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77. レンガの洞窟Ⅳ~大蛇との激闘~

〇前回のまとめ

・壁の向こう側に隠し扉を発見。何やら暗号が書いてあった。

・扉の暗号を解読すると、扉が開かれた。

・喜び勇んで中へ入ると、そのまま閉じ込められてしまった。

「あ、あれは、ポイズンスネークだったりして! うわーーー! 逃げちゃってー!!」


 隠し部屋の中にいた大きな生き物の正体に気付いたラカムが叫ぶも、すでに唯一の出入口は封鎖された。部屋の中には他に脱出できそうな抜け道もない。

 密室の中で巨大なモンスターと一緒に閉じ込められてしまった。ポイズンスネークはその名の通り、大蛇型のモンスターだ。今は体の下半分を丸めている状態だが、全長は6階建てのビルに相当する。

 どんな能天気でもこの状況は即時に理解でき、皆の顔は(ろう)のように青くなった。


「ちょ、ちょっと! 一体どうなってるのよ!? 何なのよ、あの化け物は!」

「蛇みたいですが、さすがに大きすぎます! ここから出るには、あれを倒すしかないんでしょうか!?」

「とりあえず逃げろぉぉぉぉぉ!!」


 『トリコロール』と『ブラック・ネイル』の6人は部屋の隅っこの方へ一目散に逃げようとする。ただ、スケボーやチェレンに乗っている『トリコロール』と違って、『ブラック・ネイル』の逃走手段は自らの足だった。

 ポイズンスネークは手前にいる2つの獲物に狙いを定め、大きな尻尾を振り下ろしてきた。


「「うわーーーっ!!」」


 直撃は避けられたものの、尻尾が地面に叩きつけられた衝撃でトルペとソテットが弾き飛ばされた。

 彼らは2メートルほど飛ばされ、そのまま地面を転がった。


「トルペ、ソテット! 大丈夫だったり!?」

「な、なんとか無事だよ~」

「不覚」


 ラカムは振り向きざまに仲間たちを気にかけるも、もちろん駆け寄るゆとりはない。少しでも気を緩めたら、みすみす追撃の餌食になるだけだ。


「畜生、俺様の槍を喰らっちゃえーーー!!」

「俺も行くよ~!」

「出撃」


 それでも『ブラック・ネイル』の3人は逃走を止め、巨大なポイズンスネークに向き直った。

 そして、意を決してそれぞれの得物を構える。


「いくぜ、おりゃあーーー!!」

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」」


 槍、斧、棍棒がポイズンスネークへと襲い掛かる。

 しかし――


「「んなっ!?」」

「全然効いてなかったり!?」


 彼らの武器は、ポイズンスネークの鎧みたいな鱗に呆気なく弾き返されてしまった。


「ちょっと、このままだったらアタシたちも危ないわよ。エリン、何かないの!?」

「何かあるんだったら、とっくにやってるよ!」


 やや苛立ちつつダーシャに反論するが、その間にもエリンはアレコレと思考を巡らせる。


(どうすればいい!? 頭を押さえればいいって聞いたことあるけど、あんなトラックみたいに大きな頭を押さえられるわけないじゃんか!! 首を落とす? 槍だってはねのけるんだから無意味でしょ!)


 子供の頃に田舎で蛇に遭遇したことがあったが、その時のサイズはせいぜい15センチほど。当時の神崎麟太郎はそれにすらビビり、近くにいた両親のところまで走って泣きついたのだ。

 その時に教えてもらった蛇の対処法を思い出すが、どれも役に立ちそうな情報はなかった。

 エリンの頭の中はますますパニックに。


「「「ぐわーーーっ!!」」」


 そうこうしている内に『ブラック・ネイル』はポイズンスネークの尻尾による攻撃を受け、壁際にまで飛ばされた。そのまま地面に落下してピクリとも動かない。ラカムだけは腕をピクつかせてはいるが、それでも危険な状態であることに変わりはないだろう。

