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70. お巡りさん、こいつです!

〇前回のまとめ

・先日のカフェ『森の妖精』で歌姫が暴漢に連れ去られ、後を追った。

・暴漢と戦闘する中で、歌姫の正体を見てしまった。

・歌姫・ソフィーはエルフだった。

「ソフィーさん。そ、その耳は…………?」


 エリンが恐る恐る尋ねてみたが、ソフィーはサッと帽子を拾ってかぶり直した。

 そして、両手で大きなつばをギュッと握りながら声を絞り出す。ソフィーの声は、さっきまでカフェで堂々と歌っていた人と同じものとは思えないほどだった。


「…………み、見なかったことにしてください」


 獣人のような少数民族なら、すでに何人かフェヘールシティで見かけた。しかし、エルフ族ははじめてだった。

 何か素性を隠さなければならない事情でもあるのだろう。


「分かりました。深くは聞きません」


 はじめてのエルフだが、エリンからすれば興奮よりも、躊躇や動揺といった感情がはるかに上回っていた。

 エリンだけでなくジェイラたちにとっても、エルフとの出会いは初の出来事だった。それでも、物珍しがって根掘り葉掘り詮索しようとするような性分の者は、ここにはいなかった。

 WANDSだって、お互いの全てを知り尽くす必要はないといった趣旨のことを言ってるしね。


「大丈夫ですよ。私たちは人に言いふらしたりはしませんから。安心してください」

「…………」


 エリンたちが優しく声をかけると、ソフィーは黙ったままコクリと頷いた。

 彼女を誘拐しようとした5人の暴漢共は、その正体を知っていたのだろうか。もし知らなくても、ソフィーの帽子が落ちたのは一瞬のことだったし、暗い夜の路地裏ということもあって分からなかっただろう。


「クソッたれが、ガキの分際で邪魔しやがって…………。こうなったら徹底的に打ちのめしてやる!」


 その暴漢共たちは、エリンの魔法に弾き飛ばされて倒れていた。だが、おもむろに起き上がると、再び戦闘の意志を示してきた。

 全員すでに怯みから立ち直っている。半殺しにされるまで諦めてはくれないだろう。正直なところ、できる限り人を(あや)めたくはない。


(だけど、殺さなければ殺される。腹をくくるしか…………)


 そう思った時だった。


「おい、見つかったか?」

「まだです、パレート隊長。こうも暗くては探し出すのにも一苦労です」

「通報によると、連れ去られた女性を3人の女の子が追いかけていったらしい。その子たちでも見つかれば、犯人と被害者の手がかりがつかめるかもしれない。隈なく探すんだ!」

「「「はっ」」」


 ガチャガチャとした鎧の音。そして上司と部下らしき男性の声。

 カフェ『森の妖精』にいた客に呼ばれて、ソフィーの捜索に当たっている憲兵だった。


「憲兵さーん、こっちに子供を誘拐しようとする怖い人たちがいますよー! 早く来てくださーい!!」

「んなっ!? テメェ……!!」


 ジェイラの行動に、暴漢共は一瞬水をかけられたような顔をし、少女たちを睨みつけてくる。


「っ! パレート隊長、こっちから女の子の声が!」

「この奥にいたのか。どーりで見つからないはずだ。待ってろ、すぐ行くからな!」


 ジェイラが通りに向かって放った声は、たしかに憲兵へ届けられた。

 エリンたちのような少女が自分たちを誘拐犯と言えば、憲兵は目の色を変えて襲ってくる。状況を察知した暴漢はたまらず舌打ちした。


「チッ、憲兵に来られたら面倒だ。お前ら、ここはズラかるぞ」

「「「「おう!」」」」


 5人の暴漢はその場から走り去り、闇の向こうへと消えていった。

 彼らが見えなくなると、すぐさま憲兵たちが駆けつけた。


(あ、チェレンがいるんだった!)


 町の中でモンスターといるところを見られたら、今度はこちらが犯罪者。あんなことがあったばかりだというのに、また同じ過ちの繰り返し。

 エリンは慌てて周りを見渡す。


「…………ありゃ?」


 だが、チェレンの姿は見えなかった。


「(小声で)大丈夫ですよ、エリンさん」


 エリンの気持ちを察したのか、いささかドヤ顔になったジェイラが小さな声で囁いてきた。

 すでにチェレンは陰の中に潜り込んだようだ。


(あっぶねー。また違反金を取られるところだった。もしバレたら今度は借金する羽目になってたよ)


 さすがに短期間で同じ過ちを繰り返すなんて、笑い話じゃ済まされない。さらなる罰金をとられてら、今度こそ首が回らなくなるところだった。


「君たち無事だったか。そちらの方が被害者だな。俺たちが来たからには心配することはない。それで、怖い人たちはどこに行ったんだい?」

「あっちです。襲ってきたのは黒い服を着た5人組でした。このお姉さんを守ろうとしたら、私たちを売り飛ばすって言われて…………」


 腹の内を悟られないように気を付けながら、涙目のエリンが闇の奥を指した。心の中ではアカンベェをして。ちなみに、魔法で目元に水を付けて涙に見せている。

 隊長らしき憲兵は、部下と目を合わせて頷く。


「怖かったね。おじさんたちが来たからもう大丈夫だよ。

 おい、俺は他のヤツらを連れて誘拐犯どもを追え。お前はこの子たちの保護を頼む」

「かしこまりました」


 隊長は部下と共に見えなくなった敵を追いかけていき、ソフィーは残った憲兵に連れられて事情聴取を受けることに。


「じゃ、私たちはこれで――」

「あ、ちょっと待ってくれ」


 もう用はないとばかりに立ち去ろうとするエリン。

 しかし、憲兵によってそれは阻まれた。


「…………何か用ですか?」

「いや、悪いけど、君たちにも重要参考人として話を聞かせてもらいたいんだ。ちょっと付いてきてくれるかな」


 拒否権の有無と、その可否は別問題。

 エリンは膝から崩れ落ちそうになるのを堪え、星が散らばる夜空を仰いだ。


(今夜は眠れないね! …………コンチクショウ)




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