↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/110

69. 落ちたキャペリン

〇前回のまとめ

・ランクアップを目指して依頼をうける日々。

・近頃ケークタウンでは児童誘拐事件が頻発しているらしい。

・なぜかエリンが注意を受けた。

 1日の活動を終えたエリンたち3人は、『森の妖精』というカフェにやって来た。

 先日、先輩ハンターパーティーの『ホワイトエンジェル』に連れてきてもらったお店だ。


 あの時の歌をもう一度聴きたくて次の日も同じ店に行ったのだが、歌姫は不在だった。マスターに尋ねたところ、演奏会は毎日やっているというわけではないという。

 そして、次回の演奏会が開かれるのがこの日なんだとか。


「やっとソフィーさんの歌が聴けるのね。楽しみで待ちきれないわ!」

「ジェイラはともかく、ダーシャが音楽に興味あるのは意外だったな~」

「そうそう。アタシは音楽なんて滅法…………って、どういう意味よ!?」

「ダーシャ、落ち着いてください。お店や他のお客さんにも迷惑ですからっ」


 すぐムキになるダーシャをジェイラがなだめる。

 ダーシャは鼻を鳴らしてドリンクを注ぎこんだ。


「プハ~!」

(…………ただのジュースなのに、金曜日のサラリーマンみたいな飲みっぷりだな)


 少し早めに来たということもあって、客の姿はまだそれほど多くはない。しかし、静かな中だからこそ、ちょっとした会話でも(やかま)しく感じてしまう。

 そして、運ばれてきた料理を半分くらい平らげたところで、歌姫がマスターにエスコートされてやって来た。


「あ、来ましたよ」

「待ってました!」


 ソフィー、それが歌姫の名前だった。

 彼女は先日と同じような格好で登場し、マスタの奏でるピアノに合わせて歌い出した。似ているようだが、前回とは違う曲だった。


「♪~」


 1日の労働を終えた体と心に、ソフィーの歌声が染みこんでくる。

 こうして今日という1日も過ぎていく。なんと平和で満ち足りた人生だろうか。ひょっとしたら、自分はソフィーの歌と出会うために転生したのではないか。そう思えるほどの感動だった。