 打ち所が悪くない限り、まだ生きていると信じたい。第一印象は決して良いとは言えないものだった。それでも、短期間とはいえ冒険を共にした間柄だ。目の前で知人に死なれると寝覚めが悪い。


「キャッ、今度はこっちに来るわ!」

「チェレン、走って! はやく!!」


 続いてポイズンスネークが狙いを定めたのは、チェレンに乗るダーシャたちだった。

 『ブラック・ネイル』を放置しているということは、すべての敵を倒してから食べようとする腹積もりなのか。


「クッ、ただ逃げるだけじゃ埒が明かない…………。そうだ! 目玉でも撃ってやればいいんだわ!」


 そう言うとダーシャは両脚でチェレンの体をしっかりと挟み、バッグから弓矢を取り出した。

 矢をつがえてから上体を後方に向け、矢尻をポイズンスネークの頭部へと向ける。


「えぇいっ!!」


 矢はわき目も振らずに突っ走っていった。

 そしてポイズンスネークの眼球にクリーンヒット。


「やったわ!」

「ダーシャ、スゴイです! 弓の名手!!」


 はじめての流鏑馬(やぶさめ)にしては上出来だ。

 ジェイラにも褒められ、ダーシャは気を良くした。


「フフン。これでアイツも――」

「ダーシャ、ジェイラ! 危ない!!」

「「…………え?」」


 だが、矢を当てたことで2人に油断が生じた。


「「きゃあっ!!」」


 ポイズンスネークが下半身を伸ばし、可動域が広くなった尻尾でチェレンの体を横から薙ぎ払った。

 『ブラック・ネイル』に続き、次は2人と1頭が倒れこんだ。


「ど、どうしてよ!? せっかく目をダメにしたと思ったのに…………」


 蛇はもともと視力が悪い。その代わりに第三の目のような器官で熱を感知し、赤外線で物をとらえることができる。

 眼球を潰した程度で攻撃を止めることはできなかった。


「ダーシャ、よけてー!!」

「…………はっ!?」


 地面に這いつくばって唇を噛むダーシャに、ポイズンスネークの追撃が迫る。

 ジェイラの言葉に従うこともできず、ダーシャは目を見開いた。


「させない! 〈ナイアガラ〉!!」


 尻尾はダーシャを捕らえようとしたが、間一髪、強い水流によってその向きを逸らされてしまった。

 何が起きたのかといった様子のポイズンスネークの前に、スケボーに乗ったエリンが姿を見せる。


「「エリン」さん!」

「おい蛇公、アンタの相手はこっちだよ。悔しかったらここまでおいで~」


 大蛇は吠えなかった。しかし、確実にお邪魔虫の存在を認識した。

 丸めていた体を伸ばし、高い位置からエリンを見下ろす。


「うわ、デカいな~。…………っと、〈南極大陸〉!!」


 魔の尾を向けられ、エリンは魔法の氷壁を作り出して殴打を防ごうとした。

 しかし、氷の壁はポイズンスネークに殴られると呆気なく砕け散った。


(ひえ~、アレを壊されたのってはじめてかも。これは本当にマズイね。このまま上手く立ち回って、体を固結びにできたりしないかな~)


 ポイズンスネークの攻撃手段は、今のところ尻尾を振り回すだけ。名前からして毒による攻撃もあるはずだが、それは捕まえた獲物にだけ使うのだろうか。

 いずれにしても、敵がまだ本気を出していない間に何か突破口を見つけ出さなければならない。


「エリンさん、上です! ストップストップ!!」

「うん? 上?」


 ポイズンスネークの攻撃から逃れるため、スケボーに乗って自由自在に飛び回っていたエリン。

 しかし、ここは隠し部屋の中。いつもの森や草原とは違う。

 前をよく見ずに上へ上へと進んだせいで、硬い天井へと直撃してしまった。


「あぎゃぷ!?」


 そのまま地面へ真っ逆さま。

 ところが、落下事故が起こることはなかった。ポイズンスネークがキャッチしてくれたおかげで。


(おうふ…………。感動ゼロの救出劇だね)

