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79. レンガの洞窟Ⅵ~本性~

〇前回のまとめ

・隠し部屋で宝箱を発見した。

・箱の中には水魔法の効果をアップさせるアイテムが入っていた。

・本来の目的のため、一行は再び進み出した。

 誘拐されたラルスを探すため、エリンたちはさらに先を目指す。もうモンスターと遭遇することもなくなった。

 とは言っても、モンスターが洞窟内に存在していないというわけではなさそうだ。壁の奥から物音が聞こえるし、別の通路に入れば出くわしてしまうだろう。

 わざわざ自分たちから戦いに行くこともない。好奇心は時間を浪費するだけでなく、生命までを危険に晒すということは、さっきのポイズンスネークで十分に学んだ。


「見て、道が左右に分かれているわ。どっちに進めばいいのかしら?」

「あー。そこは右に進んじゃって」


 ラカムの言葉に従って方向を選択するも、変わらない景色に一抹の不安を感じていた。


「……ねえ、本当にこっちで合ってるんでしょうね?」

「問題なかったりして。レンガの洞窟はケークタウンから離れた所にまでつながってたり。誘拐犯ならそっちの方に行ってるはずだったりして」

「……そう」


 ダーシャはラカムの説明に素っ気なく返した。

 それからは再び、一行は無言のまま歩き続けた。


「もうすぐゴールだよ~」


 トルペがそう言った時、前方にまた広い空間への入り口が見えた。


「この先にラルスがいるかもしれないんですね。エリンさん、ダーシャ、行きましょう!」

「「うん!」」


 3人は互いに頷き合うと走り出した。

 ようやく目的地に到達し、ソフィーを安心させることができるのだ。


 しかし――


「ちょっと! これはどういうことよ!?」


 通路の先にある空間は、行き止まりになっていた。

 何が起きているのかとおもっていると、後方から『ブラック・ネイル』の下品な笑い声が。


「ケケッ、俺はゴールって言ったはずだよ~」

「しかり」

「へっへっへ。残念だったり。ここがお前らの人生の終着点だったりして」


 振り返ってみると、彼らの後ろからぞろぞろと大勢の黒装束がやってくるところだった。

 見覚えのある連中に、ダーシャが声を上げる。


「黒装束! まさか、アンタたちは…………!?」

「やっと気付いちゃったりして?」

「遅すぎだよ~。ホント、こいつらバカばっかだよ~」

「滑稽」


 『ブラック・ネイル』は腹を抱えてゲラゲラ笑い、ラカムは人差し指を向けて言い放った。


「そうさ! 俺様たちがお前らの探してる誘拐団とやらだったりして! 本当はお前らも売り出すつもりだったりしたけど、お前ら意外とお前ら強かったし。逃げられたら厄介だし、ここで死んでもらっちゃうぜー!!」

「クッ、最初からアタシたちを()める算段だったのね…………」


 ダーシャが唇を噛んで悔しさを露わにするも、それはラカムたちをますます喜ばせるだけだった。


「子供を連れて行くだけでたくさん稼げる簡単なお仕事だよ~」

「平易」


 『ブラック・ネイル』はこれまでも、人身売買に手を染めることで大金を手にしてきたのだろう。

 そんな彼らからすれば、オーガの討伐報酬など微々たるもの。倒したオーガを回収せずに殴りまくったのも納得だ。


「じゃ、テメエら。あとは任せちゃったりして! あ、そうそう。そいつらはテメエらの隙にして良かったり。どうせ久々の女だろ。楽しんじゃって!」


 捨て台詞を残して『ブラック・ネイル』は去っていく。代わりに黒装束たちが『トリコロール』に接近してきた。

 狭い通路は黒によって埋め尽くされ、斬り抜けるしか脱出は不可能に思われる。仮に脱出できたとしても、そこからラカムたち、そして誘拐された子供たちを見つけ出すのは至難の(わざ)だろう。