 それだけに、歌唱の終わりがとても切なく感じてしまった。

 そう思うのはエリンだけではない。


「相変わらず素敵な歌声でしたね。終わるのがもったいないです」

「もう1曲くらい歌ってくれてもいいんじゃないかしら」

「1曲だけだから次も聴きたくなるんだよ。それに、歌うのにもエネルギーを使うからね。無理するとすぐ疲れちゃうんだと思う」


 歌い終わったソフィーは一礼し、拍手に包まれて奥の部屋へ戻っていこうとした。

 ところが、


「ちょっと待ちな」


 部屋への入り口は、突如現れた暴漢共によって阻まれてしまった。5人組のおっかない連中。抜身の剣を手にしている者までいるではないか。

『森の妖精』の中はさっきまでと一転、剣呑(けんのん)な空気が流れ始める。

 すると、ソフィーの後に続いていたマスターが、彼女と暴漢の間に割って入った。


「お客様。申し訳ございませんが、彼女の歌は1日に1曲だけとなっております。また次の――」

「は? 何だテメエは? 俺たちゃそっちの嬢ちゃんに用があるんだ。おっさんは引っ込んでろ。オラッ」

「うぐっ」

「マスター!?」


 マスターは突き飛ばされ、床に転倒してしまった。

 ソフィーが駆け寄ろうとするも、暴漢がその腕をつかんで放さない。


「おっと、勝手に動くんじゃない。コイツがどうなってもいいのか?」

「クッ。でも、お店には来ないって話じゃ…………」

「フン。そもそも借りた金を返さないお前が悪いんだろ。自業自得ってもんよ」

「おい、無駄話してるヒマはない。さっさと行くぞ。連れて行け!」


 左右から2人がかりでソフィーを押さえ、暴漢たちは彼女を店の外へと連れて行く。

 狭い店内の客たちは慌てて暴漢たちから距離を取ろうとし、エリンたちはその流れに飲まれてしまった。

 多くのおじさんおばさんに押され、転ばないようにするのが精一杯。


「馬鹿じゃないの! 何なのよ、アイツらは!? ソフィーをどうするつもりよっ!」

「ダーシャ、一旦落ち着いて!」

「待ってくださいっ!」


 最初に人垣を潜り抜けたのはダーシャだった。開け放たれたままのドアの外へと走り出した。

 その次はジェイラで、エリンを救い出してからダーシャの後を追う。


「あ、いた!」


 ソフィーは建物の隙間に連れ込まれるところだった。

 それを見たダーシャはすぐさま駆けつけて叫んだ。


「見つけたわ! アンタたち、ソフィーを放しなさい!」

「あ゛? なんだ、テメエはよぉ?」

「アンタたちに名乗る名前なんてないわ。とっ捕まえて憲兵に差し出してやるんだから!」

「俺たちはコイツに用があるんだ。邪魔するんだったら子供でも容赦しねえぜ」

「お生憎様。アタシはもう子供じゃないのよ」

「年は重ねても、大人としての正しい判断ができないお子様のようだ。お前ら、やっちまえ」


 5人組のリーダー格が顎で指示すると、ソフィーを押さえていない2人が抜刀してダーシャに襲い掛かった。


「「オラーっ!!」」

「〈南極大陸〉!!」

「「ぐわっ!」」

「な、なんだ? いきなり壁が…………!」


 斬りかかろうとした矢先、2人の暴漢は現れた氷壁にぶつかって転がった。

 ダーシャが振り返ると、丁度エリンとジェイラが駆けつけたところだった。


「「ダーシャ!」」

「遅いわよ、2人とも!」


 文句を言いたいのはこっちの方だが、そんなことをしている場合ではない。

 この間にも、暴漢共は倒すべき相手に狙いを定めている。


「魔法使いか。厄介だな。先にそいつをやっちまえ!」

「「おう!」」


 両隣の建物に挟まれた、暗くて狭い空間。相手は荒っぽい手練れが5人、こちらは戦闘の素人3人。

 実力でも数でも不利。混戦になったら勝ち目はない。そもそも近づかれるだけで危険だ。

 ならば、近くに来させなければいい。


「チェレン、カモン! あの人たちを止めて!」

「ガウッ」

「「「なっ!?」」」


 いきなり大きなモンスターが間の前に姿を現したことで、突っ込みかけた暴漢共は足踏みしてしまう。


「なんだコイツは!」

「デビルウルフだと…………!? 危険なモンスターがどうしてこんなところに!?」

「ええい、手ごわいぞ! お前ら、ハンターの排除が優先だ。一旦そいつは置いておけ!」

「「おう!」」


 ソフィーを押さえていた残りの2名も参戦。

 しかし、暴漢共とエリンたちの間にはチェレンがいた。


「グルルルル~」

「「「「「うっ…………」」」」


 暴漢共はチェレンに威圧され、足をすくませてしまった。エリンはその隙を見逃さない。

 相手が怯んだ今なら打ち勝つことができる。

 そう確信して、チェレンの陰から魔法を発動。


「ぶっとべ! 〈ナイアガラ〉!!」

「「「「「おわーーー!!」」」」」


 エリンは放った渾身の水流は、暴漢共をさらに奥へと弾き飛ばした。

 ただ、エリンは見落としていた。自分と暴漢共を結ぶ直線、その先にはソフィーがいるということを。


「キャッ!」

「しまった!」


 背の低いエリンが斜め上に向けて水流を放ったこともあって、暴漢共はソフィーの頭上をギリギリ越えていった。

 しかし、直撃こそしなかったものの、空を飛ぶ暴漢の手がソフィーのキャペリンを叩き落とした。


「「「あ!」」」


 すると、大きなつばに隠されていた彼女の素顔が月明かりに照らされ、エリンたちの視線をつかんだ。

 美しくて端正な顔立ち。否、エリンたちの視線を釘付けにしたのは、その容姿ではなかった。




 長くて先のとがった耳。

 ソフィーはエルフだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。