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72. 襲撃

〇前回のまとめ

・事情聴取はそれほど長くかからなかった。

・カフェに戻り、エルフの歌姫・ソフィーの事情を聞いた。

・帰路でトラブル発生!?

 カフェ『森の妖精』を後にし、トリコロールハウスを出せる森に向かうため、エリンたちは町の外を目指していた。

 すでに夜遅く、あと3時間もすれば薄明(はくめい)を迎えるだろう。明日は昼頃まで起きられなさそうだな。

 お金に余裕はないと言ってもギリギリの生活をしているわけではないので、1日くらい働かなくても何とかなる。ただ、その分快適なホテル生活は遠ざかる。


 たしかにトリコハウスがあれば、宿泊費を浮かせることはできる。

 けれども、寝泊まりのために朝晩と2回も森と行ったり来たりを繰り返すのは、正直なところ面倒くさい。朝食だって自分たちで用意するか、町の食堂まで歩かなければならず、朝っぱらからちょっとした苦痛を味わうことになる。

 かといって、安宿で妥協するつもりも毛頭なかった。おじさんたちと一緒に雑魚寝、風呂なし、不衛生な共同トイレ、ボロボロの小汚い布団…………。

 そんなところにお金を使うくらいなら、大人しく歩いた方がマシというもの。治安と衛生環境か、はたまた時間と手間か。年頃の少女たちからすれば、当たり前のように後者を犠牲にする。


 それに、『トリコロール』はただでさえ目立ちやすい美少女3人組のハンターパーティー。よそから来た新顔ということでも注目されている。

 そんな3人が日没後に町の外へ出ていき、朝になると外からやってくる。ケークタウンには関所がないから出入りをチェックされることがないと言っても、不審に思う者はもちろん出てくる。

 面倒事の芽を摘むという意味でも、早い内にホテルへ移動した方が無難ではあった。


「あー。どこかに簡単でたくさん稼げる仕事は転がってないかなー?」

「そんなものがポイポイ転がってたら、世の中みんなお金持ちだわ」

「それでも格差はなくならないんだよなー。インフレになって終わり」

「…………また小難しいことを」

「『ブラック・ネイル』って人たちが言ってた――」

「「絶対ムリ」」


 ケークタウンに来た直後の『トリコロール』に、しつこくまとわりついてきたハンターパーティー『ブラック・ネイル』。

 彼らや横車を押す借金取りさえいなければ、ケークタウンは素晴らしい町になっていた。


 他愛もない会話もあまり弾まないまま、町の出入り口がそろそろ見えてくる頃だった。


サササッ

「「「え、何!?」」」


 それは突如として沸き起こった。

 暗い夜道を歩き続ける3人の少女の前に、黒装束の影が現れた。否、前だけではない。後ろにもいる。

 前後にそれぞれ5人ずつ。計10人の黒装束がエリンたちを挟み込んだ。左右には2階建ての建物。何が何だか分からないまま、気付けば袋のネズミに。


「な、何なのよ、コイツらは!?」


 ダーシャが叫ぶが、当然そいつらから答えは返ってこない。

 無言のまま徐々に近づいてくる。その手には剣を持っていた。


「ま、まさか、さっきの人たちが報復に来たんでしょうか!?」

「こんなことしようだなんて、馬鹿じゃないの」

「いくらなんでも早すぎるよ!! だって、ついさっきの出来事じゃん」

「見て、腰にはロープがあるわ。拘束して人目に付かない場所へ連行するつもりよ」


 ダーシャの言葉にジェイラは何やら思いついたようで、ボソッと単語を呟いた。


「…………連続児童誘拐犯」

「「っ!」」


 ギルドの受付嬢・ユリヤから言われたことが思い出される。


『実は、最近この町で小さなお子さんが誘拐される事件が多発しているんです。成人間近のお子さんも被害に遭っているみたいなので、皆さんも気を付けてくださいね。特にエリンさん』


 3人は金がないくせに、なんやかんやでお高い装備を身に着けている。特にエリンのオンディーヌメイルは一級品で、フェヘールシティを出てからは毎日お風呂に入って洗濯もしているから汚れもほとんどない。さらに素顔を隠していることからも、貴族や富裕層の令嬢に見えたのかもしれない。

 お嬢様が道楽でハンターごっこ。大方、ダーシャとジェイラはお友だちにカモフラージュした護衛ってところか。


(カモじゃん、私。……せめて人前では防具を脱いでおくんだった)


 最近出会った強敵といえば、魔族のサーモクくらい。しかも勝っちゃったもんだから、この世界での危険を甘く見ていた。

 犯罪なんてニュースの向こうだけの話? そんなことはない。いつも身近にあって、いつ遭遇するかも分からない。どの世界にいようとも、生きている限り危険と隣り合わせ。


 だが、それでもダーシャは明るく振る舞った。


「たしか、連続誘拐犯の懸賞金は150万フォートだったわね。手数料を差っ引いても取り分は60万フォート。向こうからお金の種がやって来たわよ。どうする?」

「どうするって! 私たちは3人がかりでやっとオークを倒せるんですよ。オークよりも強そうな人、それも10人。さすがにチェレンでもかないません!!」


 ダーシャとは対照的に、ジェイラの顔は悲哀で満ちていた。


 相手の黒装束たちは前後で5人に分かれ、さらに2列という陣形をつくっている。手前の3人を突破しても、後ろで控えている2人が襲い掛かってくるというシステム。

 少女3人に対しては大袈裟な気もするが、エリンたちがオーガの討伐証明部位をギルドで換金していたことくらい、ギルドに居合わせれば簡単に見られる。

 子供でも異常な能力を持っている可能性を考慮して、万全を期した結果だろう。


 前後左右を塞いでおけば、まず逃げられない。

 黒装束の顔ははっきりとは見えないが、きっと勝利を確信しているに違いない。


「ま、上はガラ空きなんだけどね。〈南極大陸〉!!」


 そう言うと、エリンは魔法で氷の壁を作り出した。

 いつもなら目の前に立てて敵の攻撃を防ぐために使っているが、今回は違う。


 地面の上、自分たちの真下で横向きにして壁を生成。

 大きな氷の畳にエリンたち3人が乗った形となる。


「お、良い感じにできた。ほいじゃ、それっ、上昇!」

「わっ」「きゃっ」


 そして、それを念力で操って浮遊させる。


「しまった。逃がすなっ!」


 黒装束たちは飛び道具やロープを投擲(とうてき)してくるが、もともと防御のための氷壁だ。あっさりと弾き返されてしまった。

 そのまま上昇を続け、あっという間に黒装束たちの姿は蟻のように小さくなった。


「はい、残念でした~。また来週~」


 思いがけない空の旅でジェイラはさっきとは一転、顔を晴れやかにしている。


「スゴイです、こんな使い方もあるなんて! 今度からはこれで移動すればラクチンですね!」

「ハハ、ダーシャのためにもそれは止めておくよ」

「ななな何を言っているのかしらエリンは!」

「いや、そんな状態で言われましても…………」


 目を輝かせるジェイラに対し、ダーシャは高所恐怖症なのかエリンの腰にしがみついている。

 アラ〇ンにでもなったみたいで楽しいんだけどね。BGMにソフィーが歌う『A WH〇LE NEW WORLD』があれば申し分なし!


「フフン、フン、フ~ン♪」


 音程がズレた鼻歌を口ずさみながら、エリンは今日の寝所とする場所を目指していくのだった。




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