確認のために上の人を連れてくる。そこで待ってろ」


 憲兵たちは目で語り合い、片方の憲兵Aが町の中へと消えていった。


「ハァ、これだから憲兵は好きじゃないのよ。こっちは朝から歩き回ってクタクタだってのに」

「まあまあ、向こうも仕事だからしょうがないですよ。それに、子供たちが無事だったんだから良しとしましょう!」

(…………アンタら、ほとんど歩いてないよね。せいぜいダーシャが何回か矢を撃ったくらいだよね)


 そうこうしているうちに、憲兵Cがやって来た。

 憲兵Cはお偉いさんらしく、装備だけでAB2人との地位の差が一目瞭然だ。

 エリンたちを見下ろし、お偉いさんは口を開いた。


「お前らか、児童誘拐犯というのは」

「「「…………は?」」」


 咄嗟にお偉いさんを呼び出した憲兵Aを睨むが、彼も同じく動揺していた。

 思い込みの激しい人なのか!?


「おい、お前ら。子供を保護し、こいつらを捕縛し――」

「ちょっと待ちなさいよ! どうしてアタシたちが誘拐犯になるのよ! どっからどう見ても子供たちを助けた救世主でしょ。馬鹿じゃないの!?」

「ふん、どうせ我々の捜査に恐れをなし、捕まるのも時間の問題だと思ったんだろ。それなら自ら子供を連れてヒーローを演じ、依頼報酬だけでもせしめようという魂胆だ。

 まさしく自作自演。そこら辺の下っ端なら誤魔化せても、この俺の目は誤魔化せやしない」


 お偉いさんの言葉に、見張りの2人は「そうだったのか!」といった顔。

 断じて違う。こんな間抜けに教育された若手の未来が不安に思われてくる。頭の悪い人が言うことは最良で無益、大抵は有害。無視するに限るというのに。


「ハァ……。これまで犯人の手がかりすらつかめてなかったくせに、よくもまあ、そんな大言壮語が吐けますね」

「なんだとっ!?」


 エリンの放った言葉で、お偉いさんは顔を真っ赤にする。

 これぞ瞬間湯沸かし器。後ろにいた子供たちは彼を見て、今にも泣き出しそうな表情になっている。彼には子供たちの顔が目に写っていないのだろうか。

 しかし、おっかないおじさんを目の当たりにしても、エリンに動じる素振りはなかった。


「あなたじゃ話になりません。パレート隊長(以前のソフィー誘拐未遂事件で対応してくれた隊長)を呼んでください」

「黙れっ、犯罪者風情が! 誰に向かって――」

「ねえちゃんたちは悪い人じゃないっ!」


 お偉いさんは、今にも殴りかかってきそうな勢いを見せる。

 すると、エリンたちの前に子供たちが割って入った。


「お姉ちゃんはわたしたちを助けてくれたの! 良い人なの!」

「そうだそうだ! 悪いヤツらはお前みたいなおっさんだし、まだ洞窟の中だ!」

「おお、可哀想に。長い間恐怖にとらわれ、悪い人たちが自分の味方だと洗脳されてしまったのか」


 何言ってんだこいつと、最早呆れて言葉も出ない。

 自分の直感や妄想が真実だと思い込んでしまうタイプだ。


「もう大丈夫だ。憲兵さんが助けてあげるからね」


 お偉いさんが目の前にいた少女に手を差し伸べる。

 しかし、少女は驚いたように跳び下がった。


「キャッ、来ないで!」


 後ろにいたジェイラに抱き着き、少女はそのまま泣き出してしまった。

 誘拐犯はお偉いさんと同世代のおじさん。似た雰囲気を感じ取り、連れ去られたときの恐怖がよみがえってしまったのか。

 この反応は想定外とばかりに、お偉いさんはオロオロ。

 そこへ、ダーシャが言い放った。


「フンッ、この子が怯えているということは、アンタの方こそ誘拐犯とつながってるんじゃないかしら?」

「何だと!? いい加減なことをぬかすな!」

「憲兵の中に内通者がいる……。それだったら、長らく誘拐犯が野放しになっていたことも納得できます」


 追い打ちとばかりに、エリンが後ろの憲兵2人に向かって言った。


「憲兵さん。本当に逮捕すべきなのはどちらか、あなたたちなら分かりますよね?」

「……ダルトワ隊長、私と一緒に来ていただけますか」


 憲兵Bがお偉いさんの肩をつかむ。

 お偉いさんがそれに抗おうとするも、憲兵Bは必死に拒んだ。


「貴様、この俺を誰だと心得る!? ええい、放さんか!」

「彼女たちを捕まえようとしても、我々が証言します。あなたが一方的に市民へ罪を(なす)り付けようとしていたと」


 意外にも憲兵Bは腕力に自信があるらしく、1人でお偉いさんを抑え込んでしまった。

 その隙にと憲兵Aがエリンたちを誘導しようとしてくれる。


「ささ、皆さんはこちらに。大変だっただろう。上司が迷惑をかけたお詫びとして、お茶とお菓子を用意させてもらうよ」

「「「わーい! お菓子だー!!」」」


 お菓子と聞いて子供たちは大喜び。憲兵Aに続いて歩き出した。

『トリコロール』も後に続こうとするが、去り際にエリンはお偉いさんを振り返った。


「私たちを犯罪者に仕立て上げることで、自分の無能の責任を押し付けようとするのは結構です。だけど、それで真に悪い人が甘い蜜を吸い、さらに苦しむ人が出ることを忘れないでください」

「クッ……」


 エリンはすぐに再び歩き出したので、彼の表情はうかがい知れなかった。





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