73. 悲劇の足音
〇前回のまとめ
・帰路、黒装束の連中に襲われた。
・ジェイラはエリンを狙った児童誘拐犯と予想。
・機転を利かして何とか逃げ出した。
ソフィー誘拐未遂事件から3日後。
あれから大した出来事もなく、世間はまた元の日常へと戻っていた。
この日もいつもと同じようにモンスターと闘い、ギルドでお金をもらってから『森の妖精』へと食事に来ていた。
せめて少しでも売り上げに貢献することで、働いているソフィーが借金を返済するための資金を増やしてほしいとの思いもあった。
「やあ、みなさん。今日も来てくれたんだね」
「こんばんは、マスター。ソフィーさんの調子はどうですか?」
こちらとしては、天気の話をする感覚で尋ねただけだった。
しかし、マスターは即答しなかった。なにか躊躇っているように見えたが、やがて話してくれた。
「…………それが、今日はまだ店に来ていないんだ。いつもならとっくに働いている時間だというのに。
以前にもお母さんの体調が優れずに休んだことがあったのだが、その時は事前に連絡があったんだ。何か、良くないことが彼女に起こったのかもしれない」
マスターの言葉に、エリンたちも思わず顔を見合わせた。
先日誘拐されかけたばかり。またアイツらが現れたのかもしれない。
そう思っていた矢先だった。
ガチャン
「マスター、大変です!!」
カフェのドアが勢いよく開けられ、ソフィーが駆け込んできた。
走ってきたのか肩で息をしており、顔色は優れない。その手には、彼女のものよりも小さな帽子があった。
「ソフィー、遅かったじゃないか。君に何かあったんじゃないかと心配していたんだ……。それで、“大変”って一体どうしたというのかね?」
「お、おと……が…………」
「落ち着きなさい。これでも飲んでから……」
マスターはエリンたちに出すはずだった水を渡してソフィーを落ち着かせようとする。しかし、ソフィーはそれを拒んで叫んだ。
「弟が、弟がいなくなったんです!!」
「な、何だって!?」
♦
話は少し遡り、フェヘールシティでの一幕。
「おいお前ら、こんなとこにいたのか。さっさと行くぞ」
それが少年の第一声だった。
喫茶店でくつろいでいた仲間たちは、駆けつけてきた少年の言葉にポカンとした顔。
「……行くってネストル、どこへ行くでやんすか?」
「ケークだ。さっきギルドに行ったら、ケークから来たハンターが、白、赤、青の3人娘を見たって話してた。白ってのはエリンに間違いない。銀髪だって言ってたからな」
眠そうな顔をした少年は、耳をかきながら天を仰ぐ。
「またあの子のことなの~。やめときなよ~、どうせもっと嫌われるだけだよ~」
「何言ってんだエフィム。アイツが俺のことを嫌ってるわけがないだろ」
「「え……」」
大柄な少年の言葉に、座っていた2人は顔を見合わせて目をパチクリ。
「……ネストルも見たでやんしょ、エリンさんがあっしらを見た途端に逃げ出したところを」
「ああ、いきなりモンスターが現れてエリンを連れて行きやがった。あの野郎、今度見つけたら俺が真っ二つに叩き斬ってやる!」
「がんばってね~。オラたちはもう少しフェヘールでのんびりするよ~」
ところが、大柄な少年は仲間の襟をつかみ、椅子から引きづり下ろしてしまった。
テラス席にいた2人は、そのまま店前の道へと連れ出される。
「な、何するでやんすか!?」
「うっせー。お前らは黙って俺に付いてくればいいんだっ」
強引すぎる仲間に、巻き込まれた2人はそろってため息をこぼす。
「きっと他人の空似だって〜。銀髪の女の子なんて他にもいるよ~」
「違ったらまた探し出すだけだ!」
「まったく、エリンさんは傾国の美女でやんすね…………」
「ちょっとお客さん、お会計~!」
わき目も振らずに熊獣人たちは店を飛び出し、店員が慌てて追っていく。
ちょっとしたドタバタ劇を、店内の周辺にいた通行人たちは見送った。
「…………聞きましたか、坊ちゃん」
「ええ。銀髪の女の子…………。可能性はすこぶる高い」
尋ねられた少年は、隣に立つ壮健な男に言った。
スパイラルパーマが特徴的な男の襟もとでは、銅色のバッジが輝いている。
「たしかに銀髪の子ってのは珍しい。だけどよ、俺たちが探してる子と名前は同じだったんだろ」
「そうだね、間違いない」
今度はオールバックの言葉に頷く少年。年齢は10代半ばといったところだろうか。
お次はバッハみたいな髪型(ただし黒髪)の男が口を開く。
「それだけでも行ってみる価値はある。決まったな、次の目的地が」
「…………ケークタウン、か」
「移動にも時間がかかる。出立は早ければ早いほどいい。お前ら、すぐに支度して北門に集合だ!」
「「おぉっ!!」」
スパイラルパーマの言葉に、黒髪バッハとオールバックが声をそろえた。
一同はそこでいったん解散し、スパイラルパーマだけが少年のもとに残る。
「フフッ、やっと会える。待っていてくださいね、エリンさん」
少年は、隣のスパイラルパーマには聞こえないように、口の中で呟くのだった。