「ガウッガウッ!!」


 エリンを助けようと、チェレンがポイズンスネークに突進する。

 しかし、ポイズンスネークにとっては虫が刺す程度のものなのか、少しも反応を示さない。そのうち鬱陶しくなったのか、エリンをつかんだままの尻尾でチェレンを殴り飛ばした。


「チェレン! しっかりして!」


 ジェイラたちが駆け寄るも、チェレンは苦しそうに呼吸する。


(チェレンもダメ、オーガを瞬殺する『ブラック・ネイル』もダメ…………。そういえば、『ブラック・ネイル』はどうなった?)


 ラカムたちがさっきまで倒れた場所からいなくなっていることにエリンは気が付いた。

 どこに行ったのかとキョロキョロしてみると、岩陰に身を潜めている犬獣人の姿を発見。


(無事で良かった…………、じゃねえよっ!! 私たちは囮かよ!? ふざけんなよ犬のくせに! …………って、逆の立場だったら私もそうしてるな。仕方ないね。

 本当に何かないかなー。えーと、虫の弱点と言えば、炎、岩、鳥…………。どれも無理だな。…………おっと、そもそも蛇は虫じゃなかった! 爬()類なんてややこしい名前を付けやがって!)


 部屋の中で動ける者がいなくなったことで勝ったとみなしたのか、ポイズンスネークはエリンを顔の前にまで運んだ。


「いざ実食ってか? 暑いはずなのに、なんだか寒く感じるな…………。ん、暑い?」


 問.蛇が熱い地域に多く生息しているのはなぜか。

 答.寒いのが苦手だからである。


 レンガの洞窟の中は常に温度が高かった。

 すなわち、これはポイズンスネークにとって好都合な環境ということ。だからこそ全力で駆け回るチェレンよりも素早く動くことができたわけだ。


「それなら思いっきり冷やしてあげればいいじゃない! 凍えろ、〈ブリザード〉!!」


 自分にかぶりつこうとするポイズンスネークめがけて渾身の魔法を発動。

 ポイズンスネークはエリンから放たれた冷気をもろに受けた。


「お、これは効いてるみたい。動きがスローになった! …………って、私はこのままなのぉ!?」


 尻尾に巻き付けられたままポイズンスネークの動きが緩やかになったため、やがて食われるという窮地は変わっていない。


「結局このままやられる!?」

「エリン、ここはアタシに任せなさい!」


 その時エリンは、下の方から耳に馴染んだ声を聞いた。

 見ると、ダーシャがポイズンスネークの大きな口に向かって弓を構えているところだった。

 たしかに体は鱗という鱗に覆われている。しかし、体内の粘膜まで防御は及んでいない。口の中は格好の攻撃ポイントだ。


「ダーシャ!」

「エリン、今助けるわよ! えぇいっ!!」


 ダーシャが撃った矢はたしかに咽喉まで届けられた。

 だが、ポイズンスネークはそれほど苦しむ素振りを見せなかった。たかが1本の矢など、あの巨体からすれば魚の小骨に過ぎないというのか。


「クッ、弓矢じゃ足りないわ…………」

「よっしゃ、俺様に任せちゃって!」

「「…………え?」」


 ダーシャが振り返ると、そこには槍を持って走るラカムがいた。

 ラカムはダーシャの横でジャンプし、長い槍をポイズンスネークへ投擲(とうてき)する。


「そいやぁぁぁぁぁっ!!」


 槍は大蛇の咽喉を貫いた。

 急所をやられたポイズンスネークは、奇妙な呻き声をあげてながら体を傾け始める。

 そして、大きな音と共に地面に倒れた。


「へへっ、俺様やっちゃったりして」


 そう言って、ラカムは満足そうにガッツポーズしてみせるのだった。





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