「だけど、万策尽きたと言うにはまだ早いですね。エリンさん!」

「おうよ! 〈ナイアガラ〉!!」


 ジェイラの声を受け、エリンは水流をぶっ放す。

 早速アプサラスの涙の効果を試す機会が到来した。ちゃんと効き目が現れているのか、いつもより水圧が強いみたいだ。大勢いた黒装束をまとめて押し返すことに成功。


「うん、何だ? …………ふぇ?」


 上機嫌になって洞窟を引き返し始めたラカムたちだったが、後方から異変を感じ取った。

 怪訝になって背後を見ると、眼前には滝のような水が迫っていた。


「「「うわーーーーーーーーーっ!!!」」」


 全ての敵が水に飲まれたとみるや、エリンは水温を一気に下げる。

 水が氷塊になるまで、そう何秒もかからなかった。

 ダーシャたちが気付いた時には、『ブラック・ネイル』と黒装束の氷像ができあがっているのだった。


「す、スゴイです! こんな魔法が使えるなんて…………!!」

「本当、どうかしてるとしか思えないわ。…………って、これじゃアタシたちが通れるスペースもなくなったじゃないのっ!」

「まあまあ、そこは火魔法で端っこを溶かせば大丈夫ですよ」


 冷凍した敵が再び動き出す恐れもあるが、そこは何とかなるはず。

 体が冷えて弱っているだろうし、数の暴力に訴えることもかなわない。


「う、うん……。あとはよろしくね…………」

「何言ってるの。アンタがもう一働きしてくれないと、アタシたちはここに閉じ込められたままなんだから」

「えぇ……」


 全身のエネルギーを放出したことで疲弊しきったエリン。しかし、ダーシャは容赦なく追加注文をしてくる。さながらブラック企業の上司といったところだ。

 エリンはやっとの想いで魔法を発動。氷塊の左端に火魔法を当てて氷を溶かし、できた隙間をくぐって元来た道を進んだ。

 そして氷の横を抜けだすと、先頭には氷漬けになったラカムがいた。


「ねえ、誘拐された子供たちの居場所、コイツに聞いてみたらいいんじゃないかしら?」

「そうだね。ちょっと溶かしてみるよ」


 エリンは丁度頭のところにだけ火を当て、ラカムの顔だけを氷の外に出した。


「ねえ、連れて行った子供たちはどこにいるの?」

「…………」

「ねえってば!」

「……ヘン、俺様が教えたりするわけなかったり。そんなん考えなくても分かっちゃったり」


 けれども、ラカムは大人しく白状するつもりはないみたい。

 どうやって吐かせようかと思っていると、ジェイラが前に進み出た。そして右手の指でラカムの両頬をつかみ、プレッシャーをかけて言い放った。


「おい貴様、言わないんだったら1枚1枚爪をはがして目ん玉ほじくり出してやろうか? ああ? ついでにうざったらしい耳もチョン切ってやるよ」

「うっ……」


 ラカムが言い淀んでいると、ジェイラは指の力を込めた。

 爪が肉に食い込み、血が滲んでくる。一体あの細い体のどこに、そんな力があったというのか。


「わ、わ、分かりました。言います、言いますから勘弁しちゃって!! さっきの分かれ道を左! 左に進んじゃえば、そこに餓鬼どもがいちゃったりしてー!!!」


 ジェイラが放つ物々しいオーラに圧倒され、ラカムは涙目になりながら叫んだ。


「他にも仲間がいるんじゃねえのか? 貴様らだけでこんなことやってるとは思えねえ。裏にいるヤツを教えろ」

「そ、それは言えなかったりして…………」

「ああ、そうか。貴様らが鉱山でこき使われている間に、そいつらが贅沢三昧でも構わねえってんだな?」

「クッ…………分かっ、言っちゃったりします! ナッシュさんだったり! パープルプラント商会のナッシュさんだったりして!!」


 それを聞いたジェイラはラカムから手を放し、仲間たちの方を向いた。


「はじめからそう言えばよかったんですよ。さ、行きましょう。エリンさん、ダーシャ!」


 さっきまでとは一転、とても爽やかな笑顔。

 だがそれは、むしろ恐怖を湧き起こすような表情だった。


「「お、おぉ……」」



